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迫り来るミレニアル世代を標的にした不正の潮流(その4 全4回)

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ミレニアル世代特有の属性がいかに自らを不正に脆弱なものにしているか

 これらのサイトはこうした情報によって有用なプロファイル情報を作成し、特定のマーケットへ参入したい広告業者にこれらの情報を販売する。だからソーシャルメディアサイトはユーザーに可能な限りの個人情報を提供するよう勧めるのだ。さらに、商工会議所財団の研究によるとミレニアル世代の86%がブランドの好みをオンライン上に公開している。
 こうした標的型マーケティング手法は大変な成功を収めている。テクノロジー企業であるマグネティック(Magnetic)社は、リテイルタッチポイント(Retail TouchPoints)社と共同で2015年に調査研究を行ったが、41%の消費者で自身に高度に関連づけられたデジタル広告や電子メールを受け取った者は、自分のそれまでの嗜好を考慮に入れなかった他の小売業者よりも広告を出した小売業者において若干あるいはかなり多くの金を使っていたことが明らかになった。(参照:http://tinyurl.com/h7yydn7)

34歳以下は信用してはならないのか?(DON’T TRUST ANYBODY UNDER 34?)

 ソーシャルエンジニアリングが邪悪な目的のためにいかにして利用されるかを知っていたとしても、ミレニアル世代は自身の情報を公開し続けている。ジーン・M・トウェンジ、W・ケイス・キャンベル、ナザン・T・カーター著「米国の大人や若者世代(1972年から2012年生まれ)の組織への自信、他人への信頼喪失(2014年)サイコロジカルサイエンス1-12」(“Declines in Trust in Others and Confidence in Institutions Among American Adults and Late Adolescents, 1972–2012,” by Jean M. Twenge, W. Keith Campbell and Nathan T. Carter, 2014, Psychological Science, 1-12. 参照:http://tinyurl.com/ztlk2et)によると、彼らは、ほとんど全ての他人を信頼しない世代であるにもかかわらずこうした行動を続けているのだという。
 我々ならこの不信感が詐欺師達にとって不利益に働くだろうと考えるだろう。しかしながら、異なる結論に到達している専門家もいる。レベッカ・M・ナッシュ博士、マーチン・コーチャード博士は、ブリティッシュ・コロンビアで発見されることなく広がり、合計2,285名の投資家が総額2,400億ドルを騙し取られた抵当詐欺を調査した。その論文の結論を引用すると次のことが言える。詐欺師は、仲良くしている友人の個人情報を喜んで共有してくれるミレニアル世代の一人と信頼関係を構築できれば、簡単に不信感のハードルを越えることができるのだ。(参照:「人々への投資:大規模詐欺におけるソーシャルネットワークの役割」サイエンスダイレクト “Investing in people: The role of social networks in the diffusion of a large-scale fraud,” ScienceDirect, a for-profit site, http://tinyurl.com/pwo76mh)(訳注:サイエンスダイレクトに掲載された論文の全文の閲覧は有償である)
 この論文の著者は、以前の論文「投資家達の間で流布した利益と情報の拡散証拠に関するアンケート調査」エコノミックビヘイビアージャーナル12巻p.47~66(“Survey evidence of diffusion of interest and information among investors,” by R.J. Shiller and J. Pound, 1989, Journal of Economic Behavior, 12, 47-66)において「その条件が論理的な結果に終わろうとそうでなかろうと、個人的、社会的関係がいかに投資家の判断に影響を与えているかを示している。株式購入者に購入を決断させるものは何かを調べるとその理由のほとんどが信頼できる友人が既にそれを行っていたからである」と述べている。(参照:http://tinyurl.com/njjpffh)
 ミレニアル世代は、その前の世代に比べて仲間の肯定感を求める傾向が強いので、こうした現象の影響を受けやすい。商工会議所財団の研究によると、「70%のミレニアル世代は、友人が賛成すると自分の行った決定をより喜ぶ傾向があり、それは他の世代の48%に比べて高い割合となっている」。犯罪者が社会的なサークルのあるメンバーの一人から信頼を得る。それはオンラインを通じてであろうと面識を作ってであろうと関係ない。そうすると、仲間の影響力がそのネットワーク内のメンバーにとって投資を有効なものにしてしまうだろう。たとえその投資が詐欺的なものであったとしても、である。
 ナッシュ(Nash)、ブシャール(Bouchard)、マルム(Malm)によると、この重要なレベルの信頼は、ソーシャルネットワーク上で簡単に広がっていく。無限の詐欺(訳注:Infinity Fraud:ブローカーまたは投資家が特定の株を買わせるか不正な対象に投資させることを目的として人々を騙し、親しくなる手口)と同様にソーシャルグループ内のオピニオンリーダーは、ネットワーク内における詐欺の仲立ちをすることになり、上手に隠蔽された詐欺的な投資に投資するよう影響力を行使することになる。彼らの行動は知らぬ間に新たな投資を誘い詐欺を維持し、最終的にはいわゆるポンジースキーム(ネズミ講)となる。
 不正検査士は伝統的(オフライン)な社交サークルにおいて類似のパターンを見てきたが、その拡散「イノベーションが時と共に特定のチャンネルを通じて社会的システムの構成員へ広がっていく過程」(E・M・ロジャース著「イノベーションの拡散」(第4版)フリープレスから抜粋。“Diffusion of Innovations,” fourth edition, by E. M. Rogers, Free Press)のスピードは、インターネットを通じ既存かつ新規の社会的ネットワークとも相俟って大幅に増しており、かつ、その幅も広がっているのである。

防備を固めよう-波がやってくる (BATTEN DOWN THE HATCHES ― HERE COMES THE WAVE)

 ミレニアル世代は、技術の収束やリアルタイム情報への地球規模でのアクセスを経験してきた。これは、ミレニアル世代の思考、仕事、社会への適合のしかたに明らかに影響してきた。そのような技術を持たない古い世代は、限られた集団や人と直接の面識を持つことによって社会性を身につけざるを得なかったのに対し、ミレニアル世代は、数千マイルも離れた友人や関係者とも近しい関係を持ち、頻繁なやり取りをすることができる。
 ミレニアル世代は、今や職場における最大の集団となり、その割合は近い将来さらに増えて行くであろう。(参照:「ミレニアル世代がX世代を超え、合衆国の労働力における最大多数の世代になる」リチャード・フライ著、ピューリサーチセンター 2015年5月11日号 “Millennials surpass Gen Xers as the largest generation in U.S. labor force,” by Richard Fry, May 11, 2015, Pew Research Center, http://tinyurl.com/mblretz)
 経験豊富な詐欺師達は、ミレニアル世代特有の傾向に気がつき始めている。連邦取引委員会(FTC)の統計によると、詐欺におけるミレニアル世代の被害者の割合は着実に増加している。(参照:「FTC消費者監視ネットワークデータブック」2015年2月号 FTC’s Consumer Sentinel Network Data Book, February 2015, http://tinyurl.com/qf2n857)
 公認不正検査士として、ミレニアル世代を標的とした来たるべき詐欺の潮流にあなたは準備できているだろうか?

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初出:FRAUDマガジン50号(2016年6月1日発行)

この記事の執筆者

Bret Hood, CFE
FBI(連邦捜査局)アカデミー・リーダーシップ・コミュニケーション・ユニット担当特別捜査管理官である。
翻訳協力:神谷泰樹、CFE、CRMA
※執筆者・翻訳協力者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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2019.03.01 17:15:55