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なぜ彼らは実行するのか ホワイトカラー犯罪者の胸中(その3 全4回)

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(その2の続き)

不愉快な不協和 (Uncomfortable dissonance)

 高速道路を運転している時、あなたはスピードを上げて何台か車を追い抜き、速度計を見て制限速度の 10 マイル超過の 75 マイルであることを知る、とソルテスは言う。
 自分の夫や妻にあなたは速度を出し過ぎていると指摘される、事故のそばを通りかかる、または警察車両 (パトロールカー) が行く手の道路脇に駐車してでもいない限り、多分あなたはアクセルから足を離さないだろう。行動の変化を動機づけるためにはあなたの直観と矛盾する外的影響や事象のようなある種の不愉快な不協和が求められるとソルテスは言う。
 経営陣は、高速道路の運転者のように「彼らの最初の直観による判断を再考するように刺激する」何らかの不一致を必要としている、と彼は言う。タイコ社の元 CEO、デニス・コズロフスキーは、タイコ社に不適切に借財をさせ 1 億ドルを横領した罪で有罪判決を受けた。ソルテスの著書で、コズロフスキーは CEO としてそのような不協和を経験したことは非常に稀であったと述べている。
 「CEO が部屋にいるとき、取締役は、たとえ独立取締役でも、彼を試したり楽しませたりしたがる傾向がある」とコズロフスキーは言う。「取締役会は私が欲するものは何でも与えてくれる。どんなものでも」
 「我々は自分たちの圧力を信じた。・・・私自身と他の者、取締役会さえも含め、傲慢さで我を忘れ、そしてあなたは、何でもできると本当に考えるようになる」とコズロフスキーは言う。
 ソルテスは、経営陣、実際は誰もが、定期的に「配偶者テスト」を受けると品行が良くなると信じている。
 「深く尊敬し、定期的に率直な会話ができる相手を見つけなさい・・・、あなたが何をしていて、毎日どうしてそんなに一生懸命に働いているのかをただ説明するために」とソルテスは言う。「そしてもし、その人が、これが自分の尊敬する種類の人であり、あなたのしていることに拍手を送りますと言ってくれるならば、それはベストな検証である。あなたはあなたを元に戻してくれる人が必要である。」
 配偶者テストがなければ、経営陣は多様な経歴や視点を持った人に囲まれる必要があるとソルテスは言う。「我々が同じ視点や意見を持った人に囲まれていると、実際に不協和を見ることは少なくなる」と彼は言う。「それゆえ、我々は本当に振り返ることなく心地よく前に進んでしまう。不協和が生じるともう一度その見直しを迫られる」

ベン・ホロウィッツはバブルの外側にたどり着く (Ben Horowitz reaches outside the bubble)

 彼の著書で、ソルテスは、シリコン バレーの著名なベンチャー投資家ベン・ホロウィッツが、外部の人との議論、つまり少々不愉快な不協和がなかったとしたら、どのようにしてバックデート スキーム (訳注:日付操作) の共犯となっていたのかに焦点を当てている。
 2002 年、ホロウィッツは有能な CFO を雇ったが、彼女は経営陣に対して最大限の利益を提供するためストック オプション インセンティブを最適化することを助言した。ホロウィッツはソルテスに次のように語った。彼の新しい CFO は、「自分の前の会社ではストック オプションの価格を付与される月の最低価格に設定する慣習があり、これは、ホロウィッツの会社よりも従業員にとってはるかに良い結果をもたらしていたと報告した。彼女はまた、これはその会社の社外弁護士が設計し、会計監査人が承認したものであるから、法令に十分従ったものであるとも言った」
 しかし、新しい計画を実行する前に、ホロウィッツは、顧問弁護士と議論し、その弁護士は彼に「私は法律を 6 回も見直したが、このやり方が確実に法令の範囲内であることは決してない」と告げた。
 2 年後、ホロウィッツの CFO は彼女と他の経営陣が彼女の前職で受け取ったオプションの日付が間違って記録されていたことを暗示された。彼女は不正なバックデートに関連する脱税で約 4 か月服役し、公開会社の役員や取締役になることを禁じられた、とソルテスは言う。ホロウィッツはソルテスに説明した。「私が牢獄に入らないで済んだのはいくらかの幸運と賢明な弁護士と正しい組織設計にあった」と。
 ホロウィッツは「素晴らしい人物だが、財務と会計の決断に関する限り、彼の直観がいつも完全に的を射ているとは限らないことを理解していた。彼はとても賢く、彼がいつも正しい意思決定を行うことはないことを認識していた。ゆえに彼はいつもシリコンバレーで彼の周りを囲んでいたバブルの外側にいる誰かから第二の意見を欲しがっていた」とソルテスは言う。
 ホロウィッツが収監を免れたのは、「彼がより良い道徳のコンパスをもっていたからとか、より正統な指導者であるとか、より良い価値を持っていたなどの、なぜ人々は不正に関わらないのかについて我々が一般的に思いつく理由からではなかった。ベンの事例でとても力強かったのは、少なくともいくつかの事例でそれらとは全く関係のないことが示されたことである。代わりに、より謙虚な指導者であること、およびどこで我々が危険にさらされる可能性があるかを予想することと関係がある」とソルテスは言う。

(その4に続く)
(初出:ACFE JAPAN 会報誌「FRAUD マガジン」 58 号, 2017/10,https://www.acfe.jp/books/fraud-magazine/ )

この記事の執筆者

Dick Carozza, CFE,翻訳協力:阿部 稔, CFE, CIA
FRAUD マガジンの編集長である。

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