大規模不正:トップ記事の不正事例を分析する フォルクスワーゲンのディーゼルゲート:大失敗が基本的倫理を明らかにする(その2 全3回)
43億ドルの罰金は、環境と顧客に関連する罰金を含む、政府による民事・刑事訴訟が対象となる。この罰金を含め、車の所有者による民事訴訟の和解金を合わせて、この不正が米フォルクスワーゲンにもたらした損失の総額は200億ドルを超えるだろう。これは、間違いなく史上で最も巨額の損失をもたらした企業不祥事の一つである。(参照:“Volkswagen Set to Plead Guilty and to Pay U.S. $4.3 Billion in Deal,”(フォルクスワーゲンは有罪を認め43億ドルを米政府に払って和解) by Jack Ewing and Hiroko Tabuchi, Jan. 10, The New York Times, http://tinyurl.com/guw3tbu)
後戻りのできない道を進む (Heading down the path of no return)
フォルクスワーゲンで長年勤務した経験のある人たちは、同社の経営陣は、排ガス不正全体を「税の最適化」と大差ないものとみなしていると、私に語った。つまり、経営陣は、この不正は法すれすれの行為だが、それほど悪質な事だとは全く考えていない。私は、これは信じ難いと思い、さらに調査をしたところ、この供述を裏づける多数の情報を発見した。
デトロイトで開催された北米国際自動車ショーでの2016年1月10日のNPRラジオ(ナショナル・パブリック・ラジオ)とのインタビューの中で、新たなCEOに任命されたマティアス・ミュラー (Matthias Mueller) は次のように答えている。
NPR:これは技術的な問題であるとあなたは仰いました。ですが、米国の人々は、これは技術的な問題ではなく会社の内部の深い部分に根ざす倫理的な問題だと感じています。米国内でのこのような認識をどのように変えていくつもりですか?
マティアス・ミュラー: 率直に申し上げましたが、これは技術的な問題です。我々には義務の不履行がありました。我々は米国の法律を誤って解釈していました。そして、我社の技術者にある目標を課しており、彼らはこの問題を解決し、米国の法律とは相容れないソフトウェア・ソリューションによって目標を達成しました。こういうことなのです。そして、これは倫理的な問題か?というあなたのもう一つの質問については、私は何故あなたがそう言うのか理解できません。(参照:“ ‘We Didn’t Lie,’ Volkswagen CEO Says of Emissions Scandal,” by Sonari Glinton, Jan. 11, 2016, NPR, http://tinyurl.com/zlrxsqd)
明らかに、フォルクスワーゲンの経営陣の手引には、(我々のとは)異なる倫理の定義が載っているようだ。
公平を期するために、この会話がNPRで放送されてから、ミュラーは「やり直し」を要請してきた。会社は明らかにこの問題の深刻さを認識していた。そこでNPRは別の会話を収録した。ここにその一部を再現する。
ミュラー:昨晩のことについては謝罪しなければなりません。声を上げている皆さんの前で対処するには事態が少々困難になっているからです。お話する機会を与えていただき有難うございます。
NPR:昨日のお話の中で重要な部分は、これは技術的な過失だったということでした。これは英語では「しまった」という風に聞こえますが、実際はそうではなく、技術的な過失以上のことでした。意図したように見えます。
ミュラー:はい。状況については、第一に我々は違反を認めるということです。それについては間違いありません。第二に、我々はフォルクスワーゲン社を代表して、顧客、ディーラー、そしてもちろん規制当局の前で引き起こしたこの事態について謝罪しなければなりません。
不正のトライアングルを適用する (Applying the Fraud Triangle)
不正検査士として、我々は不正をはたらくのは人であり、システムでもコンピュータでもその他の何者でもないということを知っている。それは、選択、つまりクレッシーの不正のトライアングルというレンズを通して我々がしばしば分析する決断なのだ。
報告書や手に入る引用文に基づき、私がフォルクスワーゲンのディーゼルゲートは不正のトライアングルに当てはまると信じる経緯を示す。
(初出:FRAUDマガジン56号(2017年6月1日発行))
(その3に続く)