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93)『労働分配率』に内在するパラドクスを価値化する①

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 今回取り上げるテーマは「労働分配率」です。労働分配率は粗利益に占める人件費の割合と表現され、計算式にすると「人件費/粗利」となります。計算式はシンプルですが、給与決定や社員と会社の関係を考える上で、大変役に立つ、奥深い指標が「労働分配率」です。

 労働分配率を明らかにするには、まず自社の「人件費」を定義する必要があり、これは経営者の考え方に大きく左右されます。まず「給与」が人件費になるのは当然として、「法定福利費」「福利厚生費」も人件費に含むのが一般的です。中には「旅費日当」「教育研修費」「派遣費用」等も人件費とする会社もあります。

 また、見解の相違が多いのが「役員報酬」です。人件費を単純に人にまつわる経費とすれば当然役員報酬は人件費に含みますが、粗利創出の為の人的投下を人件費と定義すれば、例えば節税の視点から支給する役員報酬部分は人件費からは除くという見解になります。

 いずれにしても、自社の人件費を明確に定義することが出発点です。その際、幹部社員や全社員を巻き込んだ議論をすることで、社員や経営幹部に会社の業績と自分の給与について考えてもらう良い機会にすることも可能です。

 一方で会社によって人件費の定義が異なる為、単純に労働分配率を他社比較しても意味が無いことはお分かりいただけると思います。そうです。労働分配率は他社比較する指標ではありません。では、どうやって活用するのか?が大事です。

 労働分配率を活用するには、そこに内在する大きな自己矛盾(パラドクス)を知っておく必要があります。単純に労働分配率の計算式を見ると「労働分配率が高い=人件費が高い=給与が高い」逆に「労働分配率が低い=人件費が安い=給与が安い」となりますが、実際はそうではないのです。これが労働分配率に潜むパラドクスです。

 この点を押さえて、労働分配率の具体的活用方を次回以降考えていきたいと思います。その前に、早速「人件費の定義」に取組んでみて下さい!

執筆者情報

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白川 正芳

株式会社楠本浩総合会計事務所代表取締役
一般財団法人B/S経営をすゝめる会 監事
一般財団法人M&Aで日本を再編成する会 理事
全国会計人共同体 副代表

1997年、株式会社楠本統合戦略マネージメント入社。株式会社楠本浩総合会計事務所へ転籍後、楠本税理士事務所へ7年間出向。その後、2009年35歳で代表取締役に就任。社外内部役員として多くの顧客の支持を集める。事業承継・組織再編・M&A・公益法人を活用した経営改善の支援等々、複雑な手術を手掛ける。

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2017.11.27 09:14:20