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シリーズ「法人税・グレーゾーンの税法解釈」(承前)

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その2 「貸倒損失の税務処理」

貸倒れ損失の損金算入をめぐる問題は、税務当局と納税者側において見解が対立し、争いが絶えない問題であり税務処理のグレーゾーン領域の一つと言われている。本稿においては、貸倒れの認定基準及び判例等に表れた実務処理のポイントなどについて解説し、参考に供する。

1 貸倒損失の計上に係る法令及び通達の規定振り

(1)法令の規定振り

 法人税法では益金や損金の算入要件について、法人税法上に別段の定めがない限り、一般に公正妥当な会計基準によって判断するものと規定している。法人税法は、貸倒損失の計上に関して別段の含めを有していないことから、貸倒発生という事実があれば法人税法22条3項3号が規定する一般損失として損金算入が可能となることになる。

 法人税法が貸倒損失の計上基準について別段の規定を置いていない理由は、貸倒損失が発生したかどうかはそのほとんどが事実として「貸倒れ」が発生したかどうかといういわゆる事実認定に属するところにあり法令として貸倒れについて改めて規定するにはなじまないことにあると思われる。しかしながら、論理的にはそうであるとしても、実際の個別の税務処理に当たって全くの処理基準なしでは実務処理が不可能ことも事実と言える。このため、執行上の統一を図る見地から法令ではなく国税庁が通達において損金算入基準を示す形で実務をリードしているというのが実態と言える。

 しかし、貸倒れの発生に至る個別の事情や背景には一つとして同じものはなく、各事象が通達に示す処理基準に合致するか否かという問題は当然として、そもそも現行通達自体が法人税法22条3項3号が規定する一般損失の発生を認識すべき基準に合致しているかどうかなどが問われるケースも多く生じてきている。これらの事情がこの貸倒れ認定をめぐるグレーゾーンを複雑にし、かつ、課税現場においても数多くの紛争を生じさせる背景となっている。

(2)国税庁通達が示す貸倒基準

 法人税基本通達では、貸倒れの発生について次の3つのパターンを示し、それぞれのパターンに応じ所定の要件を満たした場合について損金算入を認めるものと規定している。前述のとおり、法人税法は貸倒れに関する特段の規定を有しないためこの通達の示す基準が実務をリードしているといえる。

① 債権が法律的に消滅するパターンにおける貸倒れ処理基準(法基通9-6-1)
② 法律的には債権が存在するが、事実上その全額が回収不可能のパターンにおける貸倒れ処理基準(法基通9-6-2)
③ 売掛債権につき取引停止後1年以上弁済がないか、取立費用が債権の総額を上回るパターンにおける貸倒れ処理基準(法基通9-6-3)

<上記各通達ごとの貸倒基準>

① 法基通9-6-1「金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ」
   法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。

 (1)会社更生法もしくは金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更正計画認可の決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額

 (2)会社法の規定による特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額

 (3)法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
  イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
  ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっ旋による当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの

 (4)債権者の債務超過の状態が相当機関継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

② 法人税基本通達9-6-2「回収不能の金銭債権の貸倒れ」
  法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその金額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。

③ 法人基本通達9-6-3「一定期間取引停止弁済がない場合等の貸倒れ」
  債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理したときは、これを認める。

 (1)債務者との取引を停止した時以後1年以上経過した場合
 (2)法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき

2 グレーゾーンの判断に関する判例・当局見解等

 上記の法人税通達に示す貸倒損失の損金算入基準については、一つとして同じ事例のない貸倒事例の判断基準としては抽象的に過ぎる感はまぬがれない。実務的には個別に発生するグレーゾーンに属する事案の判断に当たっては実際に裁判で争われた事例や国税庁質疑応答事例、そして国税庁の担当官による解説などを基にぎりぎりの判断をすることが求められる。以下、個別のグレー事案に係る判例や当局見解などをいくつか紹介し参考に供する。

<参考事例その1>

第三者に対する債務免除につき貸倒れが認められるケース(国税庁質疑応答事例)
 
【照会要旨】
 A社は、B社に対して5千万円の貸付金を有している。B社は3年ほど前から債務超過の状態となり、その業績及び資産状況等からみても、今後その貸付金の回収が見込まれない状況にある。A社はB社に対して有する貸付金について書面により債務免除を行うことを予定しているが、これを行った場合、A社のB社に対する貸付金を貸倒れとして損金算入することは認められるか。

 なお、A社とB社との間には資本関係や同族関係などの特別な関係はなく、A社とB社との取引は第三者間取引である。

【回答要旨】
 当該貸付金については、貸倒れとして損金の額に算入されます。

(理由) 
1 照会の趣旨は、第三者に対して債務免除を行った場合に、その債務免除額は損金の額に算入できるかということかと思われます。この点、法人の有する金銭債権について、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面より明らかにされた債務免除額は、その明らかにされた日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入することとされています(法人税基本通達9-6-1(4))。

 この場合の貸倒損失の計上は、金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合の債務免除の取扱いですので、その債務者が第三者であることをもって無条件に貸倒損失の計上ができるというものではありませんが、第三者に対して債務免除を行う場合には、金銭債権の回収可能性を十分に検討した上で、やむなく債務免除を行うというのが一般的かと思われますので、一般的には、同通達の取扱いにより貸倒れとして損金の額に算入されます。

(注)第三者に対して債務免除を行う場合であっても、同通達に掲げる場合と異なり、金銭債権の弁済を受けることができるにもかかわらず、債務免除をおこない、債務者に対して実質的な利益供与を図ったと認められるような場合には、その免除額は税務上貸倒損失には当たらないことになります。

2 A社の場合、第三者であるB社は債務超過の状態にあり、B社に対する貸付金の免除は、今後の回収が見込まれないために行うとのことですから、当該貸付金については上記1の取扱いにより貸倒れとして損金算入されます。

3 なお、上記1の取扱いの適用に当たっては、次の点に留意する必要があります。

(1)「債務者の債務超過の状態が相当期間継続」しているという場合における「相当期間」とは、債権者が債務者の経営状態をみて回収不能かどうかを判断するために必要な合理的な期間をいいますから、形式的に何年ということではなく、個別の事情に応じその期間は異なることになります。

(2)債務者に対する債務免除の事実は書面により明らかにされていれば足ります。この場合、必ずしも公正証書等の公証力のある書面によることを要しませんが、書面の交付の事実を明らかにするためには、債務者から受領書を受け取るか、内容証明郵便等により交付することが望ましいと考えられます。

<参考事例その2>

会社更生手続中に行われる債権放棄につき貸倒処理が認められるケース(国税庁質疑応答事例)

【照会要旨】
 会社更生法の規定による更生手続が進行中であるA社は、更生計画認可前に、裁判所の許可を受けて、次により250万円以下の少額債券の弁済をするとした。

① 総額が50万円以下の債権は全額を弁済する。
② 総額が250万円以下の債権については、50万円を超える部分の金額に相当する債権を放棄することを条件として、50万円を支払う。これによる弁済を受けない場合は、その金額を更生債権として更生計画に組み入れることとし、債権者はあらかじめ定められた日までにそのいずれかによるかの意思表示をする。

 この場合、②により50万円の弁済を受けることを選択した債権者が放棄することとなるその50万円を超える部分の金額に相当する債権については、貸倒れとして損金の額に算入することができるか。

【回答要旨】
 貸倒れとして損金の額に算入される。

(理由)
 本件では、裁判所の許可を受けた更生手続の一環として50万円を超える部分の金額に相当する債権放棄が行われるものですから、たとえ債権者が債権の一部を放棄することを選択したとしても、それは経済的な価値判断に基づくものであり、放棄された部分の債権相当額を債務者に対する寄附金とすることは相当でないと考えられます。

<参考事例その3>

「全額が回収不能とはどのような状態かについて、具体的な解釈基準が示された事例
(大阪地裁昭和33.7.31判決)」

 「債権が回収不可能かどうかは、単に債務者が債務超過の状態にあるかどうかによって決すべきものではなく、たとえ債務超過の状態にあるとしてもなお、支払能力があるかどうかによって決定すべきものであり、法人である債務者において、債務超過の状態が相当の期間継続し他から融資を受ける見込みもなく到底再起の見通しがなく、事業を閉鎖あるいは廃止して休業するに至ったとか、会社整理破産、和議強制執行、会社更生等の手続を採ってみたが債権の支払を受け得られなかったなど、債権の回収ができないことが客観的に確認できる場合であって初めて回収不能と判断すべきである。」

<参考事例その4>

「全額が回収不能かどうかについては債務者側の事情のみではなく債権者側の事情も踏まえるべきとの判断が示された事例(最高裁平成16.12.24判決)」

 「金銭債権の貸倒損失を法人税法22条3項3号にいう「当該事業年度の損失の額」として当該事業年度の損金の額に算入するためには、当該金銭債権の全額が回収不能であることを要すると解される。そして、その全額が回収不能であることは客観的に明らかでなければならないが、そのことは、債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情のみならず、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衡量、債権回収を強行にすることによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断されるべきものである。」

<参考事例その5>

「全額が回収不能な場合に該当する例が網羅的に示された国税当局担当者の解説(法人税基本通達逐条解説)」

 法人税基本通達9-6-2では「法人の金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる」旨を示しています。

 「債権者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合については、具体的な例示はされていないことから、個々の事例に応じ、総合的に判断することになると考えられますが、例えば、破産、強制執行、死亡、行方不明、債務超過、天災事故、経済事情の急変等の事実が発生したため回収の見込みがない場合のほか、債務者についてこれらの事実が生じていない場合であっても、その資産状況等のいかんによっては、これに該当するものとして取り扱う等の弾力的な取扱いが行われることとされています。」

<参考事例その6>

通信販売により生じた売掛債権の貸倒れが認められる取引の範囲が示された事例(国税庁質疑応答事例)

【照会要旨】

 A社は、一般消費者を対象に衣料品の通信販売を行っている、代金については、必要な回収努力を行っている。顧客については、1回限りの場合も多くある。

 この場合、A社は、結果的に一回限りの販売しかしていない顧客を、法人税基本通達9-6-3(1)《一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ》の(注)における「継続的な取引を行っていた債務者」とみて、当該顧客に対する売掛債権について、貸倒れとして損金の額に算入することができるか。

【回答要旨】
 当該顧客に対する売掛債権については、貸倒れとして損金の額に算入することができます。
(理由)
1 商品の販売、役務の提供等の営業活動によって発生した売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権(売掛債権)については、他の一般の貸付金その他の金銭消費賃貸契約に基づく債権とは異なり、履行が遅滞したからといって直ちに債権確保のための手続を採ることが事実上困難である等の事情から、取引を停止した1年以上を経過した場合には、法人が売掛債権について備忘価額を付し、その残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認めることとされています(法人税基本通達9-6-3(1))。

  なお、この場合の「取引の停止」とは、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいいますから、例えば、不動産取引のように同一人に対し通常継続して行うことのない取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権が1年以上回収できないにしても、この取扱いの適用はないこととなります(法人税基本通達9-6-3(注))。

2 A社の衣料品の通信販売は、一般消費者を対象に行われるもので、同一の顧客に対して継続して販売している場合もあるものの、1回限りの場合も多いとのことです。したがって、通常継続して行われることのない取引であり、上記1の取扱いの適用はないものとも考えられます。しかしながら、衣料品の通信販売をいとなむA社のように、一度でも注文があった顧客について、継続・反復して販売することを期待してその顧客情報を管理している場合には、結果として実際の取引が1回限りであったとしても、A社の顧客を「継続的な取引を行っていた債務者」として、その1回の取引が行われた日から1年以上経過したときに上記1の取扱いを適用することができます。



執筆者情報

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税理士 小畑 孝雄

昭和41年東京国税局入局、国税庁法人税課、国税不服審判所勤務等を経て平成16年東京国税局法人課税課長、18年同調査第2部長を歴任し19年退官、税理士登録(日本橋支部所属)

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貸倒れ損失の損金算入をめぐる問題は、税務当局と納税者側において見解が対立し、争いが絶えない問題であり税務処理のグレーゾーン領域の一つと言われている。本稿においては、貸倒れの認定基準及び判例等に表れた実務処理のポイントなどについて解説し、参考に供する。
2019.05.28 17:22:27