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産業スパイ、破裂するコンデンサ、そして不正(その4 全4回)

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米国証券取引委員会(SEC)の介入 (Securities and Exchange Commission steps in)

 2003年から2007年の間、顧客ニーズの読み間違い、お粗末な顧客サービス、品質問題の懸念(電解コンデンサを筆頭に)、そして不適切会計等、多くの問題がデルを悩ませた。
 2010年7月22日、デルは5年に渡って続いていたSECとの和解交渉を処理する為の潜在的な費用として1億ドルを計上した。(SECはデルの帳簿を調査していた)。SECは、デルがインテルから受け取った、インテルの主要なライバルであるアドバンストマイクロデバイス(AMD)のマイクロプロセッサを使用しないことに対する巨額の支払いを投資家に公表しなかったと主張していた。この公表されなかった排他的購入に対する支払いは、2003年から2007年の間の20四半期連続で、合計43億ドルに及び、デルが収入目標を達成する拠り所になっていた。2007年、デルはAMDのマイクロプロセッサを使用することを発表し、その結果、インテルはその排他的支払い―実に2007年第一四半期のデルの営業収益の76%を占めていた―を止めたのだった。(参照:SECリリース 「SECはデルと経営層を開示・会計不正により告発」“SEC Charges Dell and Senior Executives With Disclosure and Accounting Fraud,” tinyurl.com/jn6463q)
 SECは、デル会長兼CEOのマイケル・デル(Michael Dell)、前CEOのケビン・ロリンズ(Kevin Rollins)そして前CFOのジェームズ・シュナイダー(James Schneider)を開示違反への関与者として、またシュナイダー、前地域財務副社長のニコラス・ダニング(Nicholas Dunning)そして前副経理担当役員のレスリー・ジャクソン(Leslie Jackson)を不適切会計の関与者として、それぞれ告発した。
 デルは、会社として(有罪を認めること無しに)1億ドルの支払いに合意しSECと和解した。マイケル・デルとロリンズは、それぞれ400万ドルの支払いに合意し(400万ドルは、マイケル・デルが該当期間に得たストックオプション収入の1パーセントにあたる)、シュナイダーは300万ドルの支払いに応じた。ダニングとジャクソンもSECの請求を認め和解している。(参照:SECリリース tinyurl.com/jn6463q
 当時のデルの行為は、戦略の失敗、非倫理的な短絡的措置、お粗末な経営陣のリーダーシップ、不十分な会計手続き、そして規制機関による効果的な懲罰的処罰の欠如といったことが不適切に結合した結果である。バージニア大学の経営管理教授であるエドワードD・ヘス(Edward D. Hess)は、デルの事案におけるSECの対応結果に関していくつかの疑問を提起している。
 「SECはデルが複数年に渡り様々な不正を行っていたことを発見してから、なぜこの案件を司法省による刑事訴追に持ち込まなかったのか?そしてなぜデルはエンロンやワールドコムと異なる扱いを受けたのか?・・・取締役会はマイケル・デルに対して、もしCEOとして残ることを望むならば不正会計の結果として得たストックオプション収入を回収する必要があることを通知できたはずなのに、それをしなかった。また、デルの取締役は経営陣を監督する為に独立した会長を選任することもできたのに、それもなされなかった。取締役会は役員報酬の計算方法を四半期単位の収益というゲームの様な駆け引きではなく、長期的な真に創造された価値に基づくものに移行するための改革ステップの公表すらしなかった。」(参照:「デル事案からの不毛な学び」 フォーチュン、2010年10月13日、“Stark Lessons from the Dell Case,” by Hess, Fortune magazine, Oct. 13, 2010, tinyurl.com/jr5nmxn.
 当時のSEC法執行部門の副責任者であったクリストファー・コント(Christopher Conte)は次のように述べている。
 「デルは望んだ結果にならなかった財務結果を作り出す為に、長期間の会計操作を行っていた。デルは、この期間、規則違反によってしかウォールストリートの目標を達成し続けることができなかった。公開会社が一般投資家に知らせる財務結果は、現実が反映されなければならない」(参照:SECリリース tinyurl.com/jn6463q)
 デルコンピュータは、SECの裁定を受けた後、重要な運営改革を行った。株主は訴訟を提起したが、裁判所は幾つかを棄却し、他の株主は控訴審判決前に和解している。2013年に非公開会社に移行してからは、デルの財務情報は機密事項になり、フォーチュン誌によって会社をランク付けされることを防いでいる。
 2015年、デルコンピュータはレノボ、ヒューレット・パッカードに続き世界第3位のPC供給会社になった。(参照:「ガートナー調査、2015年第四四半期の世界PC出荷台数は8.3%減少」 ニュースルームプレスリリース、“Gartner Says Worldwide PC Shipments Declined 8.3 Percent in Fourth Quarter of 2015,” tinyurl.com/hrap52f)。 SEC裁定の後の期間、顧客の選好がラップトップやモバイル機器へ移る中で、デルも含めほとんどのPCメーカーはその市場変化に晒された。しかしながら、デルの最新の(17年度第二四半期)決算数値は、商業PCにおける世界で6.2パーセントの成長と14四半期連続の市場シェアの獲得を示している(tinyurl.com/h82gedh)。

船を立て直す(Turning the ship around)

 多くの米国の家庭は、少なくとも一台のデルのコンピュータかラップトップを保有しており、多くの企業もデル製品を使っている。しかし、SECの裁定の後、デルはビジネスを立て直す為に、破裂する電解コンデンサの修理にかかったよりもずっと多くのものが必要になった。企業も小売顧客もマザーボードの問題が、デルの営業担当者や技術者によって隠されていたことをこれからも長く記憶し続けるのである。

(初出:FRAUDマガジン57号(2017年8月1日発行))

この記事の執筆者

Donn LeVie Jr.
FRAUD マガジンの「キャリアコネクション」コラムへ多数の寄稿をしている。ACFEグローバル・カンファレンスにおける講演者・キャリアストラテジストでもある。彼は本稿であげられた二つの会社(インテルとマーベルセミコンダクタ)で働いた経験を持つ。

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 2003年から2007年の間、顧客ニーズの読み間違い、お粗末な顧客サービス、品質問題の懸念(電解コンデンサを筆頭に)、そして不適切会計等、多くの問題がデルを悩ませた。 2010年7月22日、デルは5年に渡って続いていたSECとの和解交渉を処理する為の潜在的な費用として1億ドルを計上した。(SECはデルの帳簿を調査していた)。SECは、デルがインテルから受け取った、インテルの主要なライバルであるアドバンストマイクロデバイス(AMD)のマイクロプロセッサを使用しないことに対する巨額の支払いを投資家に公表しなかったと主張していた。この公表されなかった排他的購入に対する支払いは、2003年から2007年の間の20四半期連続で、合計43億ドルに及び、デルが収入目標を達成する拠り所になっていた。2007年、デルはAMDのマイクロプロセッサを使用することを発表し、その結果、インテルはその排他的支払い―実に2007年第一四半期のデルの営業収益の76%を占めていた―を止めたのだった。(参照:SECリリース 「SECはデルと経営層を開示・会計不正により告発」“SEC Charges Dell and Senior Executives With Disclosure and Accounting Fraud,” tinyurl.com/jn6463q) SECは、デル会長兼CEOのマイケル・デル(Michael Dell)、前CEOのケビン・ロリンズ(Kevin Rollins)そして前CFOのジェームズ・シュナイダー(James Schneider)を開示違反への関与者として、またシュナイダー、前地域財務副社長のニコラス・ダニング(Nicholas Dunning)そして前副経理担当役員のレスリー・ジャクソン(Leslie Jackson)を不適切会計の関与者として、それぞれ告発した。 デルは、会社として(有罪を認めること無しに)1億ドルの支払いに合意しSECと和解した。マイケル・デルとロリンズは、それぞれ400万ドルの支払いに合意し(400万ドルは、マイケル・デルが該当期間に得たストックオプション収入の1パーセントにあたる)、シュナイダーは300万ドルの支払いに応じた。ダニングとジャクソンもSECの請求を認め和解している。(参照:SECリリース tinyurl.com/jn6463q) 当時のデルの行為は、戦略の失敗、非倫理的な短絡的措置、お粗末な経営陣のリーダーシップ、不十分な会計手続き、そして規制機関による効果的な懲罰的処罰の欠如といったことが不適切に結合した結果である。バージニア大学の経営管理教授であるエドワードD・ヘス(Edward D. Hess)は、デルの事案におけるSECの対応結果に関していくつかの疑問を提起している。 「SECはデルが複数年に渡り様々な不正を行っていたことを発見してから、なぜこの案件を司法省による刑事訴追に持ち込まなかったのか?そしてなぜデルはエンロンやワールドコムと異なる扱いを受けたのか?・・・取締役会はマイケル・デルに対して、もしCEOとして残ることを望むならば不正会計の結果として得たストックオプション収入を回収する必要があることを通知できたはずなのに、それをしなかった。また、デルの取締役は経営陣を監督する為に独立した会長を選任することもできたのに、それもなされなかった。取締役会は役員報酬の計算方法を四半期単位の収益というゲームの様な駆け引きではなく、長期的な真に創造された価値に基づくものに移行するための改革ステップの公表すらしなかった。」(参照:「デル事案からの不毛な学び」 フォーチュン、2010年10月13日、“Stark Lessons from the Dell Case,” by Hess, Fortune magazine, Oct. 13, 2010, tinyurl.com/jr5nmxn.) 当時のSEC法執行部門の副責任者であったクリストファー・コント(Christopher Conte)は次のように述べている。 「デルは望んだ結果にならなかった財務結果を作り出す為に、長期間の会計操作を行っていた。デルは、この期間、規則違反によってしかウォールストリートの目標を達成し続けることができなかった。公開会社が一般投資家に知らせる財務結果は、現実が反映されなければならない」(参照:SECリリース tinyurl.com/jn6463q) デルコンピュータは、SECの裁定を受けた後、重要な運営改革を行った。株主は訴訟を提起したが、裁判所は幾つかを棄却し、他の株主は控訴審判決前に和解している。2013年に非公開会社に移行してからは、デルの財務情報は機密事項になり、フォーチュン誌によって会社をランク付けされることを防いでいる。 2015年、デルコンピュータはレノボ、ヒューレット・パッカードに続き世界第3位のPC供給会社になった。(参照:「ガートナー調査、2015年第四四半期の世界PC出荷台数は8.3%減少」 ニュースルームプレスリリース、“Gartner Says Worldwide PC Shipments Declined 8.3 Percent in Fourth Quarter of 2015,” tinyurl.com/hrap52f)。 SEC裁定の後の期間、顧客の選好がラップトップやモバイル機器へ移る中で、デルも含めほとんどのPCメーカーはその市場変化に晒された。しかしながら、デルの最新の(17年度第二四半期)決算数値は、商業PCにおける世界で6.2パーセントの成長と14四半期連続の市場シェアの獲得を示している(tinyurl.com/h82gedh)。
2020.07.22 16:33:49