「生産性向上特別措置法」について
弁護士の吉井です。
本年5月16日、生産性向上特別措置法が成立し、6月6日、施行されました。
この法律は、データ活用支援施策として、市町村の認定を受けた中小企業の設備投資について、市町村の判断により、最大3年間、固定資産税がゼロとされる、一定の補助金について、優先採択の対象となるなど(詳しくは、中小企業庁ウェブページ「経営サポート『生産性向上特別措置法による支援』をご覧ください。)、最近話題になっています。
もっとも、生産性向上特別措置法は単なる中小企業の設備投資に対する経済的な支援を目的とするだけの法律ではなく、大きな目玉として、アグレッシブなベンチャー企業にとって、大きな可能性を秘めた、プロジェクト型「規制のサンドボックス」(新技術等実証)制度がこの法律により創設されています。
いわゆる法規制の範囲の外延があいまいなグレーゾーンでは、法的リスクの存在から、手が出しにくい反面、多くのビジネスチャンスが存在し、果敢に挑むことにより、大きな成長を果たすことができた企業もあれば、違法行為を行った企業であるとのレッテルが貼られ、再起不能となった企業まで様々でした。
新規ビジネスにおけるグレーゾーンの解消については、従前、法令適用事前確認手続(日本版ノーアクションレター制度)、グレーゾーン解消制度などがあり(これら制度についての詳細は、弊所ウェブサイトのコラム「新規ビジネス立ち上げと行政規制①(グレーゾーン対応を中心に)」をご覧ください)、また、代替措置を条件として、企業単位での規制の特例措置を認める企業実証特例制度、特区制度などがありましたが、利用が進んでいなかったといわれています。
新技術等実証制度では、一定の新技術等の実証について、参加者の範囲を特定し、また参加者の同意を得る等の措置を講じ、規制の特例措置が認められます。申請認定の際の特色として、事業者による計画申請の窓口が一元化されており、手続の簡素化・迅速化が図られているという点が挙げられます。
もちろん、申請する計画の策定や、行政との折衝、具体的な措置に対する対応等は、経営的な観点だけでなく、法的な観点も必要となりますので、ハードルがないわけではありませんが、従前の企業実証特例制度では、規制緩和案を企業側が、事業所管官庁に提案しなければならず、大きな負担があったことを考えれば、利用しやすい制度であるように思われます。
あくまで、実証のための制度であり、規制の見直しなどを促すことが目的の制度ではありますが、その中でも、先行してビジネスを進めることによるメリットはあるように思われます。
無我夢中に走ってしまい、引き返せなくなった場合のビジネスに与える影響は計り知れません。まだ始まったばかりの制度ですが、革新的な技術、ビジネスモデルをお持ちの企業こそ、このような制度を積極的に使っていくべきではないかと思われます。