HOME コラム一覧 生命保険法人契約の税務に関わる論点整理と考察(前編)

生命保険法人契約の税務に関わる論点整理と考察(前編)

post_visual

 本年2月中旬以降、国税・金融庁が生保業界に対して行った指導(この表現が妥当かどうか不明だが実質的に指導といえるはずである)により、法人契約による生命保険(定期保険系商品・第三分野系商品)の販売がほぼ停止状態となっている。そして4月11日、ようやく新なルール案が示された。パブリックコメントの期間は5月10日までとなっている。まず新ルール案について確認し、従来とどのように変わるのかをみてみる。更にこれによって今後どのような問題となっていくのかを考察し提起しておきたい。

1 新たなルールの内容

 4月11日に提示された新ルール案は読むと少しわかりづらい。ポイントごとに確認していこう。
・対象は定期保険及び第三分野保険である。
・この両商品については、保険料に含まれる前払い部分の保険料が相当多額と認められる場合を除いて、期間の経過に応じて損金に算入する。
 
 さて、問題は「保険料に含まれる前払い部分の保険料が相当多額」という点である。多額かどうかの基準は「最高解約返戻率50%を超えるもの」である。最高解約返戻率が50%を超える契約の場合には、保険料を期間の経過に応じて損金に算入するのではなく、一定の割合を資産計上する必要がある。資産計上の方法は、当該保険の解約返戻率により3区分とされた。

・最高解約返戻率50%超70%以下
 保険期間の開始から保険期間の「40/100」に相当する期間(資産計上期間)において、保険料の40%資産計上、残りを損金に算入する。資産計上期間終了後は、支払った保険料を期間の経過に応じて損金に算入する。資産計上した金額については、保険期間の「75/100」に相当する期間経過後から保険期間終了までにおいて均等に取り崩し、期間の経過に応じて損金に算入する。

・最高解約返戻率70%超85%以下
保険期間の開始から保険期間の「40/100」に相当する期間(資産計上期間)において、保険料の60%資産計上、残りを損金に算入する。資産計上期間終了後は、支払った保険料を期間の経過に応じて損金に算入する。資産計上した金額については、保険期間の「75/100」に相当する期間経過後から保険期間終了までにおいて均等に取り崩し、期間の経過に応じて損金に算入する。

 この2区分について従来ルールと大きく異なる点は、資産計上の期間、割合と同時に、資産計上累計額の取崩し時期にある。すなわち、従来は資産計上を終えると翌年から取り崩していたが、今回のルールでは、保険期間が「75/100」の期間経過後にならなければ均等取り崩しが始められないこととなっている。

 ・最高解約返戻率85%超
 資産計上期間は、「保険契約の始期から最高解約返戻率となる期間」である。ただし、「その期間経過後において、その期間における解約返戻金相当額からその直前の期間における解約返戻金相当額を控除した金額を年換算保険料で除した割合が70/100を超える場合には、その超えることとなる最も遅い期間」である。

 解約返戻率が最高となった後においても、実額としての解約返戻金はその後も相当期間増加している。今回のルールはそこに着目し、最高解約返戻率の時期を超えても(率で見ると下がり始めても)前年と当年の解約返戻金の差(増加額)が、年払い保険料(全期払におけるもの=年換算保険料)の70%を超えている間は、資産計上することを義務付けた。

 資産計上割合は「最高解約返戻率の70%」である。ただし、「保険期間開始から10年を経過するまでは90%」である。

 例えば、最高解約返戻率が90%の定期保険商品があったとしよう。その場合、当初10年は「最高解約返戻率90%×90%=81%」を資産に計上する。10年経過後は、「最高解約返戻率90%×70%=63%」を資産に計上する。いつまで資産計上するかは上記の資産計上期間である。

 次に資産計上期間経過後については、支払い保険料は損金に算入する。
それまで資産に計上した金額は「解約返戻金相当額がもっとも高い金額となる時期経過後から保険期間の終了までにおいて均等に取り崩し、保険期間の経過に応じて損金に算入する」。
 
 最高解約返戻率85%超に該当した場合、資産計上の割合は最高解約返戻率に依存して決まる。これまでのように資産計上割合自体が提示されていない。この点は従来と根本的に異なる。また当初10年とそれ以降で資産計上割合(最高解約返戻率にかける率が変わるため)が異なる点も留意する必要がある。資産計上累計額の取崩しは、解約返戻金の最 高額の時期経過後となるため、商品によっては相当後半にならないと取崩しが始められない。この点も留意しておく必要がある。

2 既存商品の従来―新ルール案比較(事例分析)

 今般の新たなルール案によってどのように保険商品の評価は変わるだろうか。新ルールによる変化が数値に現れるものとして保険期間中の「含み益」に着目しよう。すなわち「解約返戻金-資産計上額=含み益」である。保険商品を評価する場合、実数では「保険料累計・保険金・解約返戻金・含み益」の4つを見るとよい。以下具体的にみてみよう。例として長期平準定期保険について記述する。50歳男性、100歳満了保険金1億円 全期払 年払い保険料280万5600円(ある会社の例)である。従来ルールと新ルール案について図表1に実額ベースの推移を示す。

図表1 長期平準定期保険「従来-新ルール案」対比

①従来ルール推移

②新ルール案推移

 本事例では、最高解約返戻率は経過16年の93.1%、解約返戻金の最高額は経過41年である。最高解約返戻率の時期経過後、解約返戻金の各年の増加額が年払い保険料の70%を超える時期は経過26年までである。したがって新ルール案では資産計上期間は26年ということになる。

 従来ルールと新ルールのグラフ上に現れる相違は、「含み益」線みである。それ以外の実額はその商品そのものなので変化はない。含み益は「=解約返戻金-資産計上累計額」なので、資産計上のルールが変わると影響を受けて数値が変動する。

 一見すると、含み益の折れ線の位置が、新ルールでは下方に変化していることがわかる。これは、従来、保険料の1/2を資産計上(契約の6割期間)していたのに対して、新ルールでは、当初10年「93.1%×90%=83.79%」、その後も「93.1%×70%=65.17%」資産計上しているためである。

 本事例の商品は長期平準定期保険であるが、経過15年まで低解約期間が織り込まれた商品となっている。このため、その期間が終了した16年目に解約返戻金が跳ね上がり、率ではこの16年が最も高い93.1%である。

 新ルールではこの間、資産計上割合が高いため、含み益はマイナスである。すなわち低解約期間中「解約返戻金<資産計上額」となるためである。その後、資産計上の取崩しが経過41年(解約返戻金が最も高い時期)までできないため、含み益も増大スピードが上がらない。42年目から新ルールでは含み益が跳ね上がるが、解約返戻金の実額が経過42年から下がり始めるため 従来ルールの推移にくらべて水準的に上昇が限られている。

※ 図表1は実額ベースだが、率ベースでは解約返戻率と含み益率(対保険料)を検討する必要がある。これら実額ベース、率ベースについて、主要保険種類について興味がある方は、拙著「中小企業と生命保険法人契約」第24章をご覧いただきたい(ただし、新ルール提示前のため、資産計上割合が増加した場合については、想定として商品評価している)。

3 今後の問題

 冒頭触れたように現時点(4月12日現在)において新ルールは確定したものではなく案としてパブリックコメントが始まった段階にある。したがってルール自体の議論はまだ生ずるかもしれないのでその点は留意しておく必要がある。新ルールが確定した場合、今後生ずる問題について触れておきたい。

 まず保険商品そのものの問題がある。本事例でみたように、低解約返戻期間が設定された商品で、かつ最高解約返戻率が85%超(本事例では93.1%)の商品では、相当期間、含み益はマイナスである。これは契約する企業としては財務体質を弱める結果となるし、そもそも資金効率が悪い。したがってこのような商品自体が成立しない可能性が強い。同様に、解約返戻金が最高額となる時期が遅い商品ほど、資産の取崩しが始められない。したがって保険税務に依存しない保険料累計と保険金の関係など、商品の効率性そのものの評価が必要となる。このため保険会社による商品の改訂等が行われる展開が予想される。

 生命保険法人契約について俯瞰的に見ると、経営者の人的リスクに対応する準備手段としての生命保険の機能は衰えないが、企業の財務的な余力をもつための含み益形成の機能に着目した保険利用については、相当程度影響が予想される。

 生命保険法人契約の利用にあたっては、ルールの確定および今後の商品展開を待つ必要がある。しかし、従来、保障の問題(経営者の人的リスクへの対処)と、含み益の形成などについては、分離して検討されてきた側面が強い。今後は、人的リスクへの対処と、含み資産形成の機能との関連付けなど、これまでと相違する商品評価、利用(販売する側から見ると販売)を検討していく必要があると考えられる。

執筆者情報

profile_photo

小山 浩一

マーケティングコンサルタント

著者略歴
生保会社勤務を経て2010年コンサルタントとして独立。
2011年7月より(株)Break On Though 代表取締役。
2017年3月 法政大学大学院政策創造研究科より「生命保険加入行動の実証分析」により博士号授与。博士(政策学)。専門は、保険加入行動 リスク認知と対処行動 販売チャネルの消費者への影響等。
2018年より法政大学大学院策創造研究科 兼任講師

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

会計人 税金コラム

記事の一覧を見る

関連リンク

いつまで続く? 生命保険法人契約の税務に関わるイタチごっこ

非居住者が支払を受ける退職所得の課税方式の選択の特例

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2019/img/thumbnail/img_31_s.jpg
 本年2月中旬以降、国税・金融庁が生保業界に対して行った指導(この表現が妥当かどうか不明だが実質的に指導といえるはずである)により、法人契約による生命保険(定期保険系商品・第三分野系商品)の販売がほぼ停止状態となっている。そして4月11日、ようやく新なルール案が示された。パブリックコメントの期間は5月10日までとなっている。まず新ルール案について確認し、従来とどのように変わるのかをみてみる。更にこれによって今後どのような問題となっていくのかを考察し提起しておきたい。
2019.04.24 17:06:19