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産業スパイ、破裂するコンデンサ、そして不正(その2 全4回)

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 台湾に逃げたそのチームは科学者が盗んだ電解液製造法のコピーを持っていたのだが、それは不完全なものだった。電解コンデンサの長期的な安定性に不可欠な成分に関する特定の特許部分が欠けていたのだ(参照:前述のPassive Component Independent Magazine誌の記事tinyurl.com/gow8h8e)。結果として、その台湾企業は、欠陥のある製造法による電解液を最低価格で他のコンデンサメーカーに売っていき、最終的に11もの企業が主要なコンピュータメーカー向けのマザーボードでそれを使っていた可能性があった。
 少なくとも4,000時間は機能すると見積もられていたこの台湾製電解コンデンサは、実際には2,000時間の稼働後には故障し始めた。Passive Component Independent Magazineの記事によれば、インテルはたった250時間後にはコンデンサが故障したと主張している。

最初にその警報を聞いたのはごく少数だった (Only a few heard the alarms at first)

 当初は、業界専門誌だけが、この台湾製電解コンデンサの問題を取り上げていた。これらの記事により、関連する機器やその問題について特別な知識を持つ電気技師専門家の間では知られるようになったが、それ以上の注意は引かず、世間の知るところではなかった。
 しかしその後、IT専門家でフリーランスのジャーナリストであったケアリー・ホルツマン(Carey Holzman)が、液漏れするコンデンサに関する発見をインターネットや新聞に発表し始めた。記事にはコンピュータマザーボードの上で破裂したコンデンサのインパクトのある画像がついており、これによって膨張あるいは破裂したアルミニウムのコンデンサ筐体、排出された密閉材、漏えいした電解液についての事実が明らかにされたのである。
 技術に関するブロガーがこの話を取り上げ、様々なPCメーカーが問題は別にあると言ったにもかかわらず、幾万ものコンピュータユーザが、コンデンサが不良の真の原因であると知ることになった。そして、ホルツマンは付け加える。「不具合は保証期間が過ぎた後に起こる」と。(参照:「液漏れするコンデンサがマザーボードを破壊する」“Leaking Capacitors Muck up Motherboards,” by Samuel K. Moore and Yu-Tzu Chiu, IEEE Spectrum, Feb. 1, 2003, tinyurl.com/4prwzuo.)
 影響を受けたPCマザーボード供給業者には、エイビット(Abit)、デル、IBM、アップル、ヒューレット・パッカードそしてインテルも含まれていた。Passive Component Industry Magazineが、不良電解液に関する記事を発表した後、大手の台湾系電解コンデンサメーカーは、不良部品の責任を否定したのだが、実際、その不良電解コンデンサには、有名で社会の評価を受けている会社のものとは異なる馴染のないブランド名がマーキングされていたのだった。デルコンピュータは、この不良電解コンデンサにより最もひどい被害を受けたと見られているがそれはニチコン(Nichicon)製のものだった。

信用失墜の始まり (The start of the fall from grace)

 デルコンピュータの本社は、テキサス州ラウンドロックに位置し、オースティンのテキサス大学からは、州間高速道路35号線に沿ってたったの15マイル北にある。同大学の数学部門にあったデルコンピュータは通常でない頻度で故障していた。マシンを調査した結果、デルはその部門が「難しすぎる」数学の処理を実行し、単純にマシンに対して負荷をかけ過ぎたという結論を出した。テクニカルサポートの対応は信じがたいものであった。(参照:「デルの斜陽を象徴する不良コンピュータ訴訟」、ニューヨークタイムズ、2010年6月28日、“Suit Over Faulty Computers Highlights Dell’s Decline,” by Ashlee Vance, The New York Times, June 28, 2010, tinyurl.com/28r8mqf.
 ニューヨーク市は、2003年から2005年にかけて、5,000台のデルコンピュータのうち1,100台に問題があったと報告した。また、マイクロソフトは、当時一括購入した2,800台のコンピュータのうち300台に不具合があったと述べた。GE、ウィリアムWバッカス病院(William W. Backus Hospital)、デニソン大学(Denison University)、そしてモンタナ州司法省が、皆デルコンピュータで似たような問題を経験した。(参照:「公開された裁判が示唆するデルによるコンピュータ不具合の隠蔽」、 ニューヨークタイムズ、2010年11月18日、“An Unsealed Lawsuit Indicates Dell Hid Faults of Computers,” by Ashlee Vance, The New York Times, Nov. 18, 2010, tinyurl.com/27tjx8s.


(初出:FRAUDマガジン57号(2017年8月1日発行))
(その3に続く)

この記事の執筆者

Donn LeVie Jr.
FRAUD マガジンの「キャリアコネクション」コラムへ多数の寄稿をしている。ACFEグローバル・カンファレンスにおける講演者・キャリアストラテジストでもある。彼は本稿であげられた二つの会社(インテルとマーベルセミコンダクタ)で働いた経験を持つ。

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2020.07.10 15:51:41