神の恵みは我のもの なぜ、礼拝所は不正行為の犠牲者になるのか(その4 全4回)
(補足)著者が調査に関与した教会での不正事例
牧師が新しい協会の立ち上げに関して不正を行った事例(Pastor’s new fraud startup)
ある教会の牧師が教会のクレジットカードを個人的な出費に使用し、また現金を引き出していた。教会はその牧師に対し、教団の上層部が管理しているのとは別の預金を引き出せるデビットカードの使用も許可していた。なぜなら、新しい教会の立ち上げのため、教団は教会の諸費用と牧師の給与を賄うため資金を出していたからである。牧師は教団上層部には「献金が少ない」と報告していたが、実際には献金や預金の大部分を秘密の銀行口座に預金していた。そして、自分や妻の衣服、妻のネイルケアやヘアサロンの代金、自分や家族の食費や遊興費など教会と関係ない個人的な出費に使っていた。
ある信者が教団の上層部が牧師の給料を補填していることを知っており、「あの献金はどこに行ったのだろう」と電話で懸念を示したことから、上層部は不審に思った。
会計係が架空の仕入先と管理人を仕立てた事例(Treasurer’s bogus vendors and custodian)
ボランティアで教会の会計係を担当していた女性が、実際の仕入先と似た受取人名で請求書を偽造した。彼女は請求書の支払や小切手の裏書を担当しており、別の町でLLC(有限責任会社)として銀行口座を開き、手書きのサイン入りの小切手をその銀行に郵送した。小切手を受け取った銀行はその裏書について何の疑問も持っていなかった。
また、彼女は、管理人として架空の従業員をでっち上げて自分自身に少額の金銭を支払い始めた。彼女は小切手に裏書し、現金化して引き出した。銀行はこの裏書に関しても、何の疑問も持っていなかった。
IRSへの納税資金を横領した事例(Collecting the IRS’ portion)
片田舎の小さな教会で会計係のボランティアをしている女性が、IRS(米国内国歳入庁)とよく似た名前の受取人宛てに小切手を振り出した。彼女はその小切手をIRSに似た名前の架空会社の口座に給与支払税(訳注:賃金税ともいう。雇用主が支払う税で、それを基にした財源から被雇用者が失業した時に失業手当が支払われる。日本の雇用保険に相当する)として振込んだ。彼女は給与支払税の支払を示す還付金申告書を四半期毎に提出していた。当然のことながら、このスキームはIRSが教会に「四半期毎に給与支払い税の還付金が申告されているのに税の支払いがない」と連絡したことから発覚した。
会計係が自分に恵みを施した事例(Treasurer is benevolent to herself)
会計係のボランティアをしている女性は(恵まれない人への寄付金を含む)慈善基金(benevolence fund)に署名する権限を持っていたが、この基金から誰に寄付をしたか牧師に報告していなかった。牧師がある人の家賃を賄う分のお金を要求した時、教会役員はこの基金が底をついていることに気がついた。その会計係は、基金を自分や家族の個人的支出や家族の家賃の支払いに使っていたのだ。
アッシャーが多額の献金から少額窃盗を行った事例 (And a little off the top for the usher)
ある大きな教団は、教会援助基金(ancillary ministry fund)を通じて同じ教団内の新しい小さな教会を支援していた。小さな教会のアッシャー達は大きな教会の礼拝中に多くの信者から献金を集め、通りの向こうの自分達の教会に歩いて帰った。アッシャー達の1人が献金袋からお金を抜き取り、自分のポケットに隠した。大きな教会はそのアッシャーにかつて少額窃盗の容疑で有罪判決を受けていた過去があったことを知らなかった。
教会の物品が質屋とその友人に流れた事例 (From the church to a pawnbroker (and his friends))
ある大きな教会の建物の管理責任者は、音響機器、楽器、その他建物の清掃のための機械設備の一切を管理する責任を負っていた。その管理責任者は、機械設備を盗んで警察に虚偽の盗難届を出した。教会は保険会社に保険金を請求して、代わりの機械を購入した。犯人は盗んだものを他の小規模な質屋向けに盗品買受人(fence)をしている質屋に持ち込んで売った。犯人は音響機器を別の質屋に質入れしようとしたが、そこの質屋の主人は正直者だったので警察に通報した。建物の管理者の人相が犯人と一致したため、彼は悪事を白状した。
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初出:FRAUDマガジン46号(2015年10月1日発行)