申し訳ございません、おかけになった「不正」へは現在おつなぎすることができません。パート1（その1 全4回）
SORRY THIS FRAUD HAS BEEN DISCONNECTED
ある電気通信会社における150万ドル規模の不正
$1.5 million fraud at a telecommunications company
この記事は許諾を得て、「贈収賄事例集：テーブルの下からの眺め “Bribery and Corruption Casebook: The View from Under the Table” 」Laura Hymes, CFE, and Dr. Joseph T. Wells, CFE, CPA編、John Wiley & Sons Inc.社、2012年より引用したものである。この事例における人名と組織名は変更した。
ダン・ジャクソンは成功者だった（Dan Jackson Was a Man Going Places)
彼は会社でどこまでも出世していくように思われた。彼は最近米国NyTell社のIT部門の担当役員に昇格したばかりだった。NyTellは彼に高い給与と賞与を支払った。彼、ダン（Dan）はノルウェーのリレハンメルで開かれた会社主催の2週間のシニアリーダーシップセミナーを終えたばかりだった。NyTellの上級経営陣はそこで今後の昇進のための仕込みをされるのだ。ダンのオフィスの壁一面にはNyTellのお偉方たちと撮った写真が貼られていた。机の後ろにある膝丈ほどの低い木製キャビネットの上には世界中を旅して集めたこまごまとした雑貨や、彼のIT関連の大きなプロジェクトを記念した透明なルーサイトでできたペーパーウェイトが置かれていた。
ダンは南カリフォルニアのボーフォート（Beaufort）出身でここまで出世した。海兵隊の職業軍人を父に持つダンは子供時代を基地から基地へと引越をして過ごした。父親が海兵隊を退役後、ボーフォート近くの大学で軍の歴史を教える仕事を引き受けてから家族はボーフォートに移住した。
父親であるメージャー・ジャクソン（Major Jackson）は家庭でも軍の司令官のようだった。子供たちは質問することなく命令に従うことを期待された。抵抗は無駄だった。「父が自分たちに何かするよう言った時は、敬礼をし続けるのが唯一の選択肢だった」とダンは一度ならず語った。メージャー・ジャクソンは、軍隊の規律を適用することは子供達の人格を形成すると考えていたが、このことは、ダンに決して父親の基準に達することができないという絶え間ない不安を残すことになった。
ダンは父親の承認と、いつかそれが得られるであろうという自信を求めた。しかし、その機会は永遠に来なかった。ダンがメリーランド大学の4年生の時、メージャーは雨で滑りやすくなった道での車の事故で亡くなった。ダンは父親とは和解することがなかった。
それが20年以上前のことである。今、ダンは全てを手に入れたようにみえる。NyTellの仕事に加え、ダンと美しい妻のスー（Sue）は、メリーランド州タウソンの近くの1970年代の農家をリフォームした。スーはここが二人の夢の家になるだろうと考えていた。二人の子供は近くの私立校に通った。スーは専業主婦であることを楽しみ、夫がNyTellで成功して、自分が働く必要がないのは幸運だと感じていた。
ダンはNyTellに6年勤務した。エグゼクティブはこのような見た目だと信じていたため、ダンは常に上下それぞれが2,000ドルするブリオーニのスーツを着て、ロレックスのプレジデントブレスの時計をつけていた。会社の出張規定では中型車しかレンタルしないよう定められていたが、彼は自腹で追加費用を払って、常にキャデラックにアップグレードした。会社の一役員にどうやってこれらのものを支払う余裕があるのかと尋ねられたら、ダンは1990年代後半のドットコム・バブルがはじける前に投資を抜け目なく現金化したのだと説明していた。
ダンは生活にかかるそうした全ての費用があるにもかかわらず、頻繁に休暇をとった。時々彼は家族をバハマのディズニーワールドに連れて行った。またあるときは数名の同僚とともに「男の子の週末」に行くこともあった。スーは、これを害のない遊びであり、ダンがプレッシャーを和らげる方法だと考えていた。彼女は、「男の子たちの一人」が実はNyTellの人事部門のトップのメラニーだとは全く知らなかった。ダンはそうやって1年半も彼の情事をスーには秘密にし続けていた。
外側からみると、ダンは理想的なNyTellの従業員に見えた。しかし実際は？注意深く作り上げたイメージの裏には問題のある人物が隠されていた。「これをどのくらい続けられるだろう？」と彼は常に自問した。昇進に伴って会社のITネットワークやインフラやコンピュータシステムに対する責任も増えた。技術はより複雑になり、ダンはそれについていけるか分からなかった。生まれつきの外見の良さや魅力があるので、彼はほとんどの男性が羨ましがるような大学生活を送った。コンピュータの専門家というよりむしろ、営業の才能があった。もし、彼がIT部門を率いていなかったら、NyTellのトップセールスになれたことは疑いようがなかった。
（その２に続く）
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初出：FRAUDマガジン43号（2015年4月1日発行）
