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未払計上による決算賞与の損金算入要件

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1 使用人賞与の損金算入時期に関する法令の規定振り

 法人が使用人に対して支給する賞与の損金算入時期については、原則として支給した日の属する事業年度とされているが、一定の決算賞与などについては期末において未払いであったとしてもこれを特例的に支給決議があった事業年度の損金に算入する特例が設けられている。具体的には次に掲げる2パターンの賞与に関する特例がある。(法令72の5)。

(1)労働協約等で支給日が定まっている賞与

 労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与(使用人にその支給額の通知がされているもので、かつその支給予定日又はその通知の日に属する事業年度においてその支給額につき損金経理しているものに限る。)…その支給予定日又はその通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度

(2)決算賞与

 次に掲げる要件のすべてを満たす賞与…使用人にその支給額の通知をした日の属する事業年度

 ①その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知していること
 ②①の通知をした金額をその通知をしたすべての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1ヵ月以内に支払っていること
 ③その支給額につき①の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること

2 未払計上する決算賞与に係る留意事項

 上記の特例2パターンのうち、(1)の就業規則等であらかじめ支給時期が定まっているものについては、実務上もあまり問題が生じないが、(2)の決算賞与については支給するかしないか、又各人ごとの支給額をどのようにするかなどが、いわば使用者側の胸三寸に属するため利益調整などに使われやすいことから適用要件が厳格になっており、実際の計上に関しては次の様な要件チェックが必要となる。

 上記(2)の①~③の厳格な要件を満たす場合に限って損金算入を認めることとしている。

<未払賞与の損金算入が認められるための具体的留意点>

・その1「支給日において既に退職している者に対する支給」

 法人税基本通達9-2-43では「法人が支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合のその支給額の通知は、令72条の3第2号イの支給額の通知に該当しないことに留意する」旨を示している。

 このため使用人全員に支給額の通知を行ったとしても支給日までに退職した者に対しては賞与を支給しなかったケースはもちろんのこと、結果的に退職者がいなかったため通知した金額を全額支給したケースであっても当該通知した支給額について退職した場合には賞与を支給しないこととしていたときには、当該未払賞与について損金の額に算入することはできないことになる。

・その2「正規社員とパートタイマー等の通知時期等に差異がある場合」

 一般に、パートタイマーや臨時雇い等の身分で雇用している者とその他の使用人とは、その雇用関係から賞与の支給基準が異なり、パートタイマー等には賞与を支給していない場合や支給額が僅少である等のために直前までその支給金額が確定しない場合も少なくない。

 そこで、法人税基本通達9-2-43では支給額の通知を行ったかどうかの判定に当たっては、パートタイマー等とその他の使用人を区分して、その区分ごとに上記1の(2)の①の支給額の通知の有無を判定して差し支えないことを明らかにしている。

 したがって、正規社員とパート社員を明確に区分した上で、正規社員のみについて決算賞与の通知を行なって当期の未払賞与として計上し、パート社員については決算賞与の通知を行わないで実際の支給日(翌期)に損金処理する方法も認められることになる。

・その3「通知の方法」

 通知の方法については、法令も通達も具体的には規定していない。しかしながら、実務上未払賞与を計上する場合には、通知書を作成して使用人に交付し、その写しに使用人の確認印を受ける等、使用人に対し支給額の通知をしたことを後日確認できるような措置をしておくことが望ましいと思われる。

 また、賞与の額が、使用人一律に基本給の0.5ヵ月分とか一律何万円とかに決まっている場合、各使用人に文書等で通知しないで、支給率又は支給額を掲示板に掲示するだけでもよいのか。あるいは労使間での賞与支給額交渉の結果を掲載した組合新聞を労働組合が配布している場合、当該組合新聞の配布をもって通知に代わるものとすることはできないのかという考えもあるが、使用人に対する賞与の支給額の通知は使用者から使用人各人に直接行われるべきもので、掲示とか組合新聞の配布のような方法では、通知したことにならないと思われるので、注意が必要である。

 なお、実際にあった例では、本社では全社員について個別に支給額を決定し全国の事業所に通知していたにもかかわらず、ある特定の工場においてそれを期末までに各自社員に通知することを失念していたため、この要件を満たさないとして全社員分の未払い賞与についいて損金算入が否認されるという例も発生するなどの問題も生じているところであり、この要件については確実な履行チェックが必用と思われる。

・その4「1月以内の支給要件を満たさなかった場合」

 期末までに各人に支給額を通知したものの、その後の資金繰りの事情等で1月以内に全員に支給することができないこととなったり、一部の者について1月以内に支給ができなかった場合には、上記1の(2)の②に掲げる「……通知をしたすべての使用人に対し……1月以内に支払っていること」という要件を満たさないことになるため、支給しなかった賞与の金額だけでなく、賞与総額全体について未払計上による損金算入は認められないこととなるので注意が必要なる。

・その5「通知賞与の支給を一部カットした場合」

 期末における未払賞与の損金算入が認められる最大の理由は、それが期末において「確定債務」と評価できるような状態にあるところにある。したがって、その支払の一部をカットしたような場合は、その不支給の理由が不祥事に伴う懲戒処分によるものなどである場合を除き、原則としてその未払賞与全額全体について債務確定がなかったものと取り扱われることになる。

執筆者情報

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税理士 小畑 孝雄

昭和41年東京国税局入局、国税庁法人税課、国税不服審判所勤務等を経て平成16年東京国税局法人課税課長、18年同調査第2部長を歴任し19年退官、税理士登録(日本橋支部所属)

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2020.08.20 17:10:51