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生命保険法人契約の現状

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 生命保険法人契約については昨年、ご存知の通り大きな動きがあった。概観するとまず令和元年2月バレンタインショック、すなわち生命保険法人契約の保険料税務ルールに対する疑義が国税庁より示された。結果、この時点で生命保険法人契約の大半が生保各社により販売停止されている。その後同年6月18日法令解釈通達による新ルールの確定、及びそれ以降、生命保険各社により法人契約商品が販売再開され、現在に至っている。

これらの動きを当初から見ると、上記の通り既に1年以上が経過している。現状はどなっているのだろうか。また新ルールによって生命保険法人契約はどのような役割を担おうとしているのだろうか。以下、生命保険業界の個人保険及び関連保険種類の業績動向と、生命保険法人契約の現状を改めて確認しよう。

1 生命保険業績の現状(※1)

 新契約及び保有契約については現時点(2020年4月13日現在)で生命保険協会から2019年度第三四半期(2019年12月期)および月別データとしては2020年1月までが公表されている。本稿で確認したいことは、生命保険法人契約に関わる「令和元年における税務上の動き」以後の影響である。このため以下の形で確認してみよう。

 新契約について(※2)「2017年~2018年」をまず把握する。これは「令和元年(2019年)における税務上の動き」直前年度である2018年度の特性を理解しておくためである。その後「2018年第3四半期(4~12月期)~2019年第3四半期」を対比する。これにより「令和元年における税務上の動き」以後の影響を特定する。

 なお、業績を捉えるにあたって一つ留意しておくべき事項がある。それは、生命保険協会から公表されている統計に、契約者が法人か個人かを判別したデータが存在しない点である。例えば生命保険法人契約として多く利用される定期保険は、個人契約としても利用される。したがって生命保険法人契約に関わる「令和元年(2019年)における税務上の動き」以後の影響を業績面で特定するためには、定期保険全体の契約動向を見た上で、一定程度解釈する形で整理する必要がある。以下、見て行こう。

※1 以下、図表1~3は生命保険協会『事業概況』より抜粋及び集計して筆者作成。
※2 業績は本来、保有契約も見るべきだが、本稿の目的が「令和元年における生命保険法人契約の税務上の動き」以後の業績への影響ということからここでは省略している。

2 2018年度はどういう年であったか?

生命保険業界にとって2018年度はどういう年だったのだろうか? 業績面で2017年度と2018年度を対比してみておこう。図表1に対比表を示す。

図表1 2017年度~2018年度 新契約対比
  新契約件数 新契約高
(単位:百万)
   2017
年度
2018
年度
前年比 (%)  2017
年度
2018
年度
 
前年比 (%)
個人保険計 14,044,850 15,631,757 111.30 62,613,781  70,324,822 112.32
終身保険 2,873,833 2,882,813 100.31 11,948,407 12,909,240 108.04
定期保険 2,063,587 2,630,117 127.45 29,555,253 37,730,728 127.66
養老保険 1,047,493 1,077,459 102.86 3,895,479 4,116,807 105.68
医療保険 3,435,658 3,450,312 100.43 107,521 108,534 100.94
ガン保険 1,894,197 2,129,480 112.42 29,062 31,754 109.26
個人年金保険計 879.218 981.419 111.62 4,837,332 5,329,326 110.17
定額年金保険 725,868 837,708 115.41 4,030,223 4,509,220 111.89
変額年金保険 153,350 143,711 93.71 807,108 820,106 101.61

 生命保険の新契約を全体としてみると、個人保険は件数ベースで2018年度1563万1757件、前年比111.3%となっている。契約高では2018年度70兆3248億円、前年比112.32%と進展している。法人契約が多いと考えられる定期保険を見ると、件数では2018年度263万117件、契約高では37兆7302億円である。 新契約件数前年比127.45%、新契約高前年比127.66%と進展している。

 個人契約が多いと思われる個人年金保険も、全体で件数98万1419件、新契約高5兆3293億円、新契約件数前年比111.62%、新契約高前年比110.17%と進展している。以上をみると生命保険業界の2018年度は新契約面では相当の進展を果たした年であったと理解できる。

3 2018~2019年新契約件数対比(第3四半期累計対比)

 さてそれでは令和元年度の生命保険法人契約に関わる税務上の動きから、その後の業績はどのように推移したのだろうか? 図表2に新契約件数対比を示す。

図表2 新契約件数比較(第3四半期累計)
  2018年度
12月末
2019年度
12月末
前年同期比
個人保険計 11,757,593 10,380,484 88.29%
定期保険 1,951,283 1,592,704 81.62%
医療保険 2,599,366 2,649,531 101.93%
ガン保険 1,636,978 1,405,875 85.91

 図表2では個人保険全体とともに個別種類として定期保険、医療保険、がん保険についてみる。

 個人保険全体で2019年度第3四半期末1038万484件、前年同期に対して12%近い減少となっている。このうち定期保険は2019年度同期159万2704件、前期比で19%近い減少である。医療保険は264万9531件、2%弱の増加、がん保険は140万5875件、前期比14%程度の減少となっている。件数ベースでみると、個人契約が多いと思われる医療保険は法人契約の販売停止及び法令解釈通達以後の影響は認められない。定期保険、がん保険については件数ベースでは一定程度の減少がみられ、その一部が法人契約の販売停止及び法令解釈通達以後の影響と考えられる。

4 2018~2019年新契約高対比(第3四半期累計対比)

 次に同時期の新契約高について見よう。図表3に個人保険計及び定期保険、医療保険、がん保険新契約高対比を示す。

図表3 新契約高対比(第3四半期累計)
  2018年度
12月末
2019年度
12月末
前年同期比
個人保険計 52,154,369 39,885,541 76.48%
定期保険 27,656,350 19,730,772 71.34%
医療保険 81,016 87,191 107.62%
ガン保険 24,368 21,563 88.49%

 新契約高では個人保険全体で2019年度第3四半期末39兆8855億円、前年同期に対して25%弱減少している。このうち定期保険については19兆7307億円、前年同期29%弱の減少を示した。医療保険は7.6%増加、がん保険は12%弱の減少である。

5 件数と契約高を総合しみると

 件数と契約高を総合してみると、定期保険については「件数の減少率18.4%<契約高の減少率28.66%」となった。契約高の減少が大きい。これは主に法人契約における大型契約の減少が要因となった結果と推測される。

 医療保険は「件数の増加率1.93%<契約高の増加率7.62%」を示した。医療保険については件数の絶対水準が大きいため個人契約のウェイトが大きいと思われ、これら数値から法人契約に関わる税務上のルール変更の影響を推測することは困難と思われる。がん保険は「件数の減少率14.09%>契約高の減少率11.51%」となっている。減少した一部が法人契約の影響と考えられる。

6 税務上のルール変更により生命保険法人契約の何が変わったか?

 ここまで見てきたように、2019年度の個人保険新契約業績は、前年対比で相当程度低迷していると評価できる。中でも定期保険の低迷は他の保険種類と比べても大きい。また低迷の形態が、定期保険において件数より契約高で大きくなっていることから、法人契約による大型契約の減少が推測される。その要因が「令和元年における税務上の動き」と考えられる。そこで税務上の動きによって何が変わったのかを整理にしておこう。

 例えば長期定期保険(ここでは100歳満了定期保険、旧ルールにおける「長期平準定期保険」)の場合、保険料の資産計上割合や資産計上期間、取崩し開始時期等が変更になっている。いいかえれば保険商品そのものは変化していない。保険金あたりの保険料、解約返戻金が変化していないが、税務上のルールだけが変わっている。この観点から商品事例を見てみよう。

 50歳男性 100歳満了定期保険 保険金1億円 全期払い 年払保険料280万5600円の例である。

図表4に最高解約返戻率時点の数値状況を示す。

図表4 100歳満了定期保険の例(最高解約返戻率時点)
  最高解約返戻率時点
保険金 1億円
保険料 280万5600円
経過年数 16年
保険料累計 4488万9600円
資産計上累計(通達後現ルール) 3447万8580円
資産計上累計(通達後旧ルール) 2244万4800円
解約返戻金 4178万8000円
返戻率 93.09%
含み益(通達後現ルール) 730万9420円
含み益(通達後旧ルール) 1934万3200円
含み益率(通達後現ルール) 16.28%
含み益率(通達後旧ルール) 43.09%

 先にも上げた通り、保険商品としての内容に変わりはない。変化したのは保険料の資産計上割合である。ここで上げている事例の場合、最高解約返戻率となる時期は経過16年であり、その時点における解約返戻率は93.09%となっている。したがって資産計上割合は「年払保険料×最高解約返戻率93.09%×90%(当初10年。その後一定条件により70%(※3))である。それら計算結果を見ると図表4の通り、資産計上累計額が法令解釈通達の「(前)旧ルール2244万4800円<(後)現ルール3447万8580円」と増大していることがわかる。この結果、含み益(含み益=解約返戻金-資産計上累計額)が、法令解釈通達の「(前)1934万3200円>(後)現ルール730万9420円」と減少していることがわかる。

 含み益率を「(解約返戻金-資産計上累計額)÷保険料累計額」として定義(※4)すると旧ルールにおいては43.09%、現ルールでは16.28%となり、相当程度の減少が確認できる。

※3 令和元年法令解釈通達後における保険料の資産計上割合等ルールについては本稿では説明しない。それを前提として論を展開する。ルール及びその数値上の影響の詳細が必要な方は税務経営研究会「旬間 税務会計」において連載中の「法令解釈通達以後の生命保険法人契約」を参照されたい。

※4 生命保険法人契約についての議論の中で、様々な「含み益率」が定義されている。筆者の知る限り、本稿における定義を含めて3つ存在している。それぞれ意義のある定義ではあるが、議論にあたってはそこでの定義を確認して内容を見るようにしていただきたい。

7 含み益の減少は何を阻害したのか

 生命保険法人契約、特に経営者を対象とした経営者保険はどのような目的で利用されてきたのだろうか? 生命保険は何らかの事態に遭遇したことを想定した金銭的準備手段である。これを具体的に考えると、「保険金給付を財源とする」か「保険の解約返戻金を財源とする」か、どちらかを想定した金銭的準備手段ということになる。そこで加入目的と財源を整理すると

(1)経営者の死亡(※5)による企業存続リスクへの対処
(2)経営者の死亡による死亡退職金の準備

(1)及び(2)は経営者が死亡してしまった場合を想定して事前に保険に加入しておき、そのような事態に遭遇した際、給付される保険金を財源として備えるという考え方である。ここでは一義的に生命保険を保障機能(保険金給付)として利用する。したがって税務上のルールは大きな影響を与えない。

次に
(3)経営者は元気だが、企業存続のリスクが生じた場合への備え
(4)経営者の生存退職金の準備

(3)は、経営者が元気(不健康の場合もあるが、少なくとも生命保険給付の対象とならない状態という意味である)だが、企業の存続に問題が生じた際、資金を必要とするので解約返戻金を財源とする。また赤字決算回避のため、含み益の表面化により「益出し」する。これらにより事態に備える。(4)は経営者の退職金であり、そのための現金を用意するという主旨で解約返戻金を、退職金の損金算入部分のカバーとして含み益を利用する。これらにより退職金支払いに備える。

さてここでは解約返戻金は保険商品そのものの問題である。ところが含み益は、先に見た通り資産計上ルールの変更による影響を大きく受けている(減少している)。

以上みたことから生命保険法人契約は、人を対象とした保険としての機能(被保険者の保険事故による保険給付)に変化はないが、企業存続リスクなどの備え(被保険者が元気でも)としての機能の一部が阻害されたと考えることができる。その結果として、本稿前半でみた新契約業績への影響がみられる。

 生命保険は人を対象とした保険である。ところが、生命保険法人契約は実態として被保険者は元気(保険事故の対象とならない状態)だが、企業存続リスクが生じた際の資金や含み益の備えとして多く利用されてきた。ところが税務ルールの変更により含み益が大きく減少した。その結果、そのような備えとしての機能が阻害されたと考えられる。

※5 ここでは「死亡」としているが、就業不能等範囲を拡大して考えても同様である。

8 今後の展開

 生命保険法人契約について、課税関係を中心とせずに考えると、まずは人を対象とした保険の機能の利用が重要になる(上記(1)及び(2)の備え)。

 次に保険期間の経過における含み益の推移を把握する必要がある。すなわち現行ルールでは含み益は契約の後半において(最高解約返戻率の時期に遅れて)大きく増大するケースが存在する。含み益率及び額の利用を想定した生命保険法人契約の再評価も必要となると思われる。

執筆者情報

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小山 浩一

マーケティングコンサルタント

著者略歴
生保会社勤務を経て2010年コンサルタントとして独立。
2011年7月より(株)Break On Though 代表取締役。
2017年3月 法政大学大学院政策創造研究科より「生命保険加入行動の実証分析」により博士号授与。博士(政策学)。専門は、保険加入行動 リスク認知と対処行動 販売チャネルの消費者への影響等。
2018年より法政大学大学院策創造研究科 兼任講師

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2020.04.17 09:07:58