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シリーズ「法人税グレーゾーンの税法解釈」その5 過大役員給与の損金不算入

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 シリーズ「法人税グレーゾーンの税法解釈」その5は、過大役員給与の損金不算入規定を取り上げる。このグレーゾーンの特異性は、法人税法の規定そのものが「(役員給与のうち)不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、損金に算入しない」という「不確定、かつ、抽象的規定」であることに基因するところにある。本稿では、法人税法の規定振りや、過去の裁判例などから具体的な損金算入基準などを探る。

1 過大な役員給与に関する法人税法の規定ぶり

 法人税法第34条第2項は、「内国法人がその役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、損金に算入しない」旨を規定している。

 この規定を受けて同令70条は通常の役員給与に関してその第1号で「(不相当に高額な部分の金額を)…当該役員の職務内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額」を言うものと規定している。

 また、役員に対する退職給与に関しては、その第2号で「(不相当に高額な部分の金額を)…当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額」を言うものと規定している。

2 通常の役員給与に係る過大判定

(1) 政令の規定

 政令70条第1の規定によれば支給している役員給与の額が「不相当に高額(過大)」かどうかは①職務の内容、②収益及び使用人給与の状況、③同業他社の役員給与の水準、等を総合的に勘案して判断する必要がある。この規定振りに関しては抽象的な不確定概念規定であり、実務対応が不可能という立法論的な批判もある。しかしながらかかる規定が存在している以上はこの規定に沿って「過大報酬に該当するか否か」判断する他はないことになる。

 役員報酬の金額が過大認定のおそれがあるかどうかについては、上に掲げた「職務の内容」等をはじめとする各判断要素を詳細に検討する必要があるとともに、仮にそこから一定の結論を導き出したとしても事の性格上、その結論も一定のグレーゾーンを内包する幅のある結論となることは避けられないことになる。

 この点に関しての実務対応等ということになれば、実際のところは過去の裁判例などを参考に判断をせざるを得ないというのが実情といえる。以下に過去における主な判決による判断事例を紹介するので、これらの事例なども参考に検討されることをお勧めする。

(2) 通常の役員給与に関する判決・裁決事例

・その1「不相当に高額」と認定された事例
 代表者の妻ら3名の取締役(以下「本件取締役」という。)に対して支払われた役員報酬額は、①本件取締役は業務執行権を有せず具体的な職務執行の内容が不明確であり、業務内容は請求人の経営に深くかかわるものとは認められないこと。②請求人の各事業年度の売上高・売上純利益の伸び率に比較すると、当該事業年度の本件取締役の支給額は、相当高い伸び率であると認められこと、③本件取締役の役員報酬額は、いずれも請求人の類似法人で本件取締役と職務内容が類似すると認められる非常勤の取締役に対する役員報酬額の平均額と比較すると極めて高額であると認められること等から、本件取締役の役員報酬額はその職務の対価として相当ではなく、類似法人の平均的な役員報酬額を超える部分の金額は損金の額に算入されないというべきである。(平9.9.29裁決)

・その2「不相当に高額」と認定された事例
 法人令69条第1号に規定する実質基準に照らし、請求人の取締役H(代表取締役Gの妻)の業務の内容、請求人の収益の状況、使用人に対する給料の支給状況及び類似法人の非常勤役員に対する報酬の支給状況等を総合すると、Hは、特に重要な職務に従事しておらず、その従事日数も1ヵ月のうち2日から3日と職務の従事程度が低いにもかかわらず、その報酬額は、請求人の売上高及び収益並びに使用人給与に比して相当高い伸び率をしめしており、さらに、類似法人の平均役員報酬に比しても高額であることから、Hに対して支給した役員報酬(本件役員報酬額)は、その職務に対する対価として相当と認められず、本件適正報酬額(請求人と業種、事業規模等が類似する法人が非常勤役員に支給した年間報酬額の平均値によるもの)をもって、Hの職務の対価としての適正報酬額とすることが相当である。したがって、この適正額を超える金額は「不相当に高額な部分の金額」であるとした本件各更正処分は適法である。(平20.11.14裁決)
(類似事例)
・就学中の子供に支給した役員報酬
・代表取締役(事業主宰者の子供で主婦)に支給した役員報酬 等

・その3「不相当に高額」とは認められないとされた事例
 取締役会長は、入退院を繰り返しているものの、相当程度の頻度で請求人の職務に従事していたもので、同人は常勤の取締役と認められ、そして、類似法人の常勤取締役会長に対する役員報酬の支給状況等に基づき検討すると、同人に対する役員報酬の額が不相当に高額であると認められないから、原処分庁の主張は採用できない。(平14.6.12裁決)

3 役員退職給与に係る過大判定

(1) 政令の規定

 政令70条第2号の規定によれば、支給している役員退職給与の額が「不相当に高額(過大)」かどうかは①その役員の業務に従事した期間、②退職の事情、③同業種・同規模法人の役員に対する退職給与の支給状況等を総合的に勘案して判断する必要があることになる。

 この規定振りに関しては前記の通常の役員給与同様、抽象的な不確定概念規定であり、実務対応が不可能という立法論的な批判もある。しかしながらかかる規定が存在している以上はこの規定に沿って「過大報酬に該当するか否か」判断する他はないことになる。

(2) 役員退職給与の適正額の算出実務

 役員退職給与の算出方法については、実務上の計算式として以下の方法が採用され一定程度定着し、法人の申告をリードしているという現実が認められる。
 
① 功績倍率法
 役員の退職直前の給与の支給額に「法人の業務に従事した期間」及び「役員の職責に応じた倍率」を乗じる方法により支給する金額を算定する方法。具体的には以下の算式による。
 ・退職時の適正報酬月額×勤続年数×功績倍率=適正額 
  
 なお、上記算式中の「功績倍率」につき同業類似法人の功績倍率の平均値を用いる方法を「平均功績倍率法」と、同業類似法人の功績倍率の最高値を用いる方法を「最高功績倍率法」という。
 
② 1年あたり平均額法 
 ・類似法人の1年あたり退職給与の平均額×勤続年数=適正額

(3) 役員給与に関する判決・裁決事例

・その1 「功績倍率法」により適正額を算出する方法が認められた事例
 「…法36条(現行34条)及び施行令72条(現行70条)の規定に照らせば、法人が退職する役員に対して支出した役員退職給与の額が、その相当であると認められる金額を超え、法36条に規定する『不相当に高額な部分の金額』を含むか否かを判断するためには、当該退職役員がその法人の業務に従事した期間及びその退職の事情を考慮するとともに、その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するもの、すなわち、同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況等と比較して検討するのが相当である。」

 「平均功績倍率法は、同業類似法人の役員退職給与の支給事例における平均功績倍率に、当該退職役員の最終月額報酬及び勤続年数を乗じて算定する方法であるところ、<1>最終月額報酬は、通常、当該退職役員の在職期間中における報酬の最高額を示すものであるとともに、退職の直前に大幅に引き下げられたなどの特段の事情がある場合を除き、当該退職役員の在職期間中における法人に対する功績の程度を最もよく反映しているものといえること、<2>勤続年数は、施行令72条が明文で規定する『当該役員のその内国法人の業務に従事した期間』に相当すること、<3>功績倍率は、役員退職給与額が当該退職役員の最終月額報酬に勤続年数を乗じた金額に対し、いかなる倍率になっているかを示す数値であり、当該退職役員の法人に対する功績や法人の退職給与支払い能力など、最終月額報酬及び勤続年数以外の役員退職給与の額に影響を及ぼす一切の事情を総合評価した係数であるということができるところ、同業類似法人における功績倍率の平均値を算定することにより、同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性が捨象され、より平準化された数値が得られるものといえることからすれば、このような最終月額報酬、勤続年数及び平均功績倍率を用いて役員退職給与の適正額を算定する平均功績倍率法は、その同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り、法36条及び施行令72条の趣旨にも最も合致する方法というべきである。」(東京地裁平成25年3月22日判決)

・その2 功績倍率につき最高倍率である「3倍」が認められた事例
 「役員退職給与の相当額の判定に当たり最終報酬月額と在任期間と同業種法人の功績倍率を基準とすることに合理性があり、不動産業を営む法人の役員退職給与の相当額について、5税務署管内の同業種・同規模法人7例(退職役員13人)の退職給与支給例のうち功績倍率の最高のもの(3倍)を基準として判定することは合理的であるとされた事例(最判昭和60年9月17日)
 
・その3 平均功績倍率法の合理性及び同種類似法人の選定基準が示された事例
 「役員退職給与の適正額の算定基準としては、法人税法施行令72条〔現行70条〕が、当該役員のその法人の業務に従事していた期間、その退職の事情、同種類似の法人の役員に対する退職給与の支給の状況等に照らして判断すべきことを定めているところ、これを具体化する方法としては、従来から、平均功績倍率法、最高功績倍率法および1年当たりの平均額が用いられている。

 このうち、平均功績倍率法は、当該退職役員の当該法人に対する功績はその退職時の報酬に反映されていると考え、同種類似の法人の役員に対する退職給与の支給の状況を平均功績倍率として把握し、比較法人の平均功績倍率に当該退職役員の最終報酬月額及び勤続年数を乗じて役員退職給与の適正額を算定する方法であり、適正に算出された平均功績倍率を用いる限り、その判断方法は客観的かつ合理的であり、法人税法施行令72条〔現行70条〕の趣旨に最もよく合致する方法であるというべきである。

 その場合の比較法人としては、当該法人とその業種、事業規模、退職役員の当該法人における地位、退職の事情等において十分に類似したものでなければならない。
 したがって、比較法人を抽出するための基準は、諸要素において当該法人と類似した法人を抽出することができるものでなければならない。」(札幌地裁平11.12.11)

執筆者情報

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税理士 小畑 孝雄

昭和41年東京国税局入局、国税庁法人税課、国税不服審判所勤務等を経て平成16年東京国税局法人課税課長、18年同調査第2部長を歴任し19年退官、税理士登録(日本橋支部所属)

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2020.06.24 16:34:16