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数字の虚偽? 帳簿の粉飾(Cooking)または煮詰まり中(Simmer)(その2 全4回)

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GAAPのフレームワーク(The GAAP framework)

 米国での財務諸表は、一般に公正妥当と認められた会計原則(以下「GAAP」という)に従って作成されている。 GAAPが認めており、そして多くの場合は必要なときに、経営者は、多くの会計上の仮定や見積りを財務諸表の中で行う。これは、ビジネスでの様々な取引を記録するのに必要な会計士の自由裁量を認めるために、意図的に柔軟な規則となっている。
 例え話を使って考えてみる。 GAAPは、時速65マイルの速度制限の道路とする。会社は、例えば時速10マイルずつその速度を変更し、まだ「合理的」な制限速度内に収まるようなテクニックを使用することができる。保守的(Conservative)な会計スタイルの会社は、時速55マイルとする。 時速65マイルを選択した場合は、積極的(Aggressive)な会計スタイルを用いているといえる。どちらのスタイルも合法である。しかしながら、公認不正検査士(CFE) 、つまりハイウェイパトロールは、時速80マイルを出している積極的(Aggressive)なドライバーを発見できるために、許容範囲を認識しておく必要がある。
 積極的(Aggressive)なスタイルは、口語的に「利益管理(managing earnings)」「一致する数字の生成(making the numbers fit)」または「帳簿の補修(touching up the books.)」と呼ばれる。どのように婉曲的に表現されようとも、それは会計規則における柔軟性を利用して、収益と費用を都合の良いタイミングで認識している。この柔軟性は、損益計算書、貸借対照表およびキャッシュ・フロー計算書の3つの主要な財務諸表に大きな影響を与える可能性がある。
 具体例を上げると、私のMBAの会計学の教授は、学生に積極的(Aggressive)・保守的(Conservative)の両方のスタイルを使用して、損益計算書と貸借対照表を修正して作成させてみた。最も積極的な会計上の見積りは、保守的な見積もりと比べると、純利益が4倍以上になった。(参照:”Do Earnings Lie — A Case Demonstrating Legally Permissable Manipulation of Corporate Net Income,” by James Bannister and Susan Machuga, University of Hartford, http://tinyurl.com/h33pzzn

誇張の理由は?現代ビジネスのプレッシャー(Why exaggerate? The pressure of modern business)

企業の役員には、大きなプレッシャーがあることは周知の事実である。すぐに結果を求められるので、ゆっくりと着実にビジネスモデルを開発していくことがこれまでになく難しくなってきている。投資家は、四半期毎に持続的に成長している企業を探している。そのため、企業は、ビジネスサイクルの中で普通に起こる変動を平準化するためにクリエイティブな会計処理を使用し、安定を好む投資家を安心させることを知った。また、誠実な人でさえ、彼らの競争相手が限度を超えて推進していることが分かった時に、GAAPの文言と精神に従うことが難しいと悟る。これら全ての理由から、上場会社にとって、有利なことを誇張し不利なことを隠すことが、魅力的なものになる。
CFO 169人を対象とした調査によると、上場会社の約20%、非公開の会社の約30%は、実際の業績を詐称するために収益の管理を行っている。(参照:“Earnings Quality: Evidence from the Field,” by Dichev, Graham, Harvey, Rajgopal, http://tinyurl.com/zwh55p5)。調査によると、企業がこのようなことを行う最も一般的な理由は以下のとおりである。
1. 株価に影響を与えるため。
2. 収益のベンチマークの達成に関する外部からのプレッシャーのため。
3. 収益のベンチマークの達成に関する内部からのプレッシャーのため。
4. 役員報酬に影響を与えるため。
5. 上級管理職が業績低迷の報告による今後のキャリアへの悪影響を恐れるため。
6. 財務制限条項の違反を避けるため(債権者・債務者間で会社が違反できない一定の財務比率の制限を合意すること)。
7. 順調な収益に対するプレッシャーのため。
8. 虚偽表示が発見されるような可能性がないと思い込んでいるため。

(その3に続く)

この記事の執筆者

Tom Baugher, J.D., CFE
フロリダ州タンパのFBI特別捜査官。本稿の視点は、必ずしも彼の雇用主の意向を反映するものではない。
翻訳協力:山内哲也、CFE、CIA、CISA
※執筆者・翻訳協力者の所属、保有資格等は本稿初出時のものである。

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2019.11.18 19:41:29