HOME コラム一覧 第4回「業務標準化のポイント」

第4回「業務標準化のポイント」

post_visual

今回は、『業務標準化』のポイントについて解説したいと思います。
標準化の目的は、

 誰が行っても、同一の“品質”が担保されると共に、
 事務所として最も“生産性”が高い状態を実現する

ことにあります。そのためには、担当者ごと、お客様ごとにバラバラになっている業務の進め方を、事務所として最も効果的・効率的なやり方に集約していく必要があり、次のような手順で進めていきます。

業務の標準化にあたっては、いきなり“理想”の状態を描くことは困難であり、まずは“現状”をきちんと見詰め直すことが必要です。ただし、問題の残る現状をそのまま標準にしてしまっては、生産性の向上にはつながりません。着目すべきは、

 「こんなお客様ばかりだったらいいのに」と思えるお客様の現状

です。すなわち、第3回「成果が上がる順番と体制」でご紹介した「A」先のお客様にスポットライトを当てるのです。それぞれが担当する「A」先のお客様の中でも特に生産性が高いと思われる先について、それぞれの業務の開始前から完了後までの作業を棚卸していきます。おひとり2~3件ずつまとめていただくと要領が掴めてくるとともに、

 「なぜ、このお客様はこんな作業をしていたんだろう?」
 「A社のやり方をB社にも応用すれば、もっと効率的に仕事ができるんじゃないだろうか?」

などといった疑問が生まれてくるものです。
各自の検討が終わりましたら、その擦り合わせをしていきます。4~5名程度、多くても6名までのチームで検討されるとよいでしょう。なお人選においては、標準化に前向きな方を選ばれることをおすすめします。
さて、他の人のやり方・進め方を見聞きすることによって、やり方の違いの多さに驚くとともに、自分では最も効果的・効率的だと思っていたやり方・進め方の中に多くのムリ・ムラ・ムダが存在していたことに気付かれると思います。標準化の推進においては、この“気付き”が大切です。より効果的・効率的な仕事の仕方を実現したいという意思と意欲を醸成することができるからです。
そして、擦り合わせをする中で多くの気付きを得ながら、

 事務所として最も効果的・効率的だと思われる内容にブラッシュアップさせていく

ことになります。具体的には、次の手順で進めていきます。

 Step1)各自の共通する部分と相違する部分を区分けする。
 Step2)相違する部分について、どのやり方が最も効果的・効率的かを検討する。
 Step3)共通する部分についても、もっと効果的・効率的な方法はないか、検討する。

このとき気をつけておきたいのは、

 複数の方法を認めない

ということです。たとえば資料回収には、宅配便・郵送・メール・FAX・持参・訪問回収など、いくつかの方法が考えられます。しかし、事務所としての理想は一つのはずです。よって、これらの回収方法を並列的に列挙するのではなく、事務所としての最も理想の方法を事務所標準とすることが大切なのです。少なくとも「原則」「例外」「禁止」の区分だけは明確にする必要があります。
もちろん、お客様によっては 「禁止」の内容を認めざるを得ない先もあるでしょう。しかしそのような先はあくまでも「S」先です。また、「S」先でないとしても、「例外中の例外」との認識があれば、「今はできないかもしれないが、いずれできるようにしていこう」という意識が芽生えます。その意識こそが“智恵”の源泉であり、最も大切なものなのです。

さて、事務所標準の手順が決まりましたら、次に作業ごとに実施者を明確にします。

 それぞれの作業を誰が行うことが最も効果的・効率的か

を明確にするのです。
作業ごとの実施者が決定したら、同一実施者が同一タイミングで行う作業のまとまりを明らかにします。このまとまりを『工程』といいます。工程を認識することにより、

 工程ごとの“工数”を認識できる

ようになります。どの工程にどれほどの時間が掛かっているかが認識できるようになれば、より一層改善が進めやすくなるものです。
最後に、その工程の終わりの姿とその構成を明確にします。

 何が終わったらその工程が完了したといえるのかを明確にする

ことです。この“最終ゴール”が明確になっていない、ないしは人によって認識が異なっていることは多いものです。そしてそれが生産性を阻害する大きな要因になっているとの認識が必要です。

以上のような検討を通じて、「今の段階では、これ以上の理想はない!」と思える『事務所標準』ができましたら、まずは「A」先に対して実際に運用してみて、「問題がないか?」「もっと良い方法はないか?」といった確認をしていくことになります。「やってみたら、元のやり方の方がよかった」ということはあります。その点において、お客様には少しご迷惑をお掛けしてしまうこともあるかもしれませんが、そこは「A」先のお客様です。きっと笑って許してくれることでしょう。それよりも、数年先に待っている、

 お客様にとっても、事務所にとっても、職員にとっても“理想”の状態を実現する

ことの方が大切です。その信念をもって、理想の標準を作っていっていただきたいと思います。

この記事の執筆者

株式会社名南経営コンサルティング

1966年開業の佐藤澄男税理士事務所(現・税理士法人名南経営)を祖業としたコンサルティングファーム「名南コンサルティングネットワーク」の中核企業。ネットワークでは、経営に関わるあらゆる専門家を抱え、中堅・中小企業を対象に、企業経営をワンストップでサポートして信用・実績を積み重ね、多くのクライアントをもつ。総スタッフ数569名(2019年7月1日現在)。同社は生産性向上を目的に開発したクラウドシステムMyKomonを使った会計事務所支援のほか、戦略的経営計画策定支援などの経営コンサルティング、経営者・後継者・経営幹部の育成指導、人事労務コンサルティングを得意分野とする。本コラムは全国の会計事務所向けコンサルティングに実績のある同社取締役の亀井英孝が執筆。

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

「働き方改革」で待ったなし!税理士事務所の生産性向上具体策

記事の一覧を見る

関連リンク

第1回「税理士事務所における生産性向上のポイント」

第2回「税理士事務所における生産性向上のポイント」

第3回「成果が上がる順番と体制」

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2020/img/thumbnail/img_44_s.jpg
今回は、『業務標準化』のポイントについて解説したいと思います。標準化の目的は、 誰が行っても、同一の“品質”が担保されると共に、 事務所として最も“生産性”が高い状態を実現することにあります。そのためには、担当者ごと、お客様ごとにバラバラになっている業務の進め方を、事務所として最も効果的・効率的なやり方に集約していく必要があり、次のような手順で進めていきます。業務の標準化にあたっては、いきなり“理想”の状態を描くことは困難であり、まずは“現状”をきちんと見詰め直すことが必要です。ただし、問題の残る現状をそのまま標準にしてしまっては、生産性の向上にはつながりません。着目すべきは、 「こんなお客様ばかりだったらいいのに」と思えるお客様の現状です。すなわち、第3回「成果が上がる順番と体制」でご紹介した「A」先のお客様にスポットライトを当てるのです。それぞれが担当する「A」先のお客様の中でも特に生産性が高いと思われる先について、それぞれの業務の開始前から完了後までの作業を棚卸していきます。おひとり2~3件ずつまとめていただくと要領が掴めてくるとともに、 「なぜ、このお客様はこんな作業をしていたんだろう?」 「A社のやり方をB社にも応用すれば、もっと効率的に仕事ができるんじゃないだろうか?」などといった疑問が生まれてくるものです。各自の検討が終わりましたら、その擦り合わせをしていきます。4~5名程度、多くても6名までのチームで検討されるとよいでしょう。なお人選においては、標準化に前向きな方を選ばれることをおすすめします。さて、他の人のやり方・進め方を見聞きすることによって、やり方の違いの多さに驚くとともに、自分では最も効果的・効率的だと思っていたやり方・進め方の中に多くのムリ・ムラ・ムダが存在していたことに気付かれると思います。標準化の推進においては、この“気付き”が大切です。より効果的・効率的な仕事の仕方を実現したいという意思と意欲を醸成することができるからです。そして、擦り合わせをする中で多くの気付きを得ながら、 事務所として最も効果的・効率的だと思われる内容にブラッシュアップさせていくことになります。具体的には、次の手順で進めていきます。 Step1)各自の共通する部分と相違する部分を区分けする。 Step2)相違する部分について、どのやり方が最も効果的・効率的かを検討する。 Step3)共通する部分についても、もっと効果的・効率的な方法はないか、検討する。このとき気をつけておきたいのは、 複数の方法を認めないということです。たとえば資料回収には、宅配便・郵送・メール・FAX・持参・訪問回収など、いくつかの方法が考えられます。しかし、事務所としての理想は一つのはずです。よって、これらの回収方法を並列的に列挙するのではなく、事務所としての最も理想の方法を事務所標準とすることが大切なのです。少なくとも「原則」「例外」「禁止」の区分だけは明確にする必要があります。もちろん、お客様によっては 「禁止」の内容を認めざるを得ない先もあるでしょう。しかしそのような先はあくまでも「S」先です。また、「S」先でないとしても、「例外中の例外」との認識があれば、「今はできないかもしれないが、いずれできるようにしていこう」という意識が芽生えます。その意識こそが“智恵”の源泉であり、最も大切なものなのです。さて、事務所標準の手順が決まりましたら、次に作業ごとに実施者を明確にします。 それぞれの作業を誰が行うことが最も効果的・効率的かを明確にするのです。作業ごとの実施者が決定したら、同一実施者が同一タイミングで行う作業のまとまりを明らかにします。このまとまりを『工程』といいます。工程を認識することにより、 工程ごとの“工数”を認識できるようになります。どの工程にどれほどの時間が掛かっているかが認識できるようになれば、より一層改善が進めやすくなるものです。最後に、その工程の終わりの姿とその構成を明確にします。 何が終わったらその工程が完了したといえるのかを明確にすることです。この“最終ゴール”が明確になっていない、ないしは人によって認識が異なっていることは多いものです。そしてそれが生産性を阻害する大きな要因になっているとの認識が必要です。以上のような検討を通じて、「今の段階では、これ以上の理想はない!」と思える『事務所標準』ができましたら、まずは「A」先に対して実際に運用してみて、「問題がないか?」「もっと良い方法はないか?」といった確認をしていくことになります。「やってみたら、元のやり方の方がよかった」ということはあります。その点において、お客様には少しご迷惑をお掛けしてしまうこともあるかもしれませんが、そこは「A」先のお客様です。きっと笑って許してくれることでしょう。それよりも、数年先に待っている、 お客様にとっても、事務所にとっても、職員にとっても“理想”の状態を実現することの方が大切です。その信念をもって、理想の標準を作っていっていただきたいと思います。
2020.02.10 16:51:50