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取締役の利益相反取引規制について

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1 今回は、取締役が会社と利益相反関係に立ちうる取引をなす場合の、会社法の規制について説明したいと思います。
 取締役が当事者として、または他人の代理人として、会社と取引をする場合には、取締役会設置会社以外の会社においては株主総会の承認、取締役会設置会社においては取締役会の承認を受けなければなりません(会社法356条1項2号3号、同法365条1項)。その趣旨は、取締役が会社の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ることを防止するところにあります。
 なお、株式会社等会社法の会社以外の法人についても、同様の規制が置かれている場合があります。例えば、医療法においても、医療法人につき、理事の利益相反取引ついての規制が置かれています。具体的には、医療法46条の6の4が一般社団・財団法人法84条を準用しており、医療法人の理事が医療法人と利益相反関係に立ちうる取引をなす場合は理事会の承認を受けなければならないとされています。

2 親子、夫婦、兄弟等親族ばかりが株式を保有する株式会社においては、法的紛争の発生リスクが高くないように思えるため、法令に定められたルールの遵守が疎かになっていることがあります。今回説明する取締役の利益相反取引規制も、日頃の会社運営においてさほど意識されないものかもしれません。しかし、親族のみが株主である場合においても、人間関係に変化(夫婦の離婚、兄弟間の相続紛争、親子けんか等)が生じれば、法的紛争に発展し、そこにおいては上記ルールの不遵守が原因となり、会社や現経営陣にとって大きな損失が生じる場合があると考えます。

3 利益相反取引規制の具体的内容をみていきます。
 ⑴ 規制の対象となる取引  
直接取引:取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき(会社法356条1項2号)
 ※ A社(取締役は甲・乙・丙の3名。代表取締役は甲)の取締役丙が、A社と取引をする場合、A社において株主総会又は取締役会の承認が必要です。この場合、A社側は代表取締役の甲が契約書に押印をし、丙はA社側としては登場しないようにも思え、利益相反取引規制の対象外ではないかとも思えます、しかし、丙と甲が結託してA社の利益を犠牲にする可能性があるものとして、規制対象とされています。
 ※ 抽象的にみて会社に損害が発生しない取引(会社が取締役から無利息・無担保の貸付けを受ける、債務を履行する、普通取引約款に基づく取引をなす、等)については、承認は不要と解されています。また、利益相反取引規制は株主の利益保護のためのものであり、株主全員が同意している場合には取締役会の承認は不要と解されています。
間接取引:株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき(会社法356条1項3号)
 ※ 会社・第三者間の取引であって外形的・客観的に会社の犠牲において取締役に利益が生ずるようなものにつき、会社を代表する者が当該取締役であるか否かを問わず、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認が要求されます。
 ⑵ 承認を受けなかった場合の取引の有効性
 ア 会社側から取引が無効であることを主張することができます。当該取締役の側から無効を主張することはできません。
 イ 最高裁は、第三者が存在する場合、会社は、当該第三者の悪意(利益相反取引に該当することを知っており、かつ、株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)の承認を受けていないことを知っていたこと)を立証すれば、当該第三者にも無効と主張できると解しています。
 ⑶ 任務懈怠責任
 利益相反取引によって会社に損害が生じた場合は、取締役(利益相反関係に立つ取締役、当該取引をすることを決定した取締役、当該取引に係る取締役会の承認の決議に賛成した取締役)は任務懈怠があると推定され、任務懈怠がないことを証明しない限り、会社に対する損害賠償責任を負うことになります(会社法423条3項)。

4 利益相反取引の開示
 利益相反取引については、個別注記表のなかで一定の事項が開示されることになります(会社計算規則98条1項15号、同規則112条)。 

執筆者情報

代表社員・弁護士 植木 博路

弁護士法人ALAW&GOODLOOP

会計事務所向け法律顧問
会計事務所向けセミナー

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1 今回は、取締役が会社と利益相反関係に立ちうる取引をなす場合の、会社法の規制について説明したいと思います。 取締役が当事者として、または他人の代理人として、会社と取引をする場合には、取締役会設置会社以外の会社においては株主総会の承認、取締役会設置会社においては取締役会の承認を受けなければなりません(会社法356条1項2号3号、同法365条1項)。その趣旨は、取締役が会社の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ることを防止するところにあります。 なお、株式会社等会社法の会社以外の法人についても、同様の規制が置かれている場合があります。例えば、医療法においても、医療法人につき、理事の利益相反取引ついての規制が置かれています。具体的には、医療法46条の6の4が一般社団・財団法人法84条を準用しており、医療法人の理事が医療法人と利益相反関係に立ちうる取引をなす場合は理事会の承認を受けなければならないとされています。2 親子、夫婦、兄弟等親族ばかりが株式を保有する株式会社においては、法的紛争の発生リスクが高くないように思えるため、法令に定められたルールの遵守が疎かになっていることがあります。今回説明する取締役の利益相反取引規制も、日頃の会社運営においてさほど意識されないものかもしれません。しかし、親族のみが株主である場合においても、人間関係に変化(夫婦の離婚、兄弟間の相続紛争、親子けんか等)が生じれば、法的紛争に発展し、そこにおいては上記ルールの不遵守が原因となり、会社や現経営陣にとって大きな損失が生じる場合があると考えます。3 利益相反取引規制の具体的内容をみていきます。 ⑴ 規制の対象となる取引  直接取引:取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき(会社法356条1項2号) ※ A社(取締役は甲・乙・丙の3名。代表取締役は甲)の取締役丙が、A社と取引をする場合、A社において株主総会又は取締役会の承認が必要です。この場合、A社側は代表取締役の甲が契約書に押印をし、丙はA社側としては登場しないようにも思え、利益相反取引規制の対象外ではないかとも思えます、しかし、丙と甲が結託してA社の利益を犠牲にする可能性があるものとして、規制対象とされています。 ※ 抽象的にみて会社に損害が発生しない取引(会社が取締役から無利息・無担保の貸付けを受ける、債務を履行する、普通取引約款に基づく取引をなす、等)については、承認は不要と解されています。また、利益相反取引規制は株主の利益保護のためのものであり、株主全員が同意している場合には取締役会の承認は不要と解されています。間接取引:株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき(会社法356条1項3号) ※ 会社・第三者間の取引であって外形的・客観的に会社の犠牲において取締役に利益が生ずるようなものにつき、会社を代表する者が当該取締役であるか否かを問わず、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認が要求されます。 ⑵ 承認を受けなかった場合の取引の有効性 ア 会社側から取引が無効であることを主張することができます。当該取締役の側から無効を主張することはできません。 イ 最高裁は、第三者が存在する場合、会社は、当該第三者の悪意(利益相反取引に該当することを知っており、かつ、株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)の承認を受けていないことを知っていたこと)を立証すれば、当該第三者にも無効と主張できると解しています。 ⑶ 任務懈怠責任 利益相反取引によって会社に損害が生じた場合は、取締役(利益相反関係に立つ取締役、当該取引をすることを決定した取締役、当該取引に係る取締役会の承認の決議に賛成した取締役)は任務懈怠があると推定され、任務懈怠がないことを証明しない限り、会社に対する損害賠償責任を負うことになります(会社法423条3項)。4 利益相反取引の開示 利益相反取引については、個別注記表のなかで一定の事項が開示されることになります(会社計算規則98条1項15号、同規則112条)。 
2017.11.22 13:36:36