強欲のほかにインサイダー・トレーダーを駆り立てるものは? それは誘惑、職業ストレス、背信の感触(その1 全4回)
4大会計事務所のシニア・パートナーであるスコット・ロンドン (Scott London) は、財政的な窮地に陥った相棒をたすけるために内部機密を分かち合ってきた。26年間もの長い間、規範に従ってきたにもかかわらず、なぜ彼は不正に手を染めたのか? 多くが男性であるインサイダー・トレーダー達にとってそれは大概、金銭に目がくらんでのことなのだが、一方で破滅へと走る過剰な野心、征服欲、ゲームの誘惑、アドレナリンの刺激などが作用するのだ。
スコット・ロンドンは欲しいもの全てを持っていたように見えた。4大会計事務所のシニア・パートナーとして彼は成功、名声、そして高給を手にしていた。しかし2013年の3月にFBI捜査官が自宅に現れ、親友であるブライアン・ショー (Bryan Shaw) とのインサイダー取引の捜査が始まったことで、彼の専門職としての経歴と私生活は破滅した。
この話は、ショーから現金入りのカバンを受け取っているロンドンの監視カメラによる写真と共に報道された。ロンドンがKPMGでの直属の上司に知らせると、即刻、解雇された。彼の妻は、ちょうど自分の誕生日にあたるその日、FBI捜査官が帰った後に、帰宅して彼の犯罪を知った。
証券取引不正とインサイダー取引の罪で起訴され、マスコミ記者に話す際、ロンドンは、なぜ内部情報を渡したのか、自分でも答えられなかった。分別はあったと言ったものの、なんだかんだ言ってもそれをやってしまったのだ。それはショーの仕事が上手くいかなかったのを助けようとして始まったことだった。
スコット・ロンドンのニュース・ビデオを私が見たところでは、彼は痛々しいほどあからさまにその行いを恥じて、説明に窮していた。自らの行いが他人を欺き、会計事務所とその顧客、そして愛する家族に損失をもたらしたのだ。(参照:“An Insider Trader Expresses Regrets,”(インサイダー・トレーダーが後悔を示す)by Michael Rapoport, The Wall Street Journal, June 28, 2013, http://tinyurl.com/h3h5va4.)
彼が言い訳により報道機関を操作しようとしなかった点を、私は評価する。彼自身、なぜ、自分の名声と専門的経歴を破壊するに至ったのかを探し求めているようだった。私は、臨床心理療法士として、情緒、感情の表出、話されている言葉が適切かなどを観察し、彼が正直で、どちらかといえば多分やましいところは無かっただろうと結論付けた。
ロンドンは14ヵ月の懲役を言い渡されたが、受刑態度が良好だったことから期間が2ヵ月短縮され2015年に刑期を終えた。以上は次の記事による。“Scott London, Ex-Auditor From Insider-Trading Scheme, Is Out of Prison, Has a Job,” by Michael Rapoport, The Wall Street Journal, June 8, 2015, http://tinyurl.com/qj7oqk4. ブライアン・ショーは、懲役5ヵ月の判決を受け、連邦刑務局によれば2014年の11月に刑期を終えた。
ロンドンは何故、不正に走ったのか? (WHY DID LONDON COMMIT FRAUD?)
30年以上にわたって犯罪分子と一緒に付き合ってきて、大抵の場合、私はすぐに、他人を巧みに操るのが得意な人物を見分けることが出来る。カリフォルニアで若い刑務官として、毎日あらゆる種類の人物を経験してきたからだ。私のポーターであったチャールズ・メイソン (Charles Manson) ほど巧みに他人を操ることができた人物はおそらくいないだろう。このような人間たちに何かを頼まれたとき、あなたが出来る最も賢い反応は、「NOと言う」だけだ。
ロンドンは自分がとった行動に対してのみ責任を取るべきだと主張したが、果たして全面的に正しいのだろうか? 彼は出所後、私のポッドキャスト番組である 「Prison Life(刑務所暮らし)」 (http://tinyurl.com/hwqzfbx ) の収録ためのインタビューに応じ、ショーとのインサイダー取引のスキームにどのようにして関与することになったのかを話した。彼は、自分は友人を助けていたのだと繰り返した。
私はこの件で、いくつかの重要な点に注目した。ロンドンはKPMGで9年間変わらぬポジションで監査を監督してきた。その重なる残業や出張は彼に犠牲を強いてきた。3年間、彼は上司に異動を求めたが、その訴えは聞き入れられなかった。インタビューで彼は裏切られたと感じていたと語ったのだ。
同じ頃、ショーは情報の断片をつなぎ合わせ、ロンドンからの知識を得ることなしで取引をしてそこから利益を得ていた。後日彼はロンドンに、落穂ひろいで集めた情報で取引をしてきたから、もっと情報があればもっと儲けられると言った。
ロンドンは、最初はショーに反対したが、その後、次第に二人は自身の行いを正当化していくようになったと語った。彼は、少額の取引に留めておけば捕まることはないだろうと信じ、もし仮に見つかっても、ちょうどカジノにおけるカード・カウンター(ブラックジャックでの賭博技術で、詐欺とはみなされず、カジノは逮捕できないものの、見つかれば場外追放を求められる)のように「退場」させられるだけだと思っていた。
(初出:FRAUDマガジン56号(2017年6月1日発行))
(その2に続く)