HOME コラム一覧 申し訳ございません、おかけになった「不正」へは現在おつなぎすることができません。パート1(その4 全4回)

申し訳ございません、おかけになった「不正」へは現在おつなぎすることができません。パート1(その4 全4回)

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この記事は許諾を得て、「贈収賄事例集:テーブルの下からの眺め “Bribery and Corruption Casebook: The View from Under the Table” 」Laura Hymes, CFE, and Dr. Joseph T. Wells, CFE, CPA編、John Wiley & Sons Inc.社、2012年より引用したものである。この事例における人名と組織名は変更した。

 しかし、DCCプロジェクトはこの会社の標準的なプロセスに小さな欠点を見つけた。クロエは財務の専門家だが、ITのプロジェクトについては何も知らなった。したがって、彼女は請求書に記載されている物品やサービスが実際に提供されたかどうか確認できなかった。彼女の知識が足りない部分を補強するために、BOONISが請求書を彼女に送信した後、彼女はダンにレビューしてもらうために電子メールを送信した。ダンが彼女に言ったのは、彼が請求書を検証して、その確認を返信するというものだった。もし、請求書が電子メールの代わりに紙で送られてきた場合には、ダンは「支払OK」と請求書に記載し、彼の名前を署名した。いずれにしてもクロエが安心して請求書を承認できるダンから彼女に対する保証となった。
 チェットとノックレコートが請求書を承認しなければならない時も、どちらも最初に、ダンが請求書を検証したことを表すものを探した。それがあれば、彼らは請求書を即座に承認した。こうして彼らの請求書レビュープロセスは、ダンの署名を探すのとほぼ同じになった。

ダンのやり方(Dan’sWay)

 DCCプロジェクト開始後半年でクロエは心配になった。彼女の仕事はプロジェクトが予算内に収まるようにすることだった。プロジェクトのスケジュールによれば、今までに予算の40%しか使われていないはずであった。しかし、クロエの計算によると約70%がすでに使われ、コストが上がっていた。
 クロエはHALが実質的にプロジェクトを請け負う業者のサービスの全てを提供していることを知っていた。他の業者からの請求書も見かけたが、ダンはいつもこれらの業者は小さな専門的な業務のために必要だと断言した。しかし、彼女はこれらの業者のうち、2社が頻繁に連続して金額の大きな請求書を送ってきていることに気が付いた。1社はITC(Information Technology Company)社、もう一社はTES(Technology Equipment Services)社だった。
 クロエはITC社の請求書のうち1枚を選び、ダンに説明を求めた。「このコンサルタントは、どんな会社で誰がここで働いているのですか?」と送り状に記載してダンに送付した。ダンはその日のうちにメールで返信した。
 「私はITCのキムと話をしたところだ。彼女は買掛金の担当者で、このプロジェクトのために、機器を設置したり電源を入れたり、ネットワークの設備や接続状況をテストする現場での人員に関する勤務時間の記録を送ってくれる。一度処理されたボブとマイクの時間割を再設定する。彼らは自分たちで作業を終わらせることができない」
 この返信には彼女が求めたものよりはるかに多くの情報が含まれているが、クロエは一言も理解できなかった。クロエはITに関することで困った時には、いつもウィリー・ミン(Willie Ming)に頼った。ウィリーはIT部門の古株で、DCCプロジェクトの最初から参加していた。ダンのメールを分かりやすい英語に直してくれる人がいるとすれば、ウィリーだった。
 「ITCって一体何だ?」というのが、クロエがずっと覚えていることになる言葉だった。「一度もこの会社について聞いたことがないし、彼らはDCCには何の仕事もしていないと思う」。クロエはファイルからITCの請求書をさっと全部取り出してウィリーに見せた。「だけど、この請求書全部にあるのはダンのサインじゃない?」と彼女は主張した。「そう見えるね」とウィリーは答えた。
 彼女の中でだんだん大きくなるパニックを隠すようにクロエはBOONISからプロジェクトに関わる全部の業者のリストをプリントアウトしてウィリーに見せた。彼女はTESの請求書のうちの1枚もウィリーに見せた。ウィリーはITCとTES以外の業者を知っていた。「TESが何者なのか全く分からない」とウィリーは請求書をじっくりと見ながら言った。「でも言っておくが、やっぱり、提供されたサービスの記述はちんぷんかんぷんだ。インターネットで5秒間検索して作ったような感じがする」
 ブルック・ノックレコートが私に電話してきたのはその日の午後3時だった。私は別件を終えて空港から自宅に帰るところだった。「大事なことを話したい。一番早くていつ来られますか?」と彼女は尋ねた。私は翌朝一番に会社のオフィスに行けると伝えた。「いいでしょう」と彼女は言って電話を切った。次の15時間、私は大きな事件を見つけることになるのか、自分の仕事を失うことになるのかわからないでいた。

続く…(TO BE CONTINUED)

 パート2では、ブロックの不正調査が始まり、ダン・ジャクソンに証拠が襲い掛かる。ジャクソンは告訴及び追訴の間も強情な態度をとり続ける。

(パート2 その1に続く)

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初出:FRAUDマガジン43号(2015年4月1日発行)

この記事の執筆者

Meric Bloch, J.D., CFE, CCEP-F
Jabil Circuit社のグローバルコンプライアンス部門のシニア・ダイレクターである。300件以上の不正と重大な違法行為の調査の経験がある。不正調査に関連した著作や講演も多い。
翻訳協力:荒木理映、CFE、CIA

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2018.07.05 18:24:28