交通事故と所得税
交通事故の被害に遭われた方が、保険会社から受け取った治療費、慰謝料等の損害賠償金は、課税対象になるのでしょうか。
結論としては、交通事故の損害に対して支払われた損害賠償金は、事故による損害を回復するものであって、報酬や収益等と異なり、対価ではないため、原則として所得税は課税されません。そのため、被害者の方だけでなく、遺族の方が損害賠償金を受け取った場合にも、所得税はかかりません(相続税の課税対象にはなり得ます)。
しかし、交通事故に遭われた方が受領する損害賠償金には多様な種類があります。場合によっては確定申告の際に取り扱いが異なる場合がありますので、注意が必要な場合をいくつかご紹介します。
1 治療費
医療費控除の金額は、原則として
(①実際に支払った医療費の合計-②保険金などで補てんされる金額)-10万円
という計算式で計算されます。この点、治療費として受け取った金額は、医療費を補てんする金額であり、上記計算式の「②保険金などで補てんされる金額」であるため、医療費控除を計算する上では、「①実際に支払った医療費の金額」から差し引くことになります。
2 損害を受けた資産が事業用の資産の場合
⑴ 商品の配送中の事故で使いものにならなくなった商品に対する損害賠償金
棚卸資産の損害に対する損害賠償金などは、収入金額に代わる性質を持つものであり、非課税とはならず、事業所得の収入金額となります。
⑵ 車両が店舗に衝突し、修理期間中に仮店舗を賃借した場合の賃借料の補償としての損害賠償金
この損害賠償金などは、必要経費に算入される金額を補てんするためのものであり、非課税とはならず、事業所得の収入金額となります。
⑶ 事故により事業用の車両を廃車とする場合で、その車両損害に対する損害賠償金
上記のように、車両の損害に対する損害賠償金などは、事故による損害を回復するものであって、対価ではないため、非課税となります。ただし、車両について資産損失の金額を計算する場合は、損失額から損害賠償金などによって補てんされる部分の金額を差し引いて計算することになります。
なお、この場合、損害賠償金などの金額がその損失額を超えたとしても、全額が非課税となります。
3 心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金
非課税となる見舞金は、社会通念上それにふさわしい金額のものに限られます。また、収入金額に代わる性質を持つものや役務の対価となる性質を持つものは、非課税所得から除かれることになります。
以上のように、交通事故に関する損害賠償金と税金との関係は非常に複雑ですので、交通事故のご相談・ご依頼をされる場合には、税金についてもアドバイスできる弁護士を選ぶことが重要です。