第1回「税理士事務所における生産性向上のポイント」
現在の税理士業界に突き付けられている重要な課題のひとつに、“働き方改革”があります。これまで当業界においては、業務量の増加に対して、人を入れるか、既存の職員さんの労働時間を増やすことで対応してきました。さらに、採用環境が非常に厳しくなっている現在では、既存の職員さんの負担がますます高まってきているのが実情ではないでしょうか。
そのような流れの中で、“働き方改革”への対応が待ったなしの状況になってきました。業務量の増加に対して長労働時間によって対応することが困難になってきているのです。働き方改革とは、“働けなくなる改革”と認識する必要があるのです。
このような状況では、現在の業務のありようを抜本的に見直すしかありません。今後増えていく業務も、今のメンバーで対処できるほどの『業務改革』を進めていくしかないのです。そしてそれは
□今の業務量を、半分の時間でやりきる
□今の労働時間で、倍の仕事をこなす
ほどの改革でなければなりません。
業務改革とは、業務のやり方を工夫し、変えていくことで、業務をより早く、より正確に行えるようにスリム化することを目的とします。そして、結果として
□労働時間に余力・余裕を生み出し、
□より付加価値の高い業務により多くの時間を使えるようにしていく
ことを意味します。換言すれば、
“生産性”を向上させること
といってよいでしょう。
生産性とは、インプットに対するアウトプットの割合であり、投入資源の有効利用度を示すもので、次の計算式で表されます。
そして、労働集約型産業である税理士事務所においては、主となる投入資源は“人”です。人という経営資源を投入し、“労働時間”をインプットして、“付加価値”というアウトプットを実現しています。税理士事務所の場合は、変動費の割合はそれほど大きくありませんから、アウトプットは“売上高”としても問題ないでしょう。
とすれば、税理士事務所における重要な生産性指標は、『一人1時間あたり売上高』となります。その指標は、『労働生産性』ともいわれ、次のような計算式で表されます。
ここでいう『総労働時間』とは、事務所で働くすべての方が、事務所業務に携わったすべての時間を指します。もちろんすべての職員さんの残業や休日出勤における勤務時間を含んだ労働時間ですし、契約・嘱託・派遣・パート・アルバイトといった契約形態の方の労働時間も含みます。
総労働時間を正確に把握できている事務所は少ないものです。しかし、もし正確なデータがないとしても、概算でよいので、この計算式に基づいて事務所の労働生産性を算出してみてください。
直接的なデータはありませんが、総務省や国税庁などから出ているデータから推計しますと、
一般的な税理士事務所における労働生産性は3,500円前後
であるようです。
一方で、私どもがお伺いしている事務所のうち、効率的な運営がなされている事務所では5,000円を越えています。また、このところ税理士試験受験者の採用を強化しているといわれている大企業では、6,000円以上が当たり前といわれています。これらを基準と考えれば、税理士事務所が目指すべき労働生産性は、
最低でも5,000円、できれば6,000円以上
であるといえそうです。まずは事務所の労働生産性を明らかにしていただき、業界内におけるポジションを確かめてみてください。
さて、事務所の労働生産性の実態が明らかになれば、あるべき姿を明らかにし、そのゴールに向けた業務改革を行っていくことになります。そのためには、おおむね次の5つの方向性が考えられます。
方向性 | 売上高 | 労働時間 | |
---|---|---|---|
① | 売上高を維持しながら、労働時間を短縮する | → | ⤵ |
② | 労働時間を維持しながら、売上高を増やしていく | ⤴ | → |
③ | 労働時間を増やしながら、それ以上に売上高を増やしていく | ↑ | ⤴ |
④ | 売上高の減少を最大限食い止めながら、それ以上に労働時間を減らしていく | ⤵ | ↓ |
⑤ | 労働時間を減らしながら、かつ売上高も増やしていく | ⤴ | ⤵ |
もちろん、これらは事務所の方針に基づくものですから、どの方向性が正しいとか間違っているということではありません。また事務所が抱える課題によっても、その選択肢や取り組みの順序はまちまちでしょう。要するに、「いずれも正解」といえます。
しかし、私どもがおすすめする生産性向上の方向性は⑤を目指すもの、すなわち、
総労働時間を最大限に短縮させながら、成果の最大化を図る
ことです。換言すれば、
“時短”と“拡大”の両立
ということです。
本稿では、この「時短と拡大の両立」を目指した、具体的な取り組みについて解説していきたいと思います。