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包括契約における不正(Fraud in umbrella contracts)その4 (全4回)

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ケーススタディーが示す見落とされた重大な利益相反

危険兆候(The Red Flags)

 クオテロン社のスタッフ、特に調達部門の管理者と監査人達が誰一人として、各プロセスに沢山の情報があったにもかかわらず、危険兆候を見抜くことができなかったのは明らかである。

既存取引履歴(Prior History)

 包括契約の前にドンレインサプライの選定が不自然に続いたことは、懸念事項となるべきであった。特に、国内のハードウェアの供給は専門性がなく、他の業者が実際に選定可能な対象だった事を考え合わせると懸念事項となってしかるべきだったのだ。
 年間75,000ドルもの物品を供給したにもかかわらず、ドンレイン社との個々の供給価格は低く、複数競争入札を必要とする財務(承認)基準値以下であった。これは明らかな危険兆候と言って良い。
 また、ドンレインサプライに対するケンの梃子入れは、同僚や管理者と共に疑問が呈されても不思議ではなかった。特にケンは、他の調達分野については、特定の企業を支持することはなかったからである。このケースでは、ケンの圧倒的な個性が果たす役割が大きい。個性自体が危険兆候にはなるとは限らないが、圧倒的な個性がもたらす影響については警戒すべきである。

決定(The decision)

 クオテロン社の経営者は、(ドンレイン社との)包括契約を推進する性急な決定を疑問視すべきだった。とくにドンレイン社一社以外の調達先を伴わない長年に渡る取引以降は特にそうである。ハードウェアの需要はその後もあったが、包括契約に関する明確なビジネス上、オペレーション上の必要性が存在しなかったばかりか、包括契約締結に至る決定を正当化した文書も存在しなかったのである。経営者は時間を節約することはできたものの、類似の物品や役務について検討することはなかった。国内のありふれた商品については疑問視してしかるべきものだった。

入札募集(Bid solicitation)

 ジュディは、なぜ4つの供給業者を選定しアプローチしたのかについて正当な理由を文書化していなかった。(入札に関する)公募が欠けていたことも危険兆候だった。国内のハードウェアの供給は専門的な市場ではなく、沢山の供給業者が入札資格を有しているはずである。

業者選定過程(The selection process)

 入札封筒を破棄したことはお粗末なやり方で、入札の適切な実施を確保するための過程の審査を制約することとなった(調査担当者は、ジュディがケンの圧力の下で入札資料を開封し、評価委員会に諮る前に再び封緘された可能性を疑ったが、この疑いについては検証されなかった)。

契約締結、実績、契約更新(Contract award, performance and renewal)

 クオテロン社は、ドンレイン社を唯一の標準供給業者として選定した。複数の供給業者に包括契約を与えることでクオテロン社はより多くの選択肢を持つことができたのだが、それができない理由は存在しなかった。誰も(ドンレイン社との)包括契約締結前にドンレイン社の実態調査を行うこともなかった。もし、実態調査を行っていたなら、ケンがドンレインサプライの陰の経営者であることが分かったはずだ。ドンレイン社の年次決算額75,000ドルは、クオテロン社との年次取引金額レベルとほぼ一致したが、それは即ちドンレイン社の事業継続はクオテロン社との取引に完全に依存していた、ということになる。他の危険兆候としては、調達管理者がドンレイン社やその実績を審査することなく、契約を更新したことである。

結末(Outcome)

 調査の結果、クオテロン社はケンを解雇し、ドンレイン社を指定供給業者から外した。ケンが腐敗した活動に関与する一方でお粗末な調達管理が状況をさらに悪化させただけだったのである。調達管理者は、調査が終結する前に退職したが、もし、もう少し念入りに仕事をしていたなら、もっと早い段階で多くの不正行為を指摘することができたはずだ。内部監査人達もこの(包括)契約を見過ごし、包括契約は調達リスクを低減するものだと思い込んでしまっていた。

教訓(Lessons Learned)

 包括契約は、購入者に多くの利点をもたらす一方、包括契約を選択するにあたっては通常の入札においても要求される基本的な注意義務を必要とする。自ら不正リスクが低減されるものだと思い込んではならない。低減されるかもしれないがそれは適切に実施された場合のみである。お粗末に運用すれば、むしろ不正を促進しさえする。不正検査士や監査人達は、このことを肝に銘じながら包括契約やその実施を勧告すべきである。全ての包括契約は正当で文書化されたビジネス上の必要性に基づくものであるべきであり、必要な場合には他の供給業者からも調達することができるよう柔軟性を確保しておくことだ。包括契約は、危険兆候を探知する機会を提供してくれるが、可能性のある供給業者との既存取引履歴も見逃してはならない。逆に言えば、落札後に起こった事象も不正の可能性を探る手がかりとなり得るのだ。業者に対する実態調査も看過してはならない。それは、たとえ業者と長期に渡る取引実績があったとしても同様である。これは、単に良いやり方だと言うだけに留まらない。定期的な実態調査を怠ること自体がプロ意識や注意義務の欠如、あるいはさらに悪い事態の発生を自ら暗示してしまうことになるのである。

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初出 FRAUDマガジン日本語版42号

この記事の執筆者

Paul Catchick, CFE

機構(OSCE)の内部調査官である。
翻訳協力:神谷 泰樹 CFE, CRMA, 認定コンプライアンスオフィサー

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