数字の虚偽? 帳簿の粉飾(Cooking)または煮詰まり中(Simmer)(その3 全4回)
裁量を持つ領域(The discretionary areas)
以下は、経営者が想定を行う必要がある一般的な会計上の決定事項であり、それぞれの決定が積極的または保守的なアプローチの下でどのように取扱われるのかをまとめたもので、不正実行者がいかにこの裁量の余地を利用するかの例として活用できる。
判断点1(Decision point 1)
いつ収益を認識するか。(When do we recognize revenue?)
意義(Significance )
企業が収益を認識する時は、次の基準を満たさなければならない。契約が存在しており、実際に配送またはサービスの提供が完了しており、売手の価格が確定しており、回収は合理的に保証されている必要がある。(参照:SEC 職員会計公報第101号、SEC Staff Accounting Bulletin No. 101 athttp://tinyurl.com/zju89m3.)。
早期の収益認識は、帳簿を改ざんする最も一般的な方法である。企業は、製品の出荷またはサービス提供の前、もしくは取引を既に終了しているにも関わらず、収益認識する。さらに洗練された不正としては、関連会社に売却されているにも関わらず実際の所有権が変わっていないことや、返金を新しい収益と誤って解釈する、押し込み販売、商品出荷前売上計上のようなスキームが含まれる。
積極的(Aggressive)
回収可能性および配送でリスクが残っているにもかかわらず販売時点で収益の認識をする。
保守的(Conservative)
販売によって取引の失敗するリスクが少ななり売り上げが明らかになった後に収益を認識する。
度を越した実例(Real-world example gone too far)
コンピュータ・アソシエイツ(現CA テクノロジーズ)は、コンピュータ、ソフトウェア、製品アップデートのための長期ライセンスの販売をしている。実際の現金獲得が数年先になるにも関わらず、CAは直ちにライセンスの総額を現在価値で計上していた。この仕組みにより、33億ドルの早期計上にあたる収益を認識していた。
CAはまた、より多くの収益を計上し、収益予想を達成するため四半期決算日の後も帳簿を締めずにおいた。 2000年度には、このように四半期を延長することで約36%の増収となった。米証券取引委員会(SEC)は、このスキームを次のように要約した。「まるで試合終了のホイッスルが鳴った後にプレイをするチームのように、コンピュータ・アソシエイツは、どの四半期も勝利したように見せられるまで得点を記録し続けていた」(参照:SECのリリース「会社はSECとの和解に応じ、司法省は賠償とコーポレートガバナンス改革に2億2,500万ドルを含めた」“Company Agrees to Settlement with SEC and Justice Department Including $225 Million in Restitution and Corporate Governance Reforms,”http://tinyurl.com/hdcclt3.)
事態を悪化させたのは、プロファー・セッション(proffer session)で、また、社外の弁護士向けに虚偽の誤解を招くような声明を出す等の、CAの役員による裁判の妨害である。この不正行為の結果、2億2500万ドルの罰金と8件の刑事訴追が確定した。
判断点2(Decision point 2)
どのようにして在庫と売上を一致させるのか?(How do we match our inventory with what we’ve sold?)
意義(Significance )
売上高からの最も大きな控除は、売上原価(cost of goods sold, 以下「COGS」という)である。COGSとは、単純に、売上の実現や獲得のためのコストはいくらかという意味である。GAAPでは、最も一般的な原価評価の方法として、FIFO(先入先出法)とLIFO(後入先出法)の2つが選択できる。インフレ率が高い場合や材料費が変動した場合、FIFOとLIFOを使用することの違いにより、総利益に大きな影響を与える可能性がある。在庫評価方法の選択は、貸借対照表上の資産にも影響する。不正実行犯は、COGSのように利益の減少につながる費用を削減しつつ、虚偽の収益を作り出すことにより、二重の勝利を得ることができる。
積極的(Aggressive)
FIFOを用いて在庫を評価し、最も低い売上原価により、より高い利益をもたらすことになる。
保守的(Conservative)
LIFOを用いて在庫を評価し、最も高い売上原価を計上することになる。
度を越した実例(Real-world example gone too far)
あるコンピュータ部品の供給会社は、ベスト・バイ(米国の家電量販店)から約3,300万ドルを騙し取り、COGSを操作することにより300万ドル以上の脱税を行った。
ある一つの損益計算書上では、同社が実際よりも成功した会社であると思わせてベスト・バイを欺くためにそのCOGSを低くした。これにより、ベスト・バイを騙し、このコンピュータ部品の供給会社は認定プロバイダとして使用されることになった。同時に、この会社は会計士に提供した損益計算書のCOGSを上げ、利益と課税額を減らした。会社は、不正な必要に最も適した時に製品で使用した材料コストを単純に偽ることでLIFOとFIFOを切り替えることによりこの不正を実行できた。(参照:FBIリリース「イリノイ州の夫婦、インサイダーがベスト・バイへの詐欺行為で判決を受ける」“Illinois Couple, Company Insider Sentenced for Defrauding Best Buy,” athttp://tinyurl.com/zrht682.)。
(その4に続く)