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一時所得と雑所得の所得区分の接点

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1 一時所得及び雑所得の定義

 本稿では、一時所得と雑所得の所得区分の接点について論じてみることにする。所得税法上、一時所得とは、次のいずれにも当てはまるものをいうこととされている。

 ① 利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得であること……他の所得区分に該当しないものであること。

 ② 営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であること……一時の所得のうち、事業などの業務に関わるものでないこと。

 ③ 労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しない所得であること……対価性のないものであること。

 また、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいうこととされている。

2 生命保険の一時金及び年金に係る所得を題材として

 一時所得と雑所得に所得区分が分かれる事例として、生命保険契約に基づいて個人が支給を受ける満期保険金を取り上げてみる。

 生命保険契約に基づいて個人が支給を受ける満期保険金については、一時金として給付を受けるものは、原則として一時所得として取り扱われ、年金として給付を受けるもの(反復継続して給付を受けるもの)は、雑所得として取り扱われている。上記1に照らしてみると、次のようなことがいえる。

イ 一時金に係る所得について
 ① 他の所得区分に該当しない。
 ② 一時の所得であり、かつ、事業などの営利を目的とする継続的行為に関わるものではない。
 ③ 対価性がない。

ロ 年金に係る所得ついて
 ① 他の所得区分に該当しない。
 ② 反復継続して給付を受けるため、一時の所得とはいえない。
 ③ 対価性がない。

 上記イ及びロの①については、論を俟たないと思われる。

 上記イの②については、一時に給付されるものであるから、「一時の所得」に該当するとしていると考えられる(ただし、個人事業の使用人等を被保険者とする生命保険契約の場合には、営利を目的とする継続的行為に関わるものがあり得るので、そのようなケースであれば、一時の所得といえども、事業などの業務による所得に含めることになる)。

 また、上記ロの②については、契約によって反復継続して給付を受けることになっているそういう性質を帯びている所得であるから、一時の所得とはいえないとしていると考えられる。この双方の②を通していえることは、契約によって、一時に給付されることになっているか複数回以上にわたって給付されることになっているかの違いである。要するに、給付回数が多いかどうかの違いである。

 上記イの③については、保険料を継続的に支払う契約の出口として一時金が支払われると考えれば、「対価性がない」と言い切れるかどうか疑問である。しかし、一時金として受け取る満期保険金を一時所得として取り扱ってきた経緯からすると、この程度のものには対価性がないと考えてきたものと思われる。そう考えなければ一時所得として取り扱ってきたことの説明ができない。

 上記ロの③については、一時金として受け取る満期保険金を対価性がないものとして取り扱っている以上、年金として受け取る満期保険金についても対価性がないといわなければ、つじつまが合わないことになるからであろう。

3 馬券の払戻金に係る所得の所得区分との関係について

 馬券の払戻金に係る所得の所得区分については、一時所得に該当するか否か議論のあるところである。この所得に関する最近の裁判例では、一審、二審とも国側が勝訴し、上告棄却により一時所得に該当するとして確定している(平成30年8月29日最高裁上告棄却)。この裁判例では、馬券の払戻金に係る所得は、偶然的中の「一時の所得」であり、かつ、「対価性」が認められないので、一時所得に該当するとしている点において特色がある。

 上記2と対比すると、一時金として受け取る満期保険金等と同じ結果になっている。「対価性」の意味内容をどうとらえるべきか悩ましいところであるが、一時金として受け取る満期保険金に対価性がないとすれば、馬券の払戻金に対価性があるとはいえないかもしれない。

 年金として受け取る満期保険金との対比でみると、年金の場合は「契約」により複数回以上にわたって給付されることになっているわけであるが、馬券の払戻金の場合は回数が多いかもしれないが複数回に分けて給付される「性質」のものではない。支払回数が多いことだけに着目すれば、いずれも「継続性」があるとみて、雑所得に該当すると考えることもできるであろうが、数多い支払のそれぞれが何らかの因縁を有していなければ、継続性があるとは言い難いように思われる。

 してみると、馬券の払戻金については、回数として連続しているのではなく、同種の行為が業務として連続しているとみて、雑所得に該当すると考えることもできるのではないだろうか。

執筆者情報

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税理士 小田 満

 国税庁勤務22年の後、町田・横浜南・板橋の各税務署長を経て、平成19年税理士登録。
 主な著書は、「図表でわかる新税制による金融商品課税の要点解説」、「Q&A プロ選手・開業医・芸能人等の特殊事情に係る所得税実務」など多数。

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2019.06.19 08:40:05