なぜ彼らは実行するのか ホワイトカラー犯罪者の胸中(その2 全4回)
(その1の続き)
契約書の日付の事前印刷 (Contract date pre-printing)
ソルテスは著書で、CA 社の営業部門の全世界責任者のリチャードは、顧客が最も良い条件を取り付けようと最後の瞬間まで待っているため、しばしば四半期の最終日の結果を心配しながら待っていた、と書いている。しかし、それは瞬時にして数百万ドルの商品を売るというとてつもないプレッシャーを与える。期待収益とボーナスはリチャードの努力にかかっていた。
そして、リチャードと彼の営業担当者は、署名ページに会社名、署名者の肩書きを記載して、契約書を急いで準備するが署名欄を空白にしておく。彼らは、契約書に日付のスタンプを押すが、その日付は実際には、契約に最終的に署名する日ではない。
「私の認識では、事前に日付を印刷することは、特定の時刻までに何かが起こる必要のある顧客への単なる補強材料以外の何物でもなかった」とリチャードは、はソルテスの著書の中で言っている。しかし、事前に日付を印刷することで、リチャードと営業担当者は、数日を追加して人為的に四半期を延長し、四半期の締切間近を効果的に楽にすることができた、とソルテスは言う。
最終的に CA 社の数百万ドルの売上は前の四半期に計上され、売上目標を達成または超過し、会社の株価は上昇した。リチャードはソルテスの著書で「これは時期の問題以外の何物でもない」、「私は間違ったことをしているとは感じなかった」と言っている。しかしながら、証券取引委員会 (SEC) はそう (補注:間違ったことをしていると) 感じたのだ。1998 年 1 月 1 日から 2000 年 9 月 30 日まで CA 社は GAAP (Generally Accepted Accounting Principles; 一般に認められた会計原則) に違反して CA 社、顧客またはその双方が署名していなかった少なくとも 363 のソフトウェア契約から 3 億 3,000 万ドル以上の売上を早期に認識していたと SEC は言う (参照:https://www.sec.gov/litigation/litreleases/lr18891.htm )。2006 年、リチャードは 7 年の刑期を言い渡された。彼は 44 か月服役した。
ステファン・リチャードの事案を勉強したソルテスのクラスの学生の何人かは、大部分が既に会社員であるが、リチャードが組織・市場のプレッシャーに屈した安易さを厳しく批判した。「他の学生は、彼のしたことは悪いと評価する一方で、自分自身のキャリアにおいて同じような難題に向き合うことを想像した」とソルテスは書いている。「会計ルール違反により、なぜリチャードが懲罰を受けるに値するのかを合理的に判断するのは容易であるが、販売契約が金曜日または月曜日の日付で作成されたかどうかが、多くの学生の間で怒りや義憤の強い気持ちを形成することはなかった。直観的に感じられることと我々が知的に良いとか悪いとか信じたことの間には不愉快な断絶があった」とソルテスは書いている。
ソルテスは、調査中に、初期の犯罪学者は、犯罪は精神異常、過信、ストレス、貪欲、野心に由来すると論じていることを発見したが、彼らは具体的証拠や補完材料をほとんど示していないと感じた。彼は深耕しなければならないと悟った。
長い時間をかけて、ソルテスは多くのホワイトカラー犯罪者にインタビューしたが、彼は彼らが自分の選択が個人的におよび職業上どのような結果を引き起こすかを見誤ったと認識したと言う。なぜなら、彼らは自分自身および他者に対し彼らの意思決定が有害であると深く感じることは決してなかったからだ。例えば、リチャードは (契約書の) 日付を遡ることが彼の会社を助けていると感じていた。ソルテスは、彼らが有害と認識しなかったゆえ、彼らは自分の一連の行動を中断したり考え直したりすることはなかったであろうと言う。
彼は、被害者の財布から金を盗むには、被害者との非常に密接な関係を伴うと言う。しかし、会社を操作する経営陣は、物理的または心理的な被害者への接近を必要としない。金融犯罪の被害者とはしばしば距離が置かれている。現代の独立当事者間の取引によって、正誤の間にあるリチャードの言う灰色の領域に迷い込むことはとても危険なくらい容易になっているとソルテスは言う。
(その3に続く)
(初出:ACFE JAPAN 会報誌「FRAUD マガジン」 58 号, 2017/10,
https://www.acfe.jp/books/fraud-magazine/)