HOME コラム一覧 強欲のほかにインサイダー・トレーダーを駆り立てるものは? それは誘惑、職業ストレス、背信の感触(その2 全4回)

強欲のほかにインサイダー・トレーダーを駆り立てるものは? それは誘惑、職業ストレス、背信の感触(その2 全4回)

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 米国金融業界によって設立された独立業界規制当局である、金融取引業規制機構 (The Financial Industry Regulatory Authority, FINRA) はショーの疑わしい取引を見つけて公表した。彼の証券取引口座は凍結され、ショーとロンドンは取引をやめるはめになった。
 ロンドンが知らなかったことは、その後すぐにショーが、彼らの取引を調査していた証券取引員会(SEC)からの召喚状を受領していたことだった。ショーはすぐに重大な問題になることをロンドンに告げることが出来たはずだったが、ショーはそのまま弁護士を雇い連邦捜査局 (FBI) 、証券取引員会 (SEC) 、そして司法省 (DOJ) への協力を開始したのだった。
 もしショーが召喚状について事前に話していたら、ロンドンは、不正への自身の関与を認め、ショーと共に当局に出頭したかと、私はインタビューで彼に尋ねた。FBI捜査官が最初に現れた際に、彼が自分の罪を認めたように、彼は多分そうしただろうと答えた。実際にその時、ロンドンは、ショーがFBIに協力していたことも、捜査の全体も知らなかった。
 結局のところ、SECによれば、ショーは1億6,000万ドルの不法利得を上げていた。ショーはロンドンにその情報提供や協力の対価として、金銭や贈答品で約5万ドルを渡していた。(参照:“Bryan Shaw sentenced to prison in KPMG insider trading case,” (ブライアン・ショーはKPMGのインサイダー取引事件で判決を受ける)by Riley Snyder, Los Angeles Times, June 2, 2014, http://tinyurl.com/hy2xxu5

輝かしい経歴のギルマン博士がマートマとの関係で破滅した (DR. GILMAN RUINS BRILLIANT CAREER WITH TIES TO MARTOMA)

 私は、ロンドンの事案と並行して、大々的に報道されたもう一つのインサイダー事案を見てきた。2年前、アメリカ合衆国、ニューヨーク地方裁判所判事、ガーデフ (Gardephe) のマンハッタンの法廷での米国史上最大のインサイダー取引事案の主犯であり、SACキャピタル元ポートフォリオマネジャーのマシュー・マートマ (Mathew Martoma) への判決に立ち会っていた。告訴人は、マシュー・マートマに対する長い刑期を求め、マートマは不法なインサイダー情報の提供を受けるために二人の医師に近づいて買収工作したと主張した。9年の禁固刑の判決を言い渡す際に、判事ガーデフは、被告の「性格の暗黒の側面」について言及した。
 その二人の医師のうちの一人、シドニー・ギルマン博士はマートマ事案の公判で主要人物として証言に立った。彼は当初、製薬会社エラン (Elan) とワイス (Wyeth) のアルツハイマー病の投薬試験に関する機密を不注意にもマートマに渡したかもしれないと言っていたが、親交が深まるにつれて、詳細な試験結果も提供するようになっていた。
 マートマは追い求めていたものを得て、つまり何億ドルも儲けた後、ギルマンとは二度と話をすることはなかった。結果として、ギルマン博士はほぼ確実であった懲役と告訴を免れた。全面的協力を条件に不訴追合意を得ることができたのだった。それでもミシガン大学医学部での35年間にわたる役職から退くことを余儀なくされ、彼の名声と経歴は破壊された。彼は現在、無料診療所の患者を診ている。(参照:“The Empire of Edge,” by Patrick Radden Keefe, The New Yorker, Oct. 13, 2014, http://tinyurl.com/ovj4re3.)

ラジャラトナムは犠牲者たちをカサノバのように誘惑した (RAJARATNAM SEDUCED VICTIMS LIKE CASANOVA)

 企業部内者に対していかに簡単に買収工作ができるという意味において、残念ながらラジ・ラジャラトナム (Raj Rajaratnam) の取引経歴は事例研究となった。
 ラジャラトナムは、インサイダー取引で逮捕される2009年までは、金融業界で最も有望で成功を収めた投資家の一人で、何十億ドルというヘッジファンドであるガレオン・グループ(Galleon Group)の創始者だった。
 政府の判決覚書(参照:http://tinyurl.com/z36euwg.)によれば、当時の告訴人はラジャラトナムが「不法インサイダー取引の『時の人』」だと断言している。
 彼に対する訴訟は、彼自身のような南アジアからの移民らによって20年間をかけて張り巡らされた上級会社役員らの蜘蛛の巣のようなネットワークを白日の下にさらした電話盗聴に基づいている。(参照:“Trading Trial Captivates South Asians,”(取引の裁判は南アジア出身者の注意を引きつける) by Sam Dolnick, The New York Times, April 26, 2011, http://tinyurl.com/6endcx3.
 スリランカに生まれたラジャラトナムは、有名なペンシルバニア大学ウォートン・スクールに入学するために米国に移住し、MBA(経営学修士号)を取得した。ウォートンで徐々に人脈を築いて、そのネットワークは彼のスパイ活動のためのものとなり、企業機密を提供することで彼らの経歴、名声、そして自由を危険にさらすこととなった。

(初出:FRAUDマガジン56号(2017年6月1日発行))

(その3に続く)

この記事の執筆者

Andrew Snyder, LMFT, CSAC
婚姻・家族療法士、受刑者向け支援アドバイザー、経営幹部向け指導者。彼は、犯罪、刑罰や家庭について取り上げる、人気のあるポッドキャスト「Prison Life」で司会を務める。
※執筆者の保有資格、所属、肩書等は記事初出時のものである。

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2020.06.05 16:43:11