模造品、偽造品、そして闇取引 芸術品に関する不定形な不正に対する世界的な戦い(その3 全4回)
米国では、いくつかの注目すべき芸術品不正の告発があった。その中には、ロングアイランド出身の三流のディーラーであるグラフィア・ロサレス(Glafira Rosales)が、念入りに仕組まれた15年にわたる手口の中で、ニューヨークで最も歴史があり最も尊敬されるギャラリーであるノードラー&カンパニー(Knoedler & Company)を騙して贋作50点を2,000万ドルで購入させたとして、2013年に連邦政府により有罪判決を受けたケースが含まれる。
ロサレスは、自分には抽象表現主義の絵画の宝庫を相続した顧客がいたと主張した。後にロサレスの訴状に記載されたところによると、「〔その顧客は〕東欧系で、スイスとメキシコに家を所有している・・・絵画を相続し、その絵画を売却したいが匿名であることを望んでいた」。(参照:USA v. Glafira Rosales, S.D.N.Y., 2013, http://tinyurl.com/o6jpxon)
彼女の謎の顧客は当然、存在しなかった。その絵画の本当の出所は、元々はマンハッタンの路上で自分の芸術作品を売り、クイーンズのガレージで模造品を作っていた70代の中国からの移民であった。
ノードラーがそれらの贋作を購入した後、まずまずの出来栄えのポロック作に1,700万ドル、ロスコ作と言われている絵画550万ドルを含めて、伝えられているところでは合計6,300万ドルという競争力のある価格を支払いたいと熱望する客を、ギャラリーは見つけた。ポロックの真贋に疑問を抱いたその民間の買い手は、2011年にその絵画をフォレンジック分析に出した。
その買い手がギャラリーにフォレンジックの報告書、つまりポロックが模造品であるという宣言の写しをギャラリーに提示した翌日、ノードラーは164年の歴史ある営業を続けたギャラリーのドアを永遠に閉めた。ギャラリーは今、不満を持った買い手から模造品の不正・共謀・威力脅迫・不正取引を含む申し立てに関する数多くの訴訟に直面している。
芸術品不正ではなく芸術品の盗難を重視(Emphasis on art theft not fraud)
ロサレスのように結果として有罪判決となるような模造品や芸術不正に対する申し立ては、法執行機関の中で芸術犯罪の専門家が非常に限られている米国では稀な例外であり、一般的ではない。「多分、ロサンゼルス市警察(Los Angeles Police Department, LAPD)とニューヨーク市警察(New York Police Department , NYPD)とFBIの3組織だけが、俗にいう専従組織を実際に持っている」とウィットマンは言う。「彼らは専従ではない。FBIをみると、その組織は共同ベンチャーである。チームの各職員はフルタイムではない。並行して行われる業務だ。彼らはその他のあらゆる種類の業務を行う。彼らのうち誰一人としてフルタイムの芸術品盗難の調査員ではない」
ウィットマンは芸術関連の犯罪の80%は不正か偽造品・模造品であり盗難ではないと見積もっている。しかしながら、彼は「一般的には、法執行機関の大多数は芸術品の盗難に焦点をあてている」と言う。
事実、FBIの「芸術関連犯罪トップ10」リストには模造品も不正も全く取り上げられていない。ウィットマンによると、2004年に設立されて以来、FBI芸術犯罪チームが担当してきた事例は芸術品及び骨とう品の盗難に関わっている。地域レベルでは、LAPDは「米国における地方自治体の法執行機関で唯一芸術犯罪調査にフルタイムで従事する」組織であると主張しているが、その「芸術品盗難の詳細(Art Theft Detail)」において、やはり、不正や偽造ではなく、窃盗犯を発見することが調査の命題だと発信している。(参照:http://tinyurl.com/ox43jv8)
このリソースと優先順位における不均衡は、一部には盗難や窃盗がほとんどの不正よりも法執行機関の観点から明確であることが理由である。窃盗犯が美術館から芸術作品を盗めば、犯罪が行われたという明確な証拠があり、法執行機関は他の種類の所有物に対する犯罪調査の標準的な手続きに従うことができる。「刑事は銀行強盗や盗難の調査、窃盗の調査は常に実施している」とウィットマンは言う。「しかし、ピカソが本物か、偽物か、複製かあるいは代用品かということになると、それは彼らの独擅場ではない」
私とのインタビューの中で、マーク・フィシュシュタイン(Mark Fishstein)は法執行機関が盗難を重視していることを認めた。彼は、K2インテリジェンスのアート・リスク・アドバイザリー・プラクティスに昨年入社するまで10年以上、NYPD唯一の芸術犯罪専門の刑事として過ごしてきた。NYPDで働いている間、フィシュシュタインは2010年に1億2,000万ドルの不正による有罪判決を受けたサランダー-オライリー・ギャラリー(Salander-O’Reilly Galleries)のラリー・サランダー(Larry Salander)の案件を含む注目を浴びたいくつかの不正調査に参加した。しかし、フィシュシュタインはNYPDで自分が取り扱った芸術犯罪のほとんどはギャラリーや商業施設からの盗難のケースであるとためらわずに認めた。
(その4に続く)
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初出:FRAUDマガジン49号(2016年4月1日発行)