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迫り来るミレニアル世代を標的にした不正の潮流(その2 全4回)

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ミレニアル世代特有の属性がいかに自らを不正に脆弱なものにしているか

ミレニアル世代は楽観的過ぎるか?(OVER-OPTIMISTIC MILLENNIALS?)

 ミレニアル世代に共通するいくつかの行動属性は、世代的に不正行為を許しやすいのかもしれない。消費心理学者でY世代の購買パターンの専門家であるキット・ヤロウ(Kit Yarrow)は、ミレニアル世代が被害者になりつつあることを懸念している。2010年9月キンバリー・パルマ―による「MTVの10代の母:金融詐欺の被害者 “MTV’s ‘Teen Mom’: Victim of Financial Fraud,” by Kimberly Palmer, Sept. 8, 2010, U.S. News & World Report.」と題する論文の中でヤロウは、「Y世代の楽観主義的な属性が詐欺や悪徳商法に対して自らを脆弱なものにしている」と指摘している(参照:http://tinyurl.com/3anb5py)。さらに、「他の世代と比較してもY世代は物事が好転すると捉え、最も良い結果を想像する傾向にある。そうしたことが彼らを不用心にしているのだ」という。
 9/11(の同時多発テロ)といった事件と共に成長してきたはずだが、商工会議所財団の調査は、ヤロウに賛同し、ミレニアル世代は他の世代と比較しても楽観的である、としている。2012年41%のミレニアル世代が米国経済について満足しているとし、30%が最大だった他の世代と比べても高い。
 「事態がそのうち最善の結果になると信じる」という決定的な感覚が意思決定における楽観主義的偏見を生む、というのが、エコノミストであるアナット・ブランカ、ドナルド・J・ブラウン著の2010年の研究論文「情緒的意思決定:楽観主義的偏見の理論  “Affective Decision Making: A Theory of Optimism Bias,” by economists Anat Bracha and Donald J. Brown」である(参照: http://tinyurl.com/z3t5ekc.)。
 ブランカとブラウンの論文によると、「意思決定者は、確率論的な信念〔ある種の結果の確からしさを信じること〕を選択する自由を持ち、彼らはしばしば楽観主義になる。すなわち、自分にとって好ましい結果寄りの信念を選択するようになる」
 そこで、ブランカとブラウンの結論に基づき、筆者は以下のように推測する。不正行為者がミレニアル世代に不正行為のスキームを提示すると、その楽観主義的な属性により彼らは望ましい結果が生じる可能性を過大に評価してしまう。もし、否定的な結果が生じる可能性についてほとんど、あるいは全く考慮しないなら、ペテン師達の壮大なイメージを受け入れて易くなり、必要なチェックも行うことなく、言われるがまま自分たちの金を渡してしまうことになる。
 よく知られたイメージに従えば、ミレニアル世代はナルシストと考えられている。ジェンナ・ゴードリュー著フォーブス誌2013年1月15日号「ミレニアル世代は『勘違いナルシスト』か?“Are Millennials ‘Deluded Narcissists’?” by Jenna Goudreau, Jan. 15, 2013, Forbes」によると、ミレニアル世代は、国内の大学一年生の5分の4がアンケート調査に対して自分たちを「平均以上」と位置づけ、自身を才能に恵まれていると考えている学生の割合もこれまでになく最も多くなっている。
 ミレニアル世代の自信過剰は、詐欺師達に抗しきれなくなるかも知れないことを証明するかもしれない。証券監督者国際機構(IOSCO)は、2015年の報告書において自信過剰は不正行為の被害者になるかどうかの決定にあたって重要な因子となる、としている。(参照:ジェームズ・ラントン著「不正行為の被害者の多くは『自信過剰な教育を受けた中年男性』である」インベストメントエグゼクティブ2015年5月6日号。“Majority of fraud victims are ‘overconfident educated middle-aged males,’ ” by James Langton, May 6, 2015, Investment Executive, http://tinyurl.com/guhpltr)
 国立衛生研究所(National Institute of Health)によると、自己愛性人格障害の発生は20代が60代に比べて3倍になるという。(参照:ジョエル・スタイン著「ミレニアル世代:私が私が私が世代」タイム誌2013年5月20日 “Millennials: The Me Me Me Generation,” by Joel Stein, May 20, 2013, Time, http://tinyurl.com/q9dosty)

技術に詳しいがソーシャルメディアの習慣に甘い(Technically savvy but lax social media habits)

 技術的な専門性の高さがミレニアル世代の最も顕著な特質かもしれない。子供の頃からインターネットに習熟しているため、仕事、コミュニケーション、買物から社交生活に至るまで電子機器を利用する。しかしながら、米国の消費者信用情報会社であるエクイファックス(Equifax)によって実施された新しいオンライン上の「You Gov」リサーチによると、そのテクノロジーに関する知識や抵抗感のなさにもかかわらず、英国におけるミレニアル世代は、自身の個人情報を保護することについては驚くほど無頓着だというのである(参照:「Y世代 銀行口座詐欺についての最大の懸念-その大半のリスクはまだ取られていない」2015年10月23日。“Generation Y the Most Concerned About Bank Account Fraud – Yet Take the Most Risks,” Oct. 23, 2015, http://tinyurl.com/hh4tf3w.)。
 報告書によると、ミレニアル世代はごく普通にPIN情報やオンラインパスワード情報をスマートフォン上に保存している。この世代の驚くべき判断力のなさが銀行詐欺被害の最大の懸念となっているのだ。エクイファックスのアンケート調査によるとミレニアル世代の54%は、同一のパスワードを複数のオンラインパスワードとして利用していることを認めている。これは、英国全体の平均より14%高い。同一のパスワードを複数のサイトで利用することは犯罪者達が一つ以上のアカウントにアクセすることを許すことになり、さらなる金銭的な損失の機会を増大させることになる。
 ライフロック(LifeLock)の支援を受けてジャヴェリン・ストラテジー・アンド・リサーチ(Javelin Strategy and Research)によって行われた「2015年 身元情報窃盗に関する研究報告」によると、2014年に1,270万人の米国の消費者が身元情報窃盗の被害者となり、被害額は160億ドルとなっている(参照:ジーン・シャツスキー著「個人情報窃盗:見るべき4つのトレンド」フォーチュン 2015年3月4日号  “Identity theft: 4 trends to watch,” by Jean Chatzky, Fortune, March 4, 2015,http://tinyurl.com/hh4tf3w)。
 ミレニアル世代に属する者の盗まれた電話は、犯罪者達にクレジットカード口座、銀行口座、その他の不正行為者達が当人の友人や関係者達をいとも簡単なスピアフィッシング(訳注:フィッシング詐欺と呼ばれるインターネット詐欺の手口の中でも、特定のターゲットに対して重要なデータや個人情報を奪おうとする手法)の技術を通じて標的にするために利用する個人情報を提供してしまうことも十分考えられるのだ。

(その3に続く)
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初出:FRAUDマガジン50号(2016年6月1日発行)

この記事の執筆者

Bret Hood, CFE
FBI(連邦捜査局)アカデミー・リーダーシップ・コミュニケーション・ユニット担当特別捜査管理官である。
翻訳協力:神谷泰樹、CFE、CRMA
※執筆者・翻訳協力者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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2019.02.15 16:53:21