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生命保険法人契約の税務に関わる論点整理と考察(後編)

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 法人を契約者、受取人を法人とする生命保険法人契約に関わる資産計上ルールが、案の段階ではあるが、明らかになった。その内容は、前回、取り上げたところである。今回は、本年2月中旬に行われた国税・金融庁による指導(つまりは関係商品の販売停止)から、4月11日新ルール案の提示によるパブリックコメントの開始までの間、一部で見られた混乱した議論を取り上げたい。すなわち本件の意味を明確にするためである。

1 そもそも問題視された内容と範囲

 今般の問題は、もともと一定期間災害保障重視型定期保険の問題に端を発している。この商品は、直接その内容を規定する税務通達等が存在しない。このため、保険会社は以下のように解釈していた。

・まず被保険者の新契約時年齢と保険期間に焦点をあて、「法人が支払う長期平準定期保険の保険料の取扱いについて」(昭和62年6月16日発遣)を適用し、長期平準定期保険か定期保険かを判別する。
・次に定期保険に該当する場合には法人税法基本通達9-3-5をもって全額損金算入可能として扱う。

 しかし、上記通達等でいう定期保険は保険金が契約始期から設定されているものを想定しており、当該商品のように保険期間を前期期間とその後の期間に分け、前期期間については保険金が存在しない(病気死亡については責任準備金を保障)商品など織り込まれていなかった。にもかかわらず上記手順による解釈により「(通常の定期保険より)契約から一定期間、保険料に占める前払い部分が大きいにも関わらず全額損金!」という、“いいところどり”的解釈によって販売が行われた。そしてついに国税・金融庁が腰を上げ現在の状況に至っている。

 2月段階において国税庁は定期保険系商品(定期保険、長期平準定期保険、逓増定期保険、一定期間災害保障重視型定期保険等)と第三分野系商品(がん終身保険等)について、「契約期間3年以上」「満期返戻金がないもの」「給与損金とならないもの」を対象としてルール変更するとしていた。そして4月11日にこれらについて従来の商品別でなく包括的な基準(同一基準)によるルール(案)が提示された。

 新ルール案の提示までの間に生じた若干の混乱は、養老保険が今回のルール変更議論の範囲となるという憶測が一部にあったことである。「満期返戻金がないもの」を対象とするとしているため、当然養老保険は対象外のはずであった。しかし、養老保険は、生存保険と死亡保険を1対1で組み合わせたものであることからか、一部に対象となる可能性があるかのような誤解した議論が生じていた。今回の提示によってそこが範囲外であったことは明確となったが、そもそも範囲外である理由が示されたわけではない。そこで、養老保険について整理しておこう。

 養老保険は、支払い保険料としては全額資産計上として決着がついている。「支払い保険料として」というのは、「(法人が契約者となり)受取人が法人である」という主旨である。養老保険の場合、受取人は満期保険金と死亡保険金の二つがあり、両者を法人受取りとした場合にはその保険料は全額資産計上とされている(法人税法基本通達9-3-4(1))。したがって今回の問題と無関係である。

 次に満期保険金受取人を被保険者、死亡保険金受取人を被保険者の遺族としたものについては「給与損金」である(法人税法基本通達9-3-4(2))。したがってこれも対象外となる。

 混乱した議論は、満期保険金受取人が法人、死亡保険金受取人が被保険者の遺族とするいわゆるハーフタックスプランにおいて生じていた。これは保険料の1/2損金、1/2資産計上となっている(法人税法基本通達9-3-4(3))。ただし対象となる被保険者については全員加入(普遍的加入)要件が課されている。特定の者のみをこの形態で加入させた場合、1/2は給与損金である。

 全員加入(普遍的加入)要件を満たす形で契約したハーフタックスの場合、1/2損金の損金性は「支払い保険料」としてではなく「福利厚生費」としての損金である。そうでなければ全員加入(普遍的加入)要件はそもそも課される根拠がない。もともと「支払い保険料」としては全額資産計上とされており、契約形態が変わることによって「支払い保険料」として1/2損金が認められているわけではない。

 混乱の要因は、ハーフタックスプランにおける1/2損金の大きさが妥当かどうかを「前払い保険料の大きさ」に求める誤解によっている。すなわち前払い保険料がこれより大きければ、1/2損金が小さく変更されるのではないか、資産計上割合が増大することを危惧した議論だったようである。養老保険における死亡保障に関わる保険料は、死亡率を根拠としているが、この死亡率に対応する保険料部分が損金になるというなら、受取人が死亡、満期とも法人の場合でも、その率分だけ損金に落とすことが可能となるはずである。ハーフタックスプランにおける1/2損金は、あくまで福利厚生費として簡便法的に1/2としたものと解され、今回、定期保険等で問題視されている内容とは性格を異にしている。

 以上のことから、今回の問題として養老保険が対象範囲とならなかった理由がわかる。当然、今回の議論の延長線から今後、養老保険の問題が生ずることはないはずである。もし将来、それが生ずるとすれば、福利厚生費としての性格の妥当性が問題となった時と考えなければならない。

2 新ルールと既存ルールの整合性と乖離をどう考えるか

 4月11日に示された国税庁「法人税基本通達の制定について(法令解釈通達)他1件の一部改正等(案)の概要」4頁下段(最高解約返戻率の区分に応じた資産計上のルール)において次のような記述がある。

 「そこで、新たな資産計上ルールでは、最高解約返戻率が85%以下の商品については、各商品の実態に応じて、支払い保険料の額に一定割合を乗じた金額を一律の期間資産計上するという現行の取り扱いと同様の簡便なルールとします。これとは別に、前払い部分の保険料が極めて多額となると認められる最高解約返戻率が85%超の商品については、資産計上額の累積額が前払部分の保険料の累積額に近似するよう、最高解約返戻率に応じてより高い割合で資産計上することとします」

 前回取り上げた長期平準定期保険の場合、最高解約返戻率が93.1%の商品であった。このため、従来、50歳契約、100歳満了であれば、6割期間である30年にわたって1/2資産計上していた。これに対して新ルールでは、この商品の場合、当初10年は「最高解約返戻率93.1%×90%=83.79%」を資産に計上する。さらに11年目から26年目まで「最高解約返戻率93.1%×70%=65.17%」を資産に計上する。

※ 26年目まで資産計上する理由は、最高解約返戻率の時期を経過した後、その期間の解約返戻金と直前の解約返戻金の差が、年換算保険料の70%を超える最も遅い時期まで資産計上するルールが提示されているためである。したがって最高解約返戻率85%超の商品の場合、資産計上割合だけでなく、資産計上期間についてもその商品固有の推移により相違することになるので留意しておく必要がある。
 
 前回取り上げた事例について資産計上の累積額で対比すると、従来ルールでは保険料30年分の50%が資産に計上された。これに対して新ルール案では保険料の26年分の72.33%分が資産計上される。既存商品の場合、そのまま新ルール案を適用すると、相当期間かつ前倒しの形で高い割合の資産計上を行う必要があることがわかる。

 国税庁は、この内容の根拠として最高解約返戻率が85%超の商品については「資産計上額の累積額が前払部分の保険料の累積額に近似するよう、最高解約返戻率に応じてより高い割合で資産計上する」こととしたと説明している。

 長期平準定期保険の取り扱いは昭和62年に示され安定的に運営されてきたように思われる。この間、特段問題視したとの表明が行われたとも思えない。平成20年の改正は、逓増定期保険に関わるもので長期平準定期保険については昭和62年の内容が継続され、現在に至っている。

 一定期間災害保障重視型定期保険に端を発した今回の新ルール案提示によって、きっかけとなった商品以上に広範囲の商品が、その取扱いにおいて大幅な変更を余儀なくされる。従来ルールと新ルール(案)の乖離が大きいことについては留意しておく必要がありそうである。

 本件乖離の大きさについて、国税庁の文書は理論的な概念説明だけになっている。継続性の観点では、更なる説明が行われる必要があるように思われる。

執筆者情報

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小山 浩一

マーケティングコンサルタント

著者略歴
生保会社勤務を経て2010年コンサルタントとして独立。
2011年7月より(株)Break On Though 代表取締役。
2017年3月 法政大学大学院政策創造研究科より「生命保険加入行動の実証分析」により博士号授与。博士(政策学)。専門は、保険加入行動 リスク認知と対処行動 販売チャネルの消費者への影響等。
2018年より法政大学大学院策創造研究科 兼任講師

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2019.04.24 17:00:09