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産業スパイ、破裂するコンデンサ、そして不正(その3 全4回)

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デルは不良電解コンデンサに関する情報を顧客から隠した (Dell Computer hid knowledge of bad e-caps from customers)

 2007年、アドバンストインターネットテクノロジー(Advanced Internet Technologies, AIT)は、2,000台のコンピュータの不具合に対する責任を取らなかったことに対して、デルを提訴した。2010年に公開された裁判の文書によれば、デルの現場担当者達は、問題のAITコンピュータを見て、AITが「高温の、密閉された空間で多数のコンピュータを酷使しすぎたと結論づけたのだった。(前述の「デルの斜陽を象徴する不良コンピュータ訴訟」の記事tinyurl.com/28r8mqf. による)。デルのセールスチームは、解決策としてより高価なコンピュータをAITに売りつけることを議論していた。
 ウォルマート、ウェルズファーゴ、メイヨークリニック、そして何千もの大企業、中小企業がデルコンピュータを使っていた。そのうちの一社であるポイントソルブ(PointSolve)は、数十台に一台の割合でコンピュータがほぼ同時に故障したと報告した。同社の社長であるグレッグ・バリー(Greg Barry)は、「デルはその時点でこれを問題として認識していなかったように思われる」と述べている。
 これらの顧客は複雑な数学計算の熱に耐えられなかったコンピュータの犠牲者ではない。デルは不良の電解コンデンサを乗せたPCを彼らに発送したのだ。それを知った上で。

状況は雪だるま式に悪化した (A bad situation snowballs)

 顧客クレームは、すぐにデル本社に溢れ始めた。そして悪いニュースは続いた。オプティプレックスモデルが壊滅的な不具合を発生させる確率は、デルが見積もっていたよりも10倍も高いことを契約企業が発見したのだ。破損したマザーボードは不良品の電解コンデンサを乗せたマザーボードに交換されていった。
 さらに、事態は悪化する。訴訟文書によれば、デルの従業員は、本当の問題を顧客から隠蔽しようとして電子メールで次のようなことまで述べている。「今朝の議論の通り、ボードが悪い、『問題』があるといったあらゆる文言を避けなければならない…」。そして、内部での会議では、デルの営業担当者は、「このことで顧客の注意を積極的に引かないようにし」、「不確実であることを強調するように」指示されていた。
 技術アナリストであり、米国国家安全保障局の前コンピュータアナリストであったアイラ・ウィンクラー(Ira Winkler)はこう述べている。「彼ら(デル)は、何百万台ものコンピュータが不可避の損害を世間に与えていることを知りながら、その損害を修復する機会を人々に与えなかった」(tinyurl.com/28r8mqf
 実際、デルは他社のPCに乗り換えそうな顧客を最初に対応するよう顧客の「優先順位づけ」を行っていた。デルは影響のあるPCモデルについて(製品保証の下でその問題に対応していたIBMが行ったような)リコールを拒否し、予め決められた売上や故障率に合う顧客にだけ対応をしていたのだった。
 他のほぼ全てのPCメーカーは、このマザーボード問題を製品保証または製品交換によって対応した。2005年、デルは故障したコンピュータの交換の為に3億ドルのコストがかかっていることを発表した。(参照:「公開された裁判は数百万台の欠陥コンピュータ不具合についてのデルの嘘を暴く」、ベンチャービート 2010年11月19日、“Unsealed lawsuit reveals Dell lied about millions of faulty computers,” by Devindra Hardawar, Venture Beat, Nov. 19, 2010, tinyurl.com/mbw6wns)
 2007年の監査で、従業員が目標数値の達成を見せかける為に決算報告を操作したことが明らかになり、デルは2003年から2006年、そして2007年第一四半期の収益を訂正した。また、同期間の売上と純利益の下方修正も行っている (tinyurl.com/28r8mqf)。
 大量のPC不具合の発生はデルや他のPCメーカーのせいではなかったが、その影響へのデルの対応の仕方は、数年で、信頼されるメーカーの地位から凋落し市場シェアと顧客を喪失していく第一歩となったのであった。

答えを探し求めている質問 (Questions in search of answers)

 顧客、アナリスト、その他の人々からの問合わせは増える一方であった。
・電解コンデンサによるマザーボードの問題は、デルの決算報告の修正理由に、実際どの程度の影響を与えたのか?
・帳簿の操作を正当化する他の理由はあったのか?
・ウォールストリートの持続不可能な四半期ごとの成長を追い求めるモデルに責任があるのか?
・経営層が会計の正確性の保障を無効化することを防ぐ為、標準処理手続きにどのような追加手段があるべきだったのか?
・デルの内部監査委員会や外部会計監査機関はどうして不適切会計を発見できなかったのか?
・なぜ、こういった関係者の誰も潜在的な不正の可能性を報告しなかったのか?

(初出:FRAUDマガジン57号(2017年8月1日発行))
(その4に続く)

この記事の執筆者

Donn LeVie Jr.
FRAUD マガジンの「キャリアコネクション」コラムへ多数の寄稿をしている。ACFEグローバル・カンファレンスにおける講演者・キャリアストラテジストでもある。彼は本稿であげられた二つの会社(インテルとマーベルセミコンダクタ)で働いた経験を持つ。

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2020.07.17 16:03:02