HOME コラム一覧 記憶に残る事例Part2 もっと多くの指導されるべきためになる話(その3 全4回)

記憶に残る事例Part2 もっと多くの指導されるべきためになる話(その3 全4回)

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 さらに取締役会は、COOが最初の横領後に自分自身を財務上の監督義務から解放するために雇ったコントローラーがCOOのやり方を踏襲し経費精算で不正を行ったのではないかとも疑った。ザックはこの容疑も調査した。
 「以前の57万5,000ドルの横領の多くはコーポレートクレジットカードでの個人的支出に関するものでした」とザックは言う。「したがって、今回の調査における我々の当初の焦点はCOOが最初の横領後もコーポレートカードの悪用を続けていたかどうかを判断することでした。我々の分析は彼女のコーポレートカードによるそれ以上の疑わしい取引はなかったことを確認しました」。
 ザックによれば、この不正調査は多数のインタビュー、書類の分析、電子メールのやり取りの精査、総勘定元帳、仕訳帳とクレジットカードのデータから抽出したデータの鑑識を含むものだった。

さらなる乱用と悪用(More abuse and misuse)

 ザックとそのチームはCOOによる重ねてのクレジットカードの乱用を発見することはなかったが、彼女の不適切な財務監督(彼女とCEOとの契約条項違反)のいくつかと会社資金の悪用を発見した。これらは彼女が正当な取引のように偽装していたが、特定のプログラムへの提供が資金供与者と譲与者により制限されている資金の不適切な使用や多くの関連会社との間での不適切な資金移転を含んでいた。
 「時には、COOが会計部署に対し資金移転や購買をどのように経理処理するかにつき誤った指示を出すこともあります」とザックは言う。「例えば、他の関連会社の名義による不動産の購入に使用する非営利組織から営利関連会社への資金移動に関し、家族は取引を「寄付」費用として支出報告をするよう指示しました」。
 さらに元COOは7万5,000ドルの会社資金をその非営利組織と無関係の訴訟における彼女個人の弁護士費用に使用した。彼女は不正支出を「会社の法務費用」として偽装した。
 もちろんCEOとCOOは取締役会に対しこれらの全ての取引を隠した。
CEOは適正に57万5,000ドルの支出報告をしなかったし、COOが組織に全額を返済することも決してなかった。会計の観点からは、CEOはCOOが組織に対して返済すべき金額を数多くの関連会社間で移動し、最終的にはCOOへの債権ではなく、前払費用として組織の監査済み財務諸表で偽りの表示をした。
 「CEOは、そうすることで、横領、つまりこの勘定の本質を取締役会に開示する必要がなくなり、その家族は組織でCOOとして働き続けました」とザックは言う。
 「我々はさらに驚くべきことを発見しました。COOが雇ったコントローラーはコーポレートクレジットカードを個人の利得のために使っていたのです」とザックは述べる。「我々は彼が取締役会の疑念のとおり、総額1万8,000ドル の数種類の不適切な費用請求を行っていたことを確認しました」。
 加えて、ザックは組織が不誠実なコントローラーに対してコーポレートカードで既に支払済みのものも含め他の不適切な費用2万ドルを支払っていたことを発見した。不正な費用報告は合計3万8,000ドルに達した。
 「しかし、状況は取締役会が想像していた以上に悪かったのです」と彼は語る。「私は、このコントローラーが人事部の従業員と共謀して自分への給与を水増しして約2倍の金額が支払われるように手配し、それに加えて前払給与(資産)として4万5,000ドルの不適切な支出処理を行ったことを発見しました。もちろん、彼はこの前払金を返済しませんでした」。
 ザックは、コントローラーが人事部の従業員と共謀し不適切な人間関係を構築の上、実際には彼らが一緒に取った休暇で使った費用であった1万~1万5,000ドルを出張費として請求していたという明らかな証拠も発見した。
 「組織のトップにおける汚職の文化がコントローラーの不正を安易に正当化することにつながったのかも知れません」とザックは言う。「彼は明らかにCOOの横領隠しを知っていました」
組織は起訴しなかったが、CEOは家族による横領を開示しなかったために辞任した。組織はCEOの家族であったCOOも解雇した。組織は不誠実なコントローラーを起訴せず、彼は現在他の非営利法人のコントローラーである。

(その4に続く)
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初出:FRAUDマガジン50号(2016年6月1日発行)

この記事の執筆者

Dick Carozza, CFE
FRAUDマガジンの編集長である。
翻訳協力:阿部 稔、CFE、CIA

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 さらに取締役会は、COOが最初の横領後に自分自身を財務上の監督義務から解放するために雇ったコントローラーがCOOのやり方を踏襲し経費精算で不正を行ったのではないかとも疑った。ザックはこの容疑も調査した。 「以前の57万5,000ドルの横領の多くはコーポレートクレジットカードでの個人的支出に関するものでした」とザックは言う。「したがって、今回の調査における我々の当初の焦点はCOOが最初の横領後もコーポレートカードの悪用を続けていたかどうかを判断することでした。我々の分析は彼女のコーポレートカードによるそれ以上の疑わしい取引はなかったことを確認しました」。 ザックによれば、この不正調査は多数のインタビュー、書類の分析、電子メールのやり取りの精査、総勘定元帳、仕訳帳とクレジットカードのデータから抽出したデータの鑑識を含むものだった。
2019.01.18 16:22:05