HOME コラム一覧 申し訳ございません、おかけになった「不正」へは現在おつなぎすることができません。パート2(その1 全4回)

申し訳ございません、おかけになった「不正」へは現在おつなぎすることができません。パート2(その1 全4回)

post_visual

SORRY THIS FRAUD HAS BEEN DISCONNECTED

ある電気通信会社における150万ドル規模の不正

$1.5 million fraud at a telecommunications company

この記事は許諾を得て、「贈収賄事例集:テーブルの下からの眺め “Bribery and Corruption Casebook: The View from Under the Table” 」Laura Hymes, CFE, and Dr. Joseph T. Wells, CFE, CPA編、John Wiley & Sons Inc.社、2012年 より引用したものである。この事例における人名と組織名は変更した。

 パート2では、筆者の不正調査が開始され、ダン・ジャクソンに証拠が襲い掛かる。ジャクソンは起訴と訴追の間、強情な態度をとり続ける。

 パート1は、NyTell社のデータセンター統合(DCC)プロジェクト会計監査役クロエ・ポルテラ(Chloe Portela)がDCCプロジェクト費用の70%が使用され、それが予算を30%超えていると計算したところで終わった。彼女はプロジェクトで使用している外部業者の一つITCの請求書のコピーを引っ張り出した。クロエはその会社について今まで知らなかった。彼女はパニックになり、自分の上司であるCFOのノックレコート(Nokklekort)に話をし、ノックレコートがNyTellの不正調査担当者である筆者を呼び出した。経営陣は非常に憂慮していた。

 経営陣の期待をコントロールし、推測で興奮状態とならないようにさせるのが重要だと私は経験から学んでいた。会社での仕事が興奮するほど面白いことはまれで、不正や重大な不祥事が発生した場合でも、もともと恐れていたほどには深刻でない傾向があるものだ。もちろん、常にそうだとは限らないが。
 この時までにNyTellはITCとTESからの請求書64通に対し支払いを行っていた。私との会議の場で、ブルック・ノックレコートCFOが25,000ドルを超える請求書に承認サインをしたのは、単純にCIO(最高情報責任者)のチェット・プランプトンと会計監査役のクロエ・ポルテラの二人を信頼していたからだと説明した。それは二人が、請求書上にダン・ジャクソンが書いた「支払OK」の文字を見て承認したのと同様だった。ブルックは私に全部門を私の意のままに使ってよく、また既にチェットには、全てにけりがつくまでプロジェクトは中断するよう指示したと言った。おまけに彼女は「私はすでにオスロに電話したけど、あなたが大西洋の向こうからの悲鳴を聞かなかったとしたら驚きだわ」といった。
 購買部門のオリー・エックマー(Ollie Eckmer)にすぐに電話し、どちらの会社にも契約書や作業明細書、料金体系表などが無いことを確認した。ITCもTESも請求書以外のプロジェクトに関連する書類はなさそうだった。
 買掛金部門の担当者のナンシー・リン(Nancy Lynn)によるとDCCプロジェクト以外ではNyTellは他のどのプロジェクトでも両社への支払いはなかった。ナンシー・リンはBOONISにアクセスし、ITCとTESの請求書のコピーをくれた。私は請求書を精査し、興味をそそられる点が二つあることに気が付いた。一つ目は、各々の請求書にダンによる「支払OK」という記入とサインがあったことだ。これらの請求書はBOONISから直接取得したPDF画像だった。これは、NyTellに支払請求が送られてくる前にダンが請求書を承認したことを意味していた。
 二つ目は請求書のタイムスタンプだった。請求書の日付は異なっていたが、ほとんどのタイムスタンプが請求書の日付と同時になっていなかった。複数の請求書のタイムスタンプは同じだった。これは請求書が個々にではなく、むしろまとまって提出されたことを示していた。
しかし、それはなぜだろう?どんな業者が請求書をそのままにして、積み上げるというのだろう?タイムスタンプ毎に請求書を並び替えると、多くが暦の四半期の終わりに近い時期に提出されていた。私はクロエに暦の四半期に何か重要性があるかと尋ねた。「私たちは四半期末に進捗確認のためにプロジェクトをレビューします」と彼女は説明した。「もし予算の中に余分な金額がある場合には、ブルックは我々にすぐ返却させます」
 ITCとTESはペンシルバニアの住所だったため、私はペンシルバニアの国務省法人登記部門に問い合わせた。ITCはペンシルバニア州ニューパーク、ハローロード20にオフィスを構える法人であることが分かった。ITCを登録した代理人はジェイク・マーシャルだった。インターネットの個人別電話帳で検索したら、住所はマーシャルの自宅住所だった。
 TESにも同様の調査を行った。TESも同じ住所に事務所を構えるペンシルバニアの法人だった。TESの社長もジェイク・マーシャルだった。
 NyTellの財務部は、ITCとTESに送付された支払済み小切手の画像を検索した。私は小切手を見比べてみた。裏書を見ると全ての小切手は同じ銀行口座に払い出されていた。筆跡は両社に振り出された小切手の裏書と一致し、それはもちろんITCとTES向けの小切手を同じ人間が裏書をしたことを示していた。
 今や私はITCおよびTESとジェイクを結び付ける客観的な証拠を手にしていた。ジェイクは不正と推定される仕組みに直接関与していた。しかし、彼とダンとの友情があるのに、私は汚職があることを示すことができるだろうか?


(パート2 その2に続く)

----------------------------------------
初出:FRAUDマガジン44号(2015年6月1日発行)

この記事の執筆者

Meric Bloch, J.D., CFE, CCEP-F
Jabil Circuit社のグローバルコンプライアンス部門のシニア・ダイレクターである。300件以上の不正と重大な違法行為の調査の経験がある。不正調査に関連した著作や講演も多い。
翻訳協力:荒木理映、CFE、CIA

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

企業の不正リスク対策

記事の一覧を見る

関連リンク

不正リスク(バックナンバー一覧)

申し訳ございません、おかけになった「不正」へは現在おつなぎすることができません。パート1(その1 全4回)

申し訳ございません、おかけになった「不正」へは現在おつなぎすることができません。パート1(その2 全4回)

申し訳ございません、おかけになった「不正」へは現在おつなぎすることができません。パート1(その3 全4回)

申し訳ございません、おかけになった「不正」へは現在おつなぎすることができません。パート1(その4 全4回)

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2017/img/thumbnail/img_24_s.jpg
この記事は許諾を得て、「贈収賄事例集:テーブルの下からの眺め “Bribery and Corruption Casebook: The View from Under the Table” 」Laura Hymes, CFE, and Dr. Joseph T. Wells, CFE, CPA編、John Wiley & Sons Inc.社、2012年 より引用したものである。この事例における人名と組織名は変更した。 パート2では、筆者の不正調査が開始され、ダン・ジャクソンに証拠が襲い掛かる。ジャクソンは起訴と訴追の間、強情な態度をとり続ける。 パート1は、NyTell社のデータセンター統合(DCC)プロジェクト会計監査役クロエ・ポルテラ(Chloe Portela)がDCCプロジェクト費用の70%が使用され、それが予算を30%超えていると計算したところで終わった。彼女はプロジェクトで使用している外部業者の一つITCの請求書のコピーを引っ張り出した。クロエはその会社について今まで知らなかった。彼女はパニックになり、自分の上司であるCFOのノックレコート(Nokklekort)に話をし、ノックレコートがNyTellの不正調査担当者である筆者を呼び出した。経営陣は非常に憂慮していた。 経営陣の期待をコントロールし、推測で興奮状態とならないようにさせるのが重要だと私は経験から学んでいた。会社での仕事が興奮するほど面白いことはまれで、不正や重大な不祥事が発生した場合でも、もともと恐れていたほどには深刻でない傾向があるものだ。もちろん、常にそうだとは限らないが。 この時までにNyTellはITCとTESからの請求書64通に対し支払いを行っていた。私との会議の場で、ブルック・ノックレコートCFOが25,000ドルを超える請求書に承認サインをしたのは、単純にCIO(最高情報責任者)のチェット・プランプトンと会計監査役のクロエ・ポルテラの二人を信頼していたからだと説明した。それは二人が、請求書上にダン・ジャクソンが書いた「支払OK」の文字を見て承認したのと同様だった。ブルックは私に全部門を私の意のままに使ってよく、また既にチェットには、全てにけりがつくまでプロジェクトは中断するよう指示したと言った。おまけに彼女は「私はすでにオスロに電話したけど、あなたが大西洋の向こうからの悲鳴を聞かなかったとしたら驚きだわ」といった。 購買部門のオリー・エックマー(Ollie Eckmer)にすぐに電話し、どちらの会社にも契約書や作業明細書、料金体系表などが無いことを確認した。ITCもTESも請求書以外のプロジェクトに関連する書類はなさそうだった。 買掛金部門の担当者のナンシー・リン(Nancy Lynn)によるとDCCプロジェクト以外ではNyTellは他のどのプロジェクトでも両社への支払いはなかった。ナンシー・リンはBOONISにアクセスし、ITCとTESの請求書のコピーをくれた。私は請求書を精査し、興味をそそられる点が二つあることに気が付いた。一つ目は、各々の請求書にダンによる「支払OK」という記入とサインがあったことだ。これらの請求書はBOONISから直接取得したPDF画像だった。これは、NyTellに支払請求が送られてくる前にダンが請求書を承認したことを意味していた。 二つ目は請求書のタイムスタンプだった。請求書の日付は異なっていたが、ほとんどのタイムスタンプが請求書の日付と同時になっていなかった。複数の請求書のタイムスタンプは同じだった。これは請求書が個々にではなく、むしろまとまって提出されたことを示していた。しかし、それはなぜだろう?どんな業者が請求書をそのままにして、積み上げるというのだろう?タイムスタンプ毎に請求書を並び替えると、多くが暦の四半期の終わりに近い時期に提出されていた。私はクロエに暦の四半期に何か重要性があるかと尋ねた。「私たちは四半期末に進捗確認のためにプロジェクトをレビューします」と彼女は説明した。「もし予算の中に余分な金額がある場合には、ブルックは我々にすぐ返却させます」 ITCとTESはペンシルバニアの住所だったため、私はペンシルバニアの国務省法人登記部門に問い合わせた。ITCはペンシルバニア州ニューパーク、ハローロード20にオフィスを構える法人であることが分かった。ITCを登録した代理人はジェイク・マーシャルだった。インターネットの個人別電話帳で検索したら、住所はマーシャルの自宅住所だった。 TESにも同様の調査を行った。TESも同じ住所に事務所を構えるペンシルバニアの法人だった。TESの社長もジェイク・マーシャルだった。 NyTellの財務部は、ITCとTESに送付された支払済み小切手の画像を検索した。私は小切手を見比べてみた。裏書を見ると全ての小切手は同じ銀行口座に払い出されていた。筆跡は両社に振り出された小切手の裏書と一致し、それはもちろんITCとTES向けの小切手を同じ人間が裏書をしたことを示していた。 今や私はITCおよびTESとジェイクを結び付ける客観的な証拠を手にしていた。ジェイクは不正と推定される仕組みに直接関与していた。しかし、彼とダンとの友情があるのに、私は汚職があることを示すことができるだろうか?(パート2 その2に続く)----------------------------------------初出:FRAUDマガジン44号(2015年6月1日発行)
2018.07.05 18:24:28