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包括契約における不正(Fraud in umbrella contracts)その2 (全4回)

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ケーススタディーが示す見落とされた重大な利益相反

どの段階にも存在する不正や談合(Fraud or collusion at any stage)

 実際に緊急性がなければ、購買者は包括契約を締結する前にまず多くの供給業者を評価すると共に、入札評価を行うことが望ましい。予め選定された、たった一つの供給業者との交渉は、取引総額が小さくない限りは危険兆候とされるおそれがある。
 包括契約を付与する主なステップは、開始の決定、入札募集プロセス、選定プロセスである。これらのいずれの段階においても不正や談合が発生するおそれがあり、危険兆候は通常の競争入札を行う場合と同様である。
 しかし、さらに、不正の可能性を評価するに際しては、正式な選定プロセスの前後に追加される段階がある。また、これらの段階を精査することによってさらなる危険兆候が照らし出されることがあるかもしれないのだ。以下が5つの異なるステップとそれぞれのステップに対応した危険兆候である(ただし、これは調達不正の指標の全てを網羅するものではない)。

1.既存取引履歴(Prior history)

 購買部門は、包括契約を検討している一社あるいは複数の供給業者について取引履歴を保有しているかもしれない。こうした履歴によって、財務部門の設定する(承認)基準値を僅かに下回る複数契約、実績や費用対効果が悪いにもかかわらず繰り返し利用されている供給業者、と言った伝統的な調達における危険兆候の存在を明らかにしてくれるかもしれないのだ。

2.決定(The decision)

 日常の調達活動でさえ書面化された申請・承認のプロセスを必要とするのだから、包括契約においても違いがあってはいけない。文書の欠落は、包括契約締結の相手方との取引が確固としたビジネス上の必要性を欠いているか、選定に際して既得権益が存在しているか、あるいはその両方を警告しているかもしれないのだ。

3.入札募集(Bid solicitation)

 通常の見積要求プロセスや入札募集におけるのと同様の危険兆候は、包括契約においても当てはまる。例えば、包括的取引に関する競争入札募集は、商品や役務の価格情報を要求する可能性が高く、これらは特定の一社の商品を優遇するために仕組まれていることがある。それと同様に、広く公募しない、入札のために他の名の知れた供給業者を募集しない、あるいは、入札までの期間が際立って短い場合については、常に疑問を持つべきである。これらの不備は、内部の従業員からの内部情報を保有している入札者を優遇するために仕組まれたものかもしれないのだ。また、実際のビジネス上の要求事項と成果物との不一致も危険兆候かもしれない。

4.選定過程(Selection process)

 領収証、保管場所、入札公開にも注意を払うべきである。選定評価が適切な職責分離原則の下に実施されていることを確認するべきだろう。疑わしい入札パターンがないか探してみることだ。選定根拠が適切に文書化されていない場合、特に最も低い価格を提示した業者が選定されていない場合などは危険兆候である。

5.契約締結、実績、契約更新(Contract award, performance and renewal)

 選定後であっても、危険兆候が現れることがある。長期にわたって取引を行う供給業者であっても正式な契約が取り交わされる前に当該供給業者の実態調査がなされていない場合には特に懸念を持つべきである。供給業者の実態調査は不正リスクを明らかにするだけではなく、サプライチェーンや風評リスク(例えば、劣悪な労働環境で業務を行っていることで悪名高い業者を使用する等)と言ったビジネス上のリスクも明らかにするものである。元々の想定よりも多い取引量にも目を光らせなければならない。これは、当初の入札募集において必要とされていたよりも低いレベルの審査を誘引する狙いがあったのかもしれないのだ。
 包括契約の元では個々の調達を行うことがより簡単になるため、企業は包括契約で指定されたタイプの購買を行う目的でのみ当該供給業者を使うようにしなければならない。これから逸脱した場合には疑問を持つことである。不正検査士は契約条件を変えようとするいかなる試みに対しても警戒すべきなのである。複数の包括取引業者が存在する場合には、調達部門のスタッフが選定ガイドラインに習熟し、適切な業者を選定できるようにしなければならない。購買スタッフを交代させることによって過度に特定の業者と癒着するリスクを低減することもできるだろう。
調達スタッフは、継続的に包括契約業者の実績を見直すと共に、契約の更新は、文書化された見直しと更新許可のプロセス後に行わなければならない(改めて業者の実態調査を行うのが理想的である)。
(その3に続く)
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初出 FRAUDマガジン日本語版42号

執筆者情報

Paul Catchick, CFE

政府間不正、汚職分野の博士号を持ち、オーストリア・ウィーンに本拠地を置く欧州安全保障協力機構(OSCE)の内部調査官である。
翻訳協力:神谷 泰樹 CFE, CRMA, 認定コンプライアンスオフィサー

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2017.06.13 15:41:22