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神の恵みは我のもの なぜ、礼拝所は不正行為の犠牲者になるのか(その2 全4回)

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何の準備もない上層リーダー達(Unprepared top leaders)

 私は本稿のために700~2,000名の信徒を持つ教会の牧師にインタビューした。その中で実際に不正行為の被害者を受けた者の多くは、内部統制の監視や実務を行う職員をどのように経理上監督すればいいか知らなかった。要するに、これらの牧師達は不正スキームやその防止方法についてほとんど知識がなかった。
 礼拝所はビジネスそのものである。もちろん、牧師、ラビ(訳注:ユダヤ教の僧侶)、イマーム(訳注:イスラム教の僧侶)は神学論、カウンセリング、パストラルケア(訳注:宗教的指導者から与えられる心理療法的なケア)、 説教、その他の宗教科目を専攻しており、ビジネスの学士号を持っている人はほとんどいない。しかし、小規模な信徒集団であっても、献金を集める、支払処理を行う、会計委員会の監視を行う等の事業取引を行わなければならない。
 大規模な信徒集団、巨大教会(訳注:メガチャーチとも呼ばれる)では、巨額の金銭のやり取りや事業取引があるので、内部統制までも必要である。牧師達は皆、「信者の世話をするのに忙しくて献金や支払等、金銭を扱う職員やボランティアを監視する暇がない」と言う。そうは言っても、不況になれば人々は献金額を減らすので教会予算も減るのが普通だ。そして、景気が悪くなれば犯罪者も金銭的に苦しくなり、更に礼拝所を狙うようになる。
 牧師が不正を発見した時、困惑したり恥ずかしいと思ったりするだろう。なぜなら、財務面の監視機能が全くないことについて自分が全面的な責任を負わなければならないと信じているからだ。あるいは、「不正の防止や財務的マネジメントは牧師の業務の範囲外だ」と言って自分を正当化する牧師もいるかもしれない。

高まる脆弱性(Heightened susceptibility)

 礼拝所での盗みは簡単だ。なぜなら、信者は教義の大前提として他人を信用することを教えられているからだ。信心深い信者は、自分達のリーダーや他のメンバーが横領するとは考えておらず、不正は「外の俗世間で起こっていることで、自分達には関わりない」と思っている。だから、職員やボランティアを信用し過ぎた結果、職務分掌が疎かになり、内部統制が不適切になったりする。
 これとは逆に、職員とは違ってボランティアは不正をはたらかないと考えているリーダーもいる。しかし、私は、会計係、献金の管理係やアッシャーなどのボランティアが横領だけを目的として協会の指導者層の中に入り込んだのを見たことがある。
 私が牧師の職に就いていた時には、ボランティアを心から歓迎していた。なぜなら、ボランティアを申し出てくれる人は なかなか見つからず、引き受けてくれる人を探すためには貴重な時間を割かなければならないからだ。しかし、教会が成長していく間、有給の職員を採用する余裕がなくなると、リーダー達がボランティア・スタッフの身許調査や推薦状を入手する等のチェック機能が適切に働かなくなる。これらは大きな悲劇を生む行為だ。
 不正を働くボランティアには2つのタイプがある。終身ボランティア(Tenured volunteer)は長年のメンバーで、会計係など教団内での信用あるポジションに就いている。また、牧師の親しい友人であることにより、疑われる余地のない地位を守っている。彼らは何年も同じボランティアの仕事をしており、コミュニティの中で中心人物だったりする。皆がお互いに決して不正をしないと信じている。しかし、彼らの不正スキームは進行中だ。スキミング、支出不正、架空業者不正、給与不正、回収不正などが長い間繰り返される。そして、このようなボランティアが行った不正取引はほとんど精査されることがない。
 第二に、異常に熱心なメンバーには要注意だ。彼らはボランティアとして空いたポジションの人材を求めている教会に突然現れて、金銭の取り扱いを全面的に任される。彼らは、時代の要請(そして脆弱性)に応えるかのように謙虚な救世主として現れる。このようなボランティアは重要なポジションが空くのを狙っている可能性もある。時には、集会やコミュニティの新たなメンバーとして加わるが、信仰への情熱や意欲によって周囲に強い印象を与える。まるで「白馬にまたがったコソ泥」である。
 礼拝所では職務分掌が適切ではないため、不正に弱い。特に小さな教会では献金の収集と預金、小切手のサイン、給与処理、支払い等を一人で行っていることが多いので 不正が行われやすい。

(その3に続く)
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初出:FRAUDマガジン46号(2015年10月1日発行)

この記事の執筆者

Stanley F. Seat, D.Min., J.D., CFE, CPA
テキサス大学(アーリントン)の事業法と税法の客員教授である。
教会における不正とフォレンジックを専門とし、ナザレ教会(the Church of the Nazarene)で聖職を授けられた。テキサス州とルイジアナ州のCPA資格を持つ。

翻訳協力:佐藤 恭代 CFE、CIA、CPA(ワシントン州)
※執筆者の所属、翻訳協力者の保有資格等は本記事の初出時のものである。

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2018.07.05 18:24:33