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「大規模不正」トップ記事の不正事例を分析する:東芝の不祥事で武士道に責任を負わせる(その3 全4回)

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(その2の続き)

武士道の影響を理解する (Understanding Bushido’s impact)

 欧米の基準を日本企業に適用する時に課題となる事柄の一つは、事業環境における国民文化の役割に大きな差異があることである。例えば、欧米文化では、我々には「正直は最善の策」という慣用句がある。言い換えれば「正直は報われる」のだ。対照的に、日本の農業経済学者、著述家、教育者、外交官であり政治家でもあった新渡戸稲造は彼の著書「武士道」(原題:“Bushido: The Soul of Japan”(2007, IBC Publishing)) の中で、「もし正直は虚偽よりも多くの現金を得るが故にこれを守るのだとすれば、私は恐れる、武士道はむしろ虚言に耽ったであろうことを!」(新渡戸稲造著「武士道」矢内原忠雄訳, 岩波文庫, 1993 年, p.70) と書いている。武士道、「武士の流儀」とは、武士の行動規範である。(参照:Encyclopaedia Britannica, https://britannica.com/topic/Bushido)
 我々は、日本の上意下達型の文化がいかに企業の違法行為を促進するか理解しなければならない。日本の公開会社の構造は米国の公開会社と同様であり、株主、取締役会、経営幹部が存在する。しかしながら、企業は、株主よりも経営幹部の利益への対応により重きをおいており、これは、侍の規範つまり武士道の一部である「誠 (まこと)」という日本の伝統に基づいている。(参照:academic paper, “Reining in a Culture of Fraud”(不正という文化の統制), by Kevin Engleberg, Emory Corporate Governance and Accountability Review, volume 3, issue 3, 2016, Emory University, https://tinyurl.com/jngfuzm) エングルベルグは、誠の意味するものは「すべてが円滑に進み、調和が保たれるために、他のあらゆる事、真実や正直よりも優先して一人の義務の全てを適切に果たすこと」だと書いている。(エングルベルグは次の研究論文から引用を行っている。“The Olympus Scandal and Corporate Governance Reform: Can Japan Find a Middle Ground between the Board Monitoring Model and Management Model?”(オリンパス事件とコーポレートガバナンス改革:日本は取締役監視モデルと経営者監視モデルの妥協点を見つけられるか), by Bruce E. Aronson, https://escholarship.org/uc/item/9v5803kw)
 言い換えると、社会的調和を達成するための最良の方法は、権威を遵守しそれに服従することである。エングルベルグの論文に引用されたアロンソンの論文によれば、誠は、軍隊の階級構造に似た指導者による指揮命令系統を形成し、この中では、上級経営陣は命令を下し、より下位の従業員は、疑問を持たずにその命令に従順に従うことを期待される。
 これらの価値観を理解することで、企業の会計不正が、野放しの状態で何か月も何年も何十年も経過しても続いた経緯が明らかになる。現代でさえ、下位の部下は、企業の役職者に対して強い献身と忠誠心を示すことを期待される。
 アロンソンによると、誠の原則の下では、組織は自分の責任範囲外の言動を行う従業員を軽蔑する。彼は、このような文化は個人が自分の上司の決定に疑問を持ったり、異議を申し立てたりするのを抑制し、発生する可能性のある問題を外部に開示することを阻止すると書いている。

(その4に続く)
(初出:ACFE JAPAN 会報誌「FRAUD マガジン」57 号, 2017/8,
https://www.acfe.jp/books/fraud-magazine/)

この記事の執筆者

Steve C. Morang, CFE, CIA, CRMA
ある公認会計士事務所の上級経営者を務める。また、ACFE サンフランシスコ支部の代表者である。

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