HOME コラム一覧 さまよう署名スタンプ 不十分なコントロールにより公共交通機関が負った25万ドルの代償(その4 全4回)

さまよう署名スタンプ 不十分なコントロールにより公共交通機関が負った25万ドルの代償(その4 全4回)

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 また、彼女のTCATにおける職務において内部統制が欠如していたため、彼女は明らかに不正の機会を有していた。買掛金システムにおいて新規業者を作成することができるということは、署名スタンプへのアクセスと相俟って、不正行為への致命的な組み合わせといえる。
 我々は彼女の不正の正当化に関する行動について未だに聞かされてはいない。彼女が詐取した資金を返金するつもりだったのか否か、あるいは彼女は自分の報酬が少なすぎる、または人事評価が低すぎると感じていたか否かは不明である。

一人の切れ者の検事(ONE SHARP PROSECUTOR)

 2014年4月2日、地区検事補 ダン・ジョンソン(Dan Johnson)(不正行為者とは無関係)率いるトンプキンス郡地区検察局は、ジョンソンに対し第二級窃盗罪を求刑した。彼女は無罪を主張し、そして後日、誓約保証金を積んで釈放された。
 彼女の無罪の申し立てに続き、その検事補は、ジョンソンと彼女の夫であるロバート・A・ジョンソン(Robert A. Johnson) は、銀行口座、年金資産、ニューヨーク州コートランドにある不動産を含む様々な資産を保有していたことを見つけ出した。彼は、最高裁判事 ロバート・C・マルビー (Robert C. Mulvey) に対し、ジョンソン夫妻が所有する資産24万7,785ドル相当の一方的な差押え命令の申請を行ったのだ。
 裁判所資料は、2014年5月21日、マルビー判事は、一部であるが検事補の一方的な差押に関する請求を認めたのだ。これにより、この犯罪事案における将来の賠償命令を満足させるに十分な資産の凍結をすることができた。

TCATの決意と変革(RESOLUTION AND CHANGES AT TCAT)

 2015年6月24日、判事 ジョン・ローリー (John Rowley) は、(ジョンソンが第二級重窃盗罪につき有罪と自らの申し立てを変更した後に)ジョンソンに対し、トンプキンス郡の監獄における禁固90日、自宅監禁90日、ならびに執行猶予5年の判決を言い渡した。「これは寛大な判決だと私は思っている。適切だという確信は全くない」とローリーは述べた。裁判所による先の一方的な差押命令のおかげで、24万7,785ドル満額の原状回復が確実である。郡は、ジョンソンと彼女のいまや元夫により最近行われた不動産売却の資金から回収を行い、その資金をエスクロー勘定に保管し、TCATに送金した。
 裁判所はTCATが負った法的費用と監査費用それぞれ7,200ドルと2万9,898ドルの払い戻しを裁定した。ニューヨーク州法によれば、この原状回復は、差押の一方的命令から郡が既に得た資金から賄うことはできない。よって。TCATはこの判決金を回収しなければならないのだ。
 TCATは、組織内の内部統制とシステムの評価をするために、ニューヨーク州ロチェスターのあるフォレンジック監査チームと契約した。その過程から生まれたいくつかの改善された手続きは以下のとおりである。
1. 発注を行うには、現在、購入依頼が必要である。
2. 全ての発注書は、現在、買掛金請求書に添付されなければならない。
3. マネジメントは従業員の会計システムへのアクセスレベルをレビューし、変更した。
4. TCATは、買掛金システムの中から、現在使われていない、または陳腐化した業者を削除した。
5. 現場スタッフは、現在、毎日メールを開封し、受取小切手のリストを作成し、全ての小切手に制限的な取立委任裏書を実施している。
6. TCATはコンピューターシステムにパスワードセキュリティ手続きを実施した。
皮肉なことに、外部のフォレンジック監査チームは、その提言の中で、さまよう署名スタンプのことに言及しなかった。
 一般職の会計アシスタントがTCATをペテンにかけたことに、誰も異議を呈することはできない。しかし、外部の独立監査人がその不正行為を発見した後、取締役会やマネジメントが決断力をもって行動したことに一定の慰めを見いだすことはできよう。彼らは、横領金額の確定のために、監査人に調査を許可した。それから、彼らは、フォレンジックの専門家を招き、監査人の発見事項の正当性を検証し、提言を策定させた。マネジメントは、迅速にそれらの内部統制を実行した。このプロセスを通じ、取締役会とマネジメントは透明性を維持し、公に責任を認め、迅速なアクションを約束した。彼らは、郡地区検事と協力し、横領を起訴し、最終的に満額の原状回復を受け取った。
 この事件は確かにこの組織にとって手痛い学習経験であった。TCATのアシスタント・ゼネラルマネージャーが、イサカ・ジャーナルのニュース記事(参照:「TCATの元従業員が収監される」“Former TCAT worker gets jail,” by Kelsey O’Connor, June 25, 2015, http://tinyurl.com/p8uoqua)で語っているように「ジョナサンの横領は一個人ではなくコミュニティ全体に対する犯罪であった」のだ。

原注:
References
Read news articles about the fraud from the Ithaca Voice and Ithaca Journal, http://tinyurl.com/p8uoqua.
Read the report of Investigator Frederick Myers of the Ithaca Police Department, http://tinyurl.com/o5dz3xa.
Read Assistant District Attorney Dan Johnson’s affidavit in support of Ex Parte Order of Attachment, http://tinyurl.com/ouavegc.
Read Judge Robert C. Mulvey’s Ex Parte Order of Attachment decision, http://tinyurl.com/qc36x3n.
Read the plea bargain and sentencing documents for this case, http://tinyurl.com/07hewml

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初出:FRAUDマガジン49号(2016年4月1日発行)

この記事の執筆者

John E. “Jack” Little, CFE, CPA
ニューヨーク州イサカのコーネル大学のダイソン応用経済学マネジメントスクールで会計学の上級講師を務め、地方弁護士でもある。以前は、Ciaschi, Dietershagen, Little, Mickelson & Company会計事務所のマネージングパートナーでもあった。この記事にあるいずれの情報も同会計事務所から得られたものではない。全ての資料はTCAT、トンプキンス郡裁判所資料、あるいは新聞によるものである。

Jason H. Grossman
コーネル大学のダイソン応用経済学マネジメントスクールを最近卒業し、会計、ファイナンス専攻の学士号を取得した。彼は、Ernst & Youngのニューヨークオフィスで働いており、最近、統一CPA試験の4教科をすべて修了した。
翻訳協力:
波多野 日出夫、CFE、CIA
※執筆者・翻訳協力者の所属、保有資格等は本記事の初出時のものである。

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