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改めて注目しよう「税務職員便覧」の活用!

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1「税務職員便覧」とは

 税理士事務所の書棚には、税務関連の多くの本に混ざって「税務職員便覧」があるのは見慣れた風景である。しかし、この「税務職員便覧」は、本当に活用されているのだろうか。例えば、単に、税務調査の際に担当調査官の部署や官職を確認したりしているだけではないだろうか。「税務職員便覧」には、さらに有効な活用方法がある。

 国税職員の人事異動は、毎年原則7月10日に行われ、全国の約5万6千人の約3分の1の職員が入れ替わっている。この定期異動後の国税局・税務署における職員配属をまとめたものが「職員配属便覧」である。定期異動後、国税当局が情報公開法に基づいて開示している税務職員の在籍・異動内容をもとに、税務関連の民間企業が10月ごろに発行している。 主な発行会社は以下の3社だ。

【税務研究会】(東京都千代田区丸の内1-8-2 鉄鋼ビルディング)
 「税務職員録」として、国税庁、国税局、税務署 等に所属している職員の氏名とその所属先や役職が記載されている税務職員の名簿だ。同社が発行する「週刊税務通信」等の購読者に付録として提供している。なお、会員向けに「税務職員録データベース」を構築しており、5年に遡って配属先を知ることができる。

【NP通信社】(東京都中央区京橋1-14-9 4階)
 「税務職員配属便覧」として発行。昭和25年の創刊以来、最も歴史のある税務職員名簿。持ち運びに便利なA6版ポケットサイズで、豊富な付録掲載、丈夫な特殊表装、引きやすさに工夫を凝らした人名索引などが特徴で、有償で販売している。

【税経】(東京都豊島区池袋本町4-1-1、現在、豊島区東池袋3-13-2 イムーブル・コジマ7階に仮移転中)
 「職員配属便覧」として、国税職員の定期異動後の国税局・税務署における職員配属をコンパクトにまとめたもの。前任地、索引付。全国12の国税局・所の職員録を発行しており、同社が発行する旬刊「税と経営」等の読者に贈呈している(非売品)。なお、同社は「10年職歴」を発行している。この「10年職歴」は、国税局局長から事務官にいたるまでの国税局・税務署職員の10年間の配属先をコンパクトにまとめたものだ。東京国税局を始め12国税局・所(熊本局・沖縄事務所は合本)ごとに3000円から6000円で有償販売している。

2 国税職員とは

 国税職員とは、主に内国税に関する調査や検査又は内国税の賦課及び徴収の業務に従事する職員のことをいう。東京・霞が関の国税庁を頂点に、全国11の国税局と沖縄国税事務所が管轄する計524税務署があり、約5万6千人の職員がいる。国税職員の勤務する部門については、ここでは一般の納税者が最も密接なつながりを持つ馴染み深い税務署の仕事を紹介しておく。

【総務課】 総務課は、税務署内における事務の総括を行っている。具体的には、複数の部署に関連する事務についての調整、申告書や各種届出書等の受付、情報公開や個人情報の開示等の請求の受付、税理士制度の運営等を行っている。

【管理運営部門】 管理運営部門は、租税債権の管理事務のほか、来署した納税者の窓口として各種申告書及び申請書等の受付、各種用紙の交付、納税証明書の発行、国税の領収、国税に係る制度や手続に関する一般的な相談への対応を行っている。なお、管理運営部門の事務と徴収部門の事務を行う、管理運営・徴収部門が置かれる税務署もある。

【徴収部門】 徴収部門は、国税の納付の相談や滞納処分などを行っている。

【個人課税部門】 個人課税部門は、所得税や個人事業者の消費税等についての個別的な相談や調査を行っている。また、個人事業者向けの各種説明会や青色申告のための記帳指導・研修等も担当している。そのほかにも法定調書等、資料情報の収集整理も行っている。

【資産課税部門】 資産課税部門は、相続税、贈与税、土地建物や株式等を譲渡したときの所得税等についての個別的な相談や調査を行っている。

【法人課税部門】 法人課税部門は、法人税、法人の消費税等、印紙税、酒税及び揮発油税等の個別的な相談や調査を行っている。また、税務署によっては、酒類指導官が酒税の相談や調査等の事務を行っているところもある。

【酒類指導官】 酒類指導官は、酒税の個別的な相談や調査を行っている。また、消費者利益の観点から、酒類の品質・安全性や、未成年者飲酒防止をはじめとする酒類の適正な販売管理の確保、公正な取引環境の整備などに努めている。

「省キャリアと庁キャリア」

 国税職員は採用によって、3つの階層に分かれている。「国家公務員採用総合職試験」の合格者で財務省から出向している財務省キャリア(省キャリ)、上級職試験合格者で国税庁に採用となった国税庁キャリア(庁キャリ)、そして、国税専門官試験(大卒)と税務職員試験(高卒)で各地の国税局に採用となったノンキャリアである。

 省キャリは国税庁本庁の課長以上のポストと国税局の主要なポストを独占し、庁キャリは、40代以降は国税庁の課長ポストを省キャリと分け合い、その後、少数ながら国税局長になる人もいる。対して、ノンキャリの最終ゴールは税務署長だが、署長になれるのは同期のうち1割~2割だ。ノンキャリで国税局長にまで上り詰めるケースもあるが、それは極めて少数だ。

3 税務調査官の過去10年の職歴が分かる

 「職員配属便覧」を見れば、税務調査の事前通知の際に、調査担当者の本人確認や所属部署の確認をすることができる。調査担当者がどんな部署に所属しどの役職に就いているかを知ることで、担当者の経験や調査時に注意すべき点を知ることができる。

 例えば、調査官は通常3パターンに分かれる。それは、ベテランである上席、上席手前の調査官、国税に入って3年未満の事務官である。これ以外にも、「情報技術専門官」や「国際税務専門官」などの特殊な専門職の場合もあるが、「職員配属便覧」で確認できる部署と肩書から、税務調査の方向性や深度が見えてくる。

 しかし、単年度の「職員配属便覧」を見て調査担当者の所属部署や役職を確認するだけでは、その調査担当者の能力等の情報を十分に知ることは難しいだろう。そこで役立つのが調査官の過去の職歴を知ることができる「10年職歴」である。

 「10年職歴」を見ると、例えば、現在(令和元年)A税務署の法人3部門の調査官である「国税太郎氏」の職歴について、
 「平成30年B署法人4部門調査官、平成29年C署法人11部門調査官、平成28年C署法人12部門調査官、平成27年C署法人2部門調査官、平成24年から26年D署法人2部門調査官、平成22年から23年E署法人3部門調査官」と記されている。

ここから、国税太郎氏は、ずっと法人畑一筋で歩んできたことが見て取れる。

 過去に歴任している部署等によっては、難しい調査の経験が豊富だったり、特定の分野の専門知識があるなど、非常に高い調査能力を持つ調査官であることが推察できる。逆に、過去に徴収官だった人が法人部門に異動になったケースでは、ここから「税務署内での部署間の交流のために異動になった」ことから、法人税調査の知識・能力が不足しているかもしれないことがうかがわれる。

 税務調査の調査官は、納税者の情報を徹底的に調べ上げて調査に臨む。これに対して調査を受ける側が調査官の情報を何も知らずに迎えるのではあまりにも一方的ではないだろうか。税務調査の方法や結果は担当者によって大きく異なる。調査官の情報を可能な限り事前確認しておくことで、税務調査を受ける側も余裕を持って迎えることができるといえる。そのためにも、「10年職歴」を活用することをお勧めしたい。

4 注意すべき職歴は…

 以上のように、「職員配属便覧」で確認できる税務調査官の現在・過去の部署の職歴から、税務調査の方向性や深度が推察でき、税務調査の対応に役立つことができる。税務署には様々な部署があるが、職歴を確認する場合に特に注意すべきなのは、「特別国税調査官」(特官)と「資料調査課」、「統括官」である。

 特官は、規模の大きな会社を担当する。規模の大きな会社ほど申告漏れと判断される額も大きくなるので、当然税務調査も厳しくなることを覚悟しなければならない。

 ところで、特官には「厚紙特官」と「薄紙特官」と称される肩書がある。「厚紙特官」は、税務署では署長、副署長に次ぐ職位だ。国税庁指定の官職で、辞令の紙が厚いことからそう呼ばれる。対して「薄紙特官」は税務署の資産課税部門や法人課税部門などに所属する。こちらは、各国税局指定の官職で、辞令の紙が薄いことからそう呼ばれる。

 「厚紙特官」、「薄紙特官」ともに税務調査に従事するが、特に「厚紙特官」が調査に関係する場合は、相当厳しい調査を覚悟する必要があるだろう。

 次に、「資料調査課」は、国税局の調査部門の一つであり、年間通じて税務調査のみを業務としている部署で、税務調査を担当する部署の中でも、特に優秀な職員が集められている部署である。任意調査の最後の砦ともいわれ、資料調査課は少数精鋭で、配属される職員には高い調査能力が求められている。したがって、調査官の過去の職歴を「10年職歴」で確認して、国税局の「資料調査課」に勤務していた経験があれば、要注意ということになる。

 また、各部門の「統括官」以上が決裁者だから、調査官と同じ程度に配慮しなければならないのが、統括官の職歴だ。調査でもめた場合には、統括官と交渉するケースも出てくるが、統括官の職歴によっては、あえて交渉しないことも考えられる。特に統括官が、資料調査課や査察部門の経験が長い場合は、厳しい調査を指示している場合が少なくないとみられ、交渉に行ったら逆にやぶ蛇になる場合もある。一方、税務署の上席調査官から順当に統括官になった場合は、交渉しやすいともいわれている。

 そのほか、注意したい職歴としては、「審理専門官」や「税務相談官」である。「審理専門官」は、税務署において税務調査結果の審理・法令の適用・訴訟に関する事務を行う税法のスペシャリストだ。 審理系を歴任している調査官は、税法の規定に忠実で厳格な調査を行う。また、「税務相談官」は、納税者の相談に応じることが職務だから、税務全般について経験豊富な職員だ。これら法律等に詳しい職歴がある調査官は、調査において税法で反論することには注意が必要だろう。

執筆者情報

税金ジャーナリスト 浅野宗玄(あさのむねはる)

税務・経営関連専門誌の編集長を務め、国税庁記者クラブに所属。2000年、税務・経営関連情報のネット配信会社、株式会社タックス・コムを設立。同社代表、税金ジャーナリストとしても週刊「Yomiuri Weekly」など週刊誌等に執筆。著書に「住基ネットとプライバシー問題」(中央経済社)などがある。

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2020.09.17 17:01:12