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「大規模不正」トップ記事の不正事例を分析する:東芝の不祥事で武士道に責任を負わせる(その1 全4回)

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In Toshiba’s scandal, blame samurai code

 株式会社東芝 (以下「東芝」) は、2008 年以来財務目標を達成するために苦労してきた。2015 年に同社は衝撃的な事実を認めた。目標の達成が困難であったという理由で、東芝は複数年にわたり 12 億 2,000 万ドル規模の会計不正に手を染め、その年の 7 月、田中久雄社長 (当時) の辞任に至った。東芝が「強力で立派な日本型コーポレートガバナンスの優等生」であると見られていたことにより、この事件は非常な驚きと共に受け取られた。(参照:“Toshiba: behind the numbers”(東芝:数字の裏側), Financier Worldwide, October 2015,https://tinyurl.com/jztvnwn)
 2015 年に不正を認めてから、東芝の経営者と取締役は内部統制とコーポレートガバナンス・プログラムの改善のために非常な努力をしてきた。だが、2016 年の終わりから 2017 年の初めにかけて起こった問題は、この組織が依然として倫理的問題と 2015 年の不祥事の副作用に苦しんでいることを示している。世界的に有名な象徴的ブランドである東芝がこのように深刻な会計不正の問題に苦しみ続けるのはどのような理由からだろうか? 不正、欺瞞、嘘、そして隠蔽が全世界で約 20 万人の従業員を擁する名高い国際的企業の仕事のやり方になった経緯は何だろうか?
 本稿の分析は、立証された会計不正、および組織の現在の存続を脅かすことにつながった東芝のコーポレートガバナンスの欠陥の根本要因を検証する。

2015 年会計不祥事 (2015 accounting scandal)

 Financier Worldwide の記事によると、東芝の財務の外部調査は、最初の危機の口火を切ったが、同社の上級経営者が非現実的な利益目標を設定したことにより東芝の財務諸表上の虚偽の数値が組織的に主導されたことを発見した。
 Financier Worldwide の記事によると、2005 年に遡ると、東芝の事業部門責任者は、事業部の管理職に不合理なプレッシャーを与え、管理職に達成不可能な財務目標を設定させた。このプレッシャーのため、多くの事業部が疑わしい会計処理を採用することを決定し、会社の監査人からその不正行為を隠蔽した。しかしながら、2015 年の初めに内部通報者による申立てがこの問題を暴露し、調査委員会が「組織的」かつ「意図的」と表現した同社の上級経営者による 7 年間の欺瞞に終止符を打った。
 Financier Worldwide の記事に引用された調査報告書によると、東芝の従業員は、利益の水増し、それらの早期の記帳、そしてその中間にあるあらゆる手段を含む複数の会計不正を実行した。不正行為は、大規模で至るところに蔓延し、しかも長期間継続していたように見える。調査担当者によると、不適切会計の大部分は、おそらく 2005 年から 2009 年の間の西田厚聰元社長の在任中に開始された。
 第三者委員会は次のように書いている。「2008 年度第 3 四半期の営業利益の見込は前月同様 ▲184 億円と報告した。これに対し、西田厚聰は、「こんな数字はずかしくて、(1月に) 公表できない。」などと述べた。」(訳注:株式会社東芝 第三者委員会「調査報告書」, 2015 年 7 月 20 日, p.222)
 これに従って、東芝の従業員は、会計記録を偽り、帳簿から損失を除外した。会社は、その代わりに約 5 億円の利益を報告した。第三者委員会報告書は次のように書いている。「東芝においては、上司の意向に逆らうことができないという企業風土が存在していた。」(同調査報告書, p.278)
 加えて、Financier Worldwide の記事によると、第三者委員会報告書は「上級経営者を含む組織的な関与」と「意図的に利益を嵩上げすることを目的として行われてきた」ことに注目している。

(その2に続く)
(初出:ACFE JAPAN 会報誌「FRAUD マガジン」 57 号, 2017/8,https://www.acfe.jp/books/fraud-magazine/)

この記事の執筆者

Steve C. Morang, CFE, CIA, CRMA
ある公認会計士事務所の上級経営者を務める。また、ACFE サンフランシスコ支部の代表者である。

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2020.10.02 16:20:28