HOME コラム一覧 新型コロナ感染症緊急経済対策における税制措置に注目!!

新型コロナ感染症緊急経済対策における税制措置に注目!!

post_visual

はじめに

 新型コロナウイルス感染症拡大の終息がみえないなか、休業要請などの影響で苦境に陥っている事業者を支援する、「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律案」及び「地方税法等の一部を改正する法律案」が4月30日、国会で成立し、同日施行された。

 新型コロナウイルス感染症のわが国社会経済に与える影響が甚大なものであることに鑑み、感染症及びその蔓延防止のための措置の影響により厳しい状況に置かれている納税者に対し、緊急に必要な税制上の措置を講ずることとしている。

Ⅰ 国税関係の取扱い

 国税における主な措置は、1)納税の猶予制度の特例、2)欠損金の繰戻しによる還付の特例、3)テレワーク等のための中小企業の設備投資税制、4)文化芸術・スポーツイベントの中止等に係る所得税の寄附金控除の特例、5)住宅ローン控除の適用要件の弾力化、6)消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例、7)特別貸付けに係る契約書の印紙税の非課税がある。

1 納税の猶予制度の特例

 納付を猶予する特例は、基本的に全ての税目が対象(印紙で納付する印紙税等は除く)となり、本年2月1日から令和3年1月31日までに納期限が到来する国税について適用する。その際、施行日前に納期限が到来している国税についても遡及適用できる。本年2月から納期限までの一定の期間(1ヵ月以上)において、収入が大幅に減少(前年同期比概ね20%以上の減)した場合について1年間納税を猶予する。

2 欠損金の繰戻しによる還付の特例

 現在、資本金1億円以下の中小企業のみに認められている青色欠損金の繰戻しによる還付の特例は、資本金1億円超10億円以下のいわゆる中堅企業についても、令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する事業年度に生じた欠損金に適用できることとする。

3 テレワーク等のための中小企業の設備投資税制

 テレワーク等のためのデジタル化設備を対象に加え、特定経営力向上設備等の取得等をした場合には、即時償却又は投資額の7%(資本金が3000万円以下の法人は10%)の税額控除ができることとする。税額控除の上限額は、「この制度」、「中小企業投資促進税制」及び「商業・サービス業・農林水産業生産活性化税制」における税額控除との合計で当期の法人税額の20%を限度とする。また、国内への投資であること、生産等設備であること、中古資産・貸付資産でないこと等の要件を満たす必要がある。適用期限は令和3年3月31日まで。

4 文化芸術・スポーツイベントの中止等に係る所得税の寄附金控除の特例

 政府の自粛要請を踏まえて文化芸術・スポーツイベントを中止等した結果、主催者に大きな損失が生じている状況を踏まえ、文化芸術・スポーツに係る一定のイベントの入場料等について、観客等が払戻請求権を放棄した場合には、当該放棄した金額について、寄附金控除(所得控除又は税額控除)の対象とする。

 不特定かつ多数の者を対象とするイベントであって、令和2年2月1日から令和3年1月31日までに日本国内で開催する予定だったものであり、かつ、現に中止等されたものを対象とする。また、本特例を用いた寄附金控除の対象金額は20万円を上限とする。

5 住宅ローン控除の適用要件の弾力化

(1)控除期間13年の住宅の入居が遅れた場合

 まず、需要変動平準化のための住宅ローン控除の特例の適用について、新型コロナウイルス感染症の影響による住宅建設の遅延等への対応として、住宅ローンを借りて新築した住宅、取得した建売住宅又は中古住宅、増改築等を行った住宅に令和2年12月末までに入居できなかった場合でも、一定要件を満たす場合には、控除期間が13年に延長された住宅ローン控除を適用できることとする。

 一定要件とは、①新型コロナウイルス感染症の影響によって新築住宅、建売住宅、中古住宅の取得又は増改築等を行った住宅への入居が遅れたこと、②一定の期日(新築住宅の場合は令和2年9月末まで、建売住宅・中古住宅の取得、増改築等の場合は令和2年11月末まで)までに、新築、建売住宅・中古住宅の取得、増改築等に係る契約を行っていること、③令和3年12月末までの間に②の住宅に入居していること。

(2)中古住宅の増改築等が遅れた場合

 次に、中古住宅の取得から6ヵ月以内の入居を求める要件について、住宅ローンを借りて取得した中古住宅について、その取得後に行った増改築等の工事が遅れ、その取得の日から入居までに6ヵ月超の期間が経過していた場合でも、一定要件を満たす場合には、当該住宅ローンに住宅ローン控除を適用できることとする。

 一定要件とは、①取得後に増改築等を行った中古住宅への入居が、新型コロナウイルス感染症の影響によって遅れたこと、②①の増改築等の契約が、中古住宅取得の日から5ヵ月後まで又は特例法施行の日の2ヵ月後までに行われていること。

6 消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例

 新型コロナウイルス感染症の影響により、事業者の一定期間(1ヵ月以上)における売上げが著しく減少(前年同期比概ね50%以上)した場合、課税期間開始後における消費税の課税選択に係る適用の変更を可能とする特例を設ける。

 現行の課税選択等については、課税期間の開始前に届出が必要だが、課税期間の開始後の申請による適用の変更を認める。特例法の施行後に申告期限が到来し、かつ、令和2年2月1日以降、令和3年1月31日までの期間に売上減少が生じた期間が存在する課税期間に適用する。その課税期間の申告期限までに申請書を提出し、税務署長の個別の承認を得た場合に課税選択の適用変更を認める。

 また、事業者の実情に応じた対応を可能とするため、課税事業者を選択した場合の2年間の継続適用要件等は適用しない。「課税事業者を選択した場合の2年間の継続適用要件等」とは、課税事業者を選択した場合の2年間の継続適用要件、課税事業者を選択した事業者又は資本金1000万円以上の新設法人が調整対象固定資産(100万円以上の固定資産)を取得した場合等の3年間の継続適用要件(3年間は免税事業者となることができない)をいう。

7 特別貸付けに係る契約書の印紙税の非課税

 公的金融機関や民間金融機関等が、新型コロナウイルス感染症によりその経営に影響を受けた事業者に対して行う特別な貸付けに係る契約書については、印紙税を非課税とする。既に契約を締結し印紙税を納付した者に対しては、遡及的に適用し、還付を行う。

Ⅱ 地方税関係の取扱い

 以上が新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における国税関係の税制上の措置だが、地方税関係では、徴収の猶予制度の特例や固定資産税等の軽減措置などが手当てされている。

1 地方税の徴収の猶予制度の特例

 徴収の猶予制度の特例は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で多くの事業者の収入が急減しているという現下の状況を踏まえ、地方税においても、無担保かつ延滞金なしで1年間、徴収猶予を適用できる特例を設ける。

 同特例は、収入が大幅に減少(前年同期比概ね20%以上の減少)した場合において、無担保かつ延滞金は免除で1年間、地方税が徴収猶予されるもの。基本的に全ての税目が対象(証紙徴収による地方税は除く)。令和2年2月1日から令和3年1月31日までに納期限が到来する地方税について適用する。その際、施行日前に納期限が到来している地方税についても遡及して適用できることとする。

2 固定資産税等の軽減措置

 中小事業者等が所有する償却資産及び事業用家屋に係る固定資産税等を軽減する。厳しい経営環境にある中小事業者等に対して、令和3年度課税の1年分に限り、償却資産及び事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税の課税標準を2分の1又はゼロとする。令和2年2月~10月までの任意の3ヵ月間の売上高が、前年の同期間と比べて、30%以上50%未満減少している事業者は2分の1、50%以上減少している事業者はゼロとする。

 また、生産性革命の実現に向けた固定資産税の特例措置を拡充・延長する。新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも新規に設備投資を行う中小事業者等を支援する観点から、適用対象に一定の事業用家屋及び構築物を加える。事業用家屋は取得価額の合計額が300万円以上の先端設備等とともに導入されたものが対象。生産性向上特別措置法の改正を前提に、適用期限を令和4年度までの2年間に限り延長する。

執筆者情報

profile_photo

税理士 小田 満

 国税庁勤務22年の後、町田・横浜南・板橋の各税務署長を経て、平成19年税理士登録。
 主な著書は、「図表でわかる新税制による金融商品課税の要点解説」、「Q&A プロ選手・開業医・芸能人等の特殊事情に係る所得税実務」など多数。

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

会計人 税金コラム

記事の一覧を見る

関連リンク

遺留分と信託について考える

生命保険法人契約の現状

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2020/img/thumbnail/img_31_s.jpg
 新型コロナウイルス感染症拡大の終息がみえないなか、休業要請などの影響で苦境に陥っている事業者を支援する、「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律案」及び「地方税法等の一部を改正する法律案」が4月30日、国会で成立し、同日施行された。 新型コロナウイルス感染症のわが国社会経済に与える影響が甚大なものであることに鑑み、感染症及びその蔓延防止のための措置の影響により厳しい状況に置かれている納税者に対し、緊急に必要な税制上の措置を講ずることとしている。
2020.05.18 16:18:39