汚れたデジタル通貨 マネーローンダリング事案が示すサイバー犯罪者のデジタル通貨利用法 (その2 全4回)
ウエスタン・エクスプレス社の事業は、4年間に約400万ドル規模で、顧客に代わって小切手を受取ったり、預かったり、あるいはその資金を海外へ送金したりするものだった。けれども無許可だったので、ニューヨーク州銀行法に違反した。これが、我々が起訴に至った第一の根拠だった。
為替管理法があることは、金融システムをクリーンにしておくためではなく、違法な行為や収益に対する導管となるのを防ぐための最初のステップだ。資金移動を扱う業者(個人や法人)は法令を遵守して、本人確認や疑わしい行為を政府に報告することを含む、マネーローンダリング対策手続きに従わなければならない。
これらの法令が重要である理由を、ウエスタン・エクスプレス社の犯罪は明らかにしている。同社は本人確認を行わず、明白な偽名口座に振り出された小切手の買取を許容していた。そして、顧客が指定する海外口座やデジタル通貨やウエスタン・ユニオン(訳注:アメリカ合衆国に本拠地をおく、金融および通信事業の会社)を介して、顧客に資金を送金していた。同社はこのローテクな決済方法によって、米国の決済システムを経由して海外に住む顧客が匿名で資金を受取れるようにしていた。
ウエスタン・エクスプレス社は、これとは別に様々なサービスを提供し、その多くは顧客が匿名で資金を移動し、決済できるように設計されたものだった。同社は、送金為替を発行したり、他の送金者や再販売されたギフト券による決済を容易にしたりしていた。
ウエスタン・エクスプレス社のサービスは、小切手買取、送金為替、ギフト券、およびデジタル通貨の交換などの従来型の金融サービスに比べ割高だった。しかし顧客は匿名性に対して高額な手数料を進んで支払った。
だから顧客側に立って評価するときは、サービスに係る費用や使用する際の利便性を精査することだ。伝統的な銀行電信送金やウエスタン・ユニオンやマネーグラム(訳注:国際的送金ネットワークのサービスを行なっている米国の企業)と比べ、デジタル通貨はビジネスにおけるお金と時間が節約できると唱える者は多い。その点は正しい。しかしデジタル通貨を利用する際に、現金から換金したり現金に換金したりするコストが生じるため、トータル・コストで評価しなければならない。例えば、米国に拠点を置くウエスタン・エクスプレス社のある顧客は、現金(すなわち送金為替)をデジタル通貨に換金するのに約5%の手数料を支払った。反対に、海外にいる犯罪者はデジタル通貨を他のデジタル通貨あるいは伝統的な(許可された)通貨に換金するのに、手数料を(時には他の両替業者に)支払った。
デジタル通貨の国外持出し (MOVING DIGITAL CURRENCY OUT OF A COUNTRY )
ウエスタン・エクスプレス社のデジタル通貨交換業を十分に理解し、同社がサイバー犯罪によるデータ不正売買の金融の中心地(ハブ)であることを証明するのに、我々は1年以上かけて同社の記録を分析した。4年で3,500万ドルのデジタル通貨が、同社を通じて移動した。地区検事モーゲンソウによれば、純粋な偶然によるものでなければ、このような金銭が合法であることはないだろう。このような金銭のいずれかが合法であるなら、それは全く偶然の出来事である。ウエスタン・エクスプレス社に対する第二の起訴は、マネーローンダリングおよび関連犯罪によるものであり、犯罪行為からの収益は約200万ドルと特定された。
(その3に続く)
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初出:FRAUDマガジン52号(2016年10月1日発行)
FRAUDマガジン編集部:この記事は、2016年6月に開催された第27回ACFEグローバルカンファレンスにおける著者のセッションの講演録に一部修正を加えたものである。