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大規模不正:トップ記事の不正事例を分析する フォルクスワーゲンのディーゼルゲート:大失敗が基本的倫理を明らかにする(その3 全3回)

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 プレッシャー:フォルクスワーゲンは世界最大の自動車メーカーになるためトヨタと接戦を演じていた。世界第1位になるという戦略において、米国のマーケットシェアを獲得することが重要であった。(興味深いことだが、第1位になりたいという願望は2位に甘んじることより純粋に自己中心的である)
 米国の市場での足掛かりを確保するために、フォルクスワーゲンは欧州のディーゼル車に依存することを望んだ。しかしながら、このことを実現するために、エンジンは、はるかに厳格な米国の排ガス規制基準を満たす必要があった。だが同社はプランBの用意をしていなかった。フォルクスワーゲンの経営陣(特にCEOのウィンターコーン)は、ダイムラー・ベンツからのライセンスを受けた技術の利用という代替案を取り下げた。したがってフォルクスワーゲンは、自社の少人数の専門家にこれを実現するという任務を課した。失敗という選択肢はなかった。よって本当のプレッシャーがトップから真っ逆さまに降りてきた。
 機会:車の心臓部は、排ガスを含め様々なシステムを常にモニターし、制御する複数の複雑なコンピュータ・プロセッサである。フォルクスワーゲンの技術者は、規制当局を欺き、排ガスの要件を満たすことを企て、プロプライエタリ・ソフトウェアのコード、―そのディフィートデバイス(defeat device: 内燃機関を有する自動車において、有害な排出物質を試験の時だけ減らす装置)を書き換えた。これが不正をはたらく機会だった。
 正当化:我々は、フォルクスワーゲンが世界第1位の自動車メーカーになろうと必死だったことを知っている。ドイツ人は、自国でも最大規模の雇用主に愛国的感情を抱いている。
 フォルクスワーゲンは、組織の大義のために排ガステストで不正を行うことを法すれすれの行為だと考えていた。米国の排ガス規制は欧州や世界のその他の基準に比較して厳しいと信じられ、それゆえに不正をしてもそれは重大なことだとは思っていなかった。加えて、同社は他社も法すれすれの行為をして同様のテストで不正をしているのを知っていたようである。
 多くの人間が疑問に思うのは、組織に及ぶ財務リスクの可能性を知りながら組織がどのようにしてディフィートデバイスという考えを見逃したばかりでなく、推進したかということである。この意思決定のプロセスを理解するために、我々は組織の文化と全社的なプレッシャーと正当化を検討する必要があるだろう。
 会社が非倫理的な、不正ですらある行為をする傾向にあるということをCFEに警告することができたであろうフォルクスワーゲンでの兆候は何だっただろう?
・「イエスマン」による権威主義的スタイル
・従業員にかかる不合理なプレッシャー
・意思決定/承認プロセスにおける透明性の欠如
・会社の大義が他の全てに優先するという正当化
・報復を恐れることなく自分の意見を話したい者がそうできないこと

教訓 (Lessons learned)

 倫理的な文化を創造することは困難だろうか?確かにどのような組織にとってもそれは大きな課題である。しかし達成する価値のあるゴールであるはずだ。もしあなたが倫理的な行為について真剣に考えるなら、それを第一優先とするべきだ。トップ10でも二番目でも三番目でもいけない。
 あなたが成功すること、そして組織が成功することは、あなたが自分の組織に関わっていることに誇りを持たせてくれて、かつ我々が人間として達成しようと懸命に努力してきた基本的な道徳的価値観を反映する倫理的な意思決定が到達するレベルによる。一度それを達成するなら、プログラムは第二の天性となり、組織のDNAから切り離せない一部となる。
 CFEの役割は、倫理に関する温度を測定するための利用可能なツールや技法を組織に意識させ、致命的な危機の前に問題のある領域に組織が積極的に対峙するのを助けることである。


(初出:FRAUDマガジン56号(2017年6月1日発行))

この記事の執筆者

Steve C. Morang, CFE, CIA, CRMA
ある公認会計士事務所の上級経営者を務める。また、ACFEサンフランシスコ支部の代表者である。

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