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なぜ彼らは実行するのか ホワイトカラー犯罪者の胸中(その1 全4回)

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 ハーバード大学ビジネス スクール教授ユージン・ソルテス (Eugene Soltes) は、なぜ一流の役員がホワイトカラー犯罪者になるのかを長年探究してきた。彼は有罪判決を受けた約 50 人の犯罪者に面談し、彼らのみならず我々全ての人間が持つ傲慢と謙遜に関する知見を得た。

Inside the mind of the white-collar criminal. Why do they do it?

 ユージン・ソルテスは 2008 年のある晩、テレビのチャンネルを次々変えるうちに MSNBC のリアリティ/ドキュメンタリー番組である「Lockup」に出くわした。そこでは米国全土の刑務所にいる重罪犯とのインタビューを紹介していた。在監者は彼らの人生や、環境、財政的困難、麻薬中毒、ギャングとの関係といった彼らを取り巻く環境が残忍で凶暴な犯罪につながったと説明した。
 大学のビジネス スクールの教授であるソルテスは、異なるタイプの犯罪、つまり誰も Lockup で描かれたような過酷な投獄の人生を経験していないホワイトカラー犯罪者の場合を考え始めた。多くの不正実行犯はとても快適な生活を送っていたが、逆に犯罪は彼ら自身、家族、従業員、投資家や会社に悪影響を与えた。何が彼らをして犯罪に駆り立てたのであろうか?
 ソルテスは好奇心に動かされ、不正の罪で判決を受けた何人かの元役員に手紙を書いた。最初に思いついたひと纏りの質問を彼らに尋ねた。直面した最も大きなプレッシャーは何だったのか? 見返りは意思決定にどのように影響したか? 釈放された時に考えたことは?
 1 か月後、回答が届き始めた。特に強烈な手紙は、コンピュータ・アソシエイツ (Computer Associates、以下「CA」) の元役員であったステファン・リチャード (Stephen Richards) からのものであった。ソルテスは FRAUD マガジンとの最近のインタビューで「彼は美しく流れるような手書きの手紙を送ってきた。刑務所ではマイクロソフトの Word が手に入らないと冗談を言いながら」と語った。
 営業部門の全世界責任者であるリチャードは、四半期が正式に終了した後で顧客が署名した契約の日付を遡るのを助けたとソルテスは言った。リチャードの行動は四半期の収益を膨らまし、会社の株価を一時的に支えた。リチャードを含む 8 人の CA 役員は有罪判決を受けた。「不幸にも世界は白か黒かではない」とリチャードは刑務所からソルテスに宛てた手紙に書いている。「上級経営者は自身の責任に関係なく、生活の大半を灰色の中で費消している、そしてそれは危険で居辛い場所に違いない」
 ソルテスは、現在ハーバード大ビジネス スクールの Jukurski Family 準教授だが、ハーバード ビジネス スクールの MBA と上級管理職教育の履修過程の一部となったリチャードの手紙を基にしたケース スタディを最終的に執筆した (世界 60 の大学のビジネス スクールで学者達がそのケース スタディを使用している)。
 リチャードの事例史により、ソルテスはなぜホワイトカラー犯罪者が「それをしたのか」についての理論を仮定するための探究を開始せざるを得なかった。彼は本格的に 50 人近くの最高位の企業役員と連絡を取り訪問を続けた。この中には、史上で最も重大な企業不正を指揮した、バーニー・マドフ (Bernie Madoff)、エンロンの元 CFO アンドリュー・ファストウ (Andrew Fastow)、スタンフォード・フィナンシャル グループ (Stanford Financial Group) の元会長/CEO アレン・スタンフォード (Allen Stanford)、イムクローン・システムズ (ImClone Sytems:米国のバイオテクノロジー ベンチャー企業) の元 CEO サム・ワスカル (Sam Waskal)、タイコ (Tyco) の元 CEO デニス・コズロフスキー (Dennis Kozlowski) などがいる。
 刑務所との連絡、訪問結果に加え、ソルテスのホワイトカラー犯罪に関する調査の結果は、2016 年の著書、”Why They Do It: Inside the Mind of the While-Collar Criminal”(Public Affairs) として結実した。ソルテスは第 28 回 ACFE グローバル・カンファレンス (2017 年 6 月 18~23 日) の基調講演者であった。

(その2に続く)
(初出:ACFE JAPAN 会報誌「FRAUD マガジン」 58 号, 2017/10, https://www.acfe.jp/books/fraud-magazine/)

この記事の執筆者

Dick Carozza, CFE,翻訳協力:阿部 稔, CFE, CIA
FRAUD マガジンの編集長である。

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2020.10.30 16:55:45