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汚れたデジタル通貨 マネーローンダリング事案が示すサイバー犯罪者のデジタル通貨利用法 (その3 全4回)

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 マネーローンダリング対策の教育訓練や手続きは、現金取引のリスクに焦点を当てていることが多いが、デジタル通貨がマネーローンダリングにおける脅威であることを実業界はおそらく十分には理解してこなかった。ドラッグ販売のような直接に人と接する犯罪取引において、現金は優れたツールである。テレビドラマシリーズ「ブレイキング・バッド1(Breaking Bad)」が巧みに描写しているが、成功するドラック売人は、金融規制に違反したり資金源に疑念を持たれたりしないようにいかに現金を使うかといった問題を解決しなければならない、と速やかに理解する。家、ボートや車を購入するのに現金を使えば彼らは、必ず少なからず深刻で不愉快な注目を招く。欲しいものを購入できるようにするには、現金を金融システムに投入しても検知されない手法やスキームに工夫を凝らさなければならない。
 デジタル通貨のマネーローンダリングのフローはかなり異なったものとなっている。サイバー犯罪によって得た違法な収益を犯罪者は蓄えつつ、隠したままにしておかなければならない。それを洗浄された収益に変換して使える状態にするには、数ステップを経なければならない。ビットコインが出現して誰でも使えるようになったので、サイバー犯罪者は犯罪収益を洗浄した後の出口を容易に手に入れられるようになった。欲しい物を買う前に、違法な資金を規制のある伝統的な通貨に変換することは、もはや必須でなくなった。このことは決定的な違いだ。
 デジタル通貨によるマネーローンダリングを理解するには、グローバルな性質、他の国際取引モデルとの類似点、伝統的な金融システムとの接点を認識しなければならない。持出しの主な手法は、海外にいるサイバー犯罪者が米国内の被害者から集めた違法な資金を手に入れて、定期的に国外に送金するといったものである。

国外で快適な生活をする犯罪者を起訴する (COMFORTABLE LONG-DISTANT CRIMINALS INDICTED )

 第二の起訴では、ウエスタン・エクスプレス社によるサイバー犯罪に従事した被告(18人)を、マネーローンダリングおよびデータ不正売買スキームの罪で告発した。このうち5人はよく知られた国際的なサイバー犯罪者で、米国で窃盗を実行し、国外で快適に暮らす者たちだ。
 国外にいるサイバー犯罪者を追跡することは有効なのか疑問に思う人が米国の法執行機関や金融業界に多くいるが、今度の事案において国外にいる被告たちを起訴し、送還に成功したことは当局にとって特筆すべきことだ。2人の被告(ロシア人とモルドバ人)はチェコ共和国で逮捕され、ニューヨークに送還され、2010年に有罪を認めた。
 別の被告、ウクライナ人のイゴール・シェヴェリョフ(Egor. Shevelev)は、保養中のギリシャで逮捕され、ニューヨークに送還され、2013年に事実審理のうえ有罪を宣告された。
 シェヴェリョフは、盗まれたクレジットカード情報の売人で、サイバー上のブラックマーケットで世界最大の取扱者の一人である。
 ロシア人とモルドバ人は、前述した再販売/再出荷スキームを更に巧妙にしたバージョンで運営していた。彼らの三角スキームでは、パートナーを募集して、商品をオンライン販売するための宣伝をさせていた。犯罪とは無関係な善意の者が購入商品の決済をすると、サイバー犯罪者が盗んだクレジットカード情報を使ってEコマース・サイトに商品を注文して、購入者に直送させる。
 国際的な被告の一人である、ジミトリー・ブラーク(Dzmitry Burak)は、逃亡中だが、ウエスタン・エクスプレス社の罪で連邦から起訴されている。彼は、クレジットカード情報を売り、オンラインで(パスポート等の)身分証明書を偽造した。
オレグ・コベリン(Oleg Covelin)も、逃亡中だが、ウエスタン・エクスプレス社の罪で連邦から起訴されている。ウエスタン・エクスプレス社を介した資金洗浄を行う一方で、サイバー犯罪による取引を学び、上達した。その後の連邦の起訴によって明らかになったことだが、彼はとても複雑で巧妙なサイバー犯罪の能力あるエリートハッカーであった。
(その4に続く)
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ACFE JAPAN事務局注:
1. 米国のテレビドラマシリーズで、余命宣告を受けた高校の化学教師が低所得者層向けの覚せい剤、メタンフェタミンの密造に手を染めるストーリーである。

初出:FRAUDマガジン52号(2016年10月1日発行)
FRAUDマガジン編集部:この記事は、2016年6月に開催された第27回ACFEグローバルカンファレンスにおける著者のセッションの講演録に一部修正を加えたものである。

この記事の執筆者

John Bandler Esq., CFE, CISSP, GCIH 
法人や個人向けに、サイバーセキュリティ、データ・プライバシー、調査、マネーローンダリング対策に関する法律業務とコンサルティング事業を運営している。ニューヨーク郡地区検事事務所の検察官であった13年をはじめ、20年にわたる行政での経験を持つ。
翻訳協力:谷口和久、CFE, CIA, CISA, CAMS
※執筆者・翻訳協力者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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2019.05.17 16:29:24