DESは本当に相続税対策になるのDESか?

1 相続税の法定申告期限は、相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内(相続税法27条①)。
被相続人が9月に亡くなって相続開始があった年の翌年7月に受任した事件がありました。
法定申告期限は、あと1か月そこいらに迫っていましたが、相続人の一部が相続税申告書にハンコを押すのを渋り、このままでは法定申告期限に間に合わず、あわや不申告加算税、延滞税を支払わざるを得ない事態になりそう。
2 そこで、私は、相続税申告書にハンコを押すのを渋る相続人らに「未分割の申告」を勧めて、なんとか相続税の申告を無事に済ますことが出来ました。
「未分割の申告」というのは、法定申告期限内に遺産分割が完了していない場合、各相続人が、「民法の規定による相続分」又は包括遺贈の割合に従って、相続財産を取得したものとみなして、相続税の課税価格を計算して、とりあえず申告するやりかたのことです。
3 私は、相続税の申告を担当する税理士さんが作成した資料に目を通したときに、遺産の1つである、同族会社の株式について、経営者貸付金のDESをしたことが目に入り、ある疑問がわきました。
その同族会社の顧問税理士が実は今回の相続税の申告を担当していました。
4 私は、その相続税の申告を担当する税理士さんの事務所を訪れた際、その税理士さんに、私の例のある疑問を率直にぶつけてみました。
「DESは本当に相続税対策になるのDESか?」
そのときは、相続人らによる相続税申告書への自署・押印が済み、税理士さんは私の疑問について特に言われませんでした。
5 ところが、私が事務所に帰ってしばらくして、件の税理士さんから電話があり、「先生(私のこと)、(経営者貸付金のDESは)税務署から否認されるでしょうか?」経営者貸付金問題は、私が「企業法務・会計研究会」という弁護士、公認会計士、税理士、司法書士、社労士等のシッポに「士」のつく、いわゆる「士業」の人たちの勉強会で私が発表したテーマですが、弁護士である私が税金の専門家の税理士さんから質問を受けて、いささかビックリ。
6 ここでいう「DES」とは何でしょうか?
「DES」とは、「デットエクイティスワップ」を略したもので、貸付金を現物出資して、資本組み入れをすることです。これは、経営者貸付金の相続税対策として、一時は全国の税理士さんの間ではやり、大げさですが一世を風靡(ふうび)したやり方です。
7 中小企業では、会社の資金繰りが悪化したときに、経営者である社長がその個人財産の中から会社の運転資金等のために会社に貸し付けて会社の資金繰りを賄うようなことはよくあることです。
社長の会社に対する貸付金も社長が亡くなったときは、社長個人の相続財産として相続税の評価の対象となります。
8 社長の会社に対する貸付金の相続税評価はどうなるのでしょうか?
会社に対する貸付金は相続税法上、その元本の価額 + 既経過利息の合計額で評価するのが原則です(財産評価基本通達204)。
しかしながら、会社の財務に余裕がないから社長がなんとかして貸付を行うのですから、なかなか経営者貸付金の会社からの回収は困難です。
それなのに、社長が亡くなれば、社長の会社に対する貸付金が相続財産として、元本の価額のとおりの相続税の評価がなされ、貸付金のうち未回収部分は相続税の課税対象となるというのでは残された亡くなった社長の遺族にとっては踏んだり蹴ったりの話です。
9 そこで、経営者貸付金についての相続税対策の1つとして考案されたのが「DES」です。
貸付金が株式に換り、貸付金債権の評価ではなく、取引相場のない株式の評価になり、相続税評価額を引き下げることが出来る場合があるといわれます。
しかしながら、注意点があります。債務者である会社(同族会社)が債務超過状態にある場合、例えば1000万円の債権の代わりにもらった株式の評価がゼロ円であれば、経営者は1000万円の債権放棄をして、会社に債務免除益が発生したと税務署から認定される可能性があります。
この場合繰越欠損金を超える免除益が発生しないかどうかの検討が必要です。
また、繰越欠損金の範囲内でも、他の株主に対する「みなし贈与」の可能性はチェックが必要。
10 今回のある同族会社の場合、経営者貸付金のDESをした当時、繰越欠損金はなく、むしろ現金いっぱいの優良会社だったようです。
私がその税理士さんに場合によっては相続税対策にならないこともあると言って電話での話を終えようとしたとき、その税理士さんは「会社には返そうと思えば、返すだけの金はあったんだけど」と一言何かぼやくようにつぶやきました。
そのとき、私は気づかず、その税理士さんのぼやきの言葉だけが耳に残り、しばらくしてその会社は債務超過どころか弁済能力十分であったとその税理士さんは言いたかったのだと気づきました。
私は、また税理士さんに電話をかけて、「会社に十分な弁済能力があれば免除益は発生しないでしょう。相続税対策にはなるでしょう。」と告げました。
ただ、私には「経営者貸付金を返すことができるだけの現金があれば、なぜ現実に返済しなかったのか?」という新たな疑問がわきました。この疑問については別の機会に述べたいと思います。
11 このように相続税の申告をめぐってトラブルがあったときは、多くの場合、相続税の申告を頼まれた税理士さんが相続人の間を事実上調整することになるのでしょう。
ただ、税理士さんが相続人全員から税理士委任状を取り付けて申告書作成をされる場合、相続人の間に対立がなければ良いのですが、対立がある場合、税理士さんには利益相反問題が生じます。
ですから、税理士さんは申告書作成に専念して、相続人の間のトラブル解決には弁護士が関わることが適切であると信じます。そのような場合、弁護士は相続人の一人だけからしか委任状をもらいませんので、利益相反問題は起きません。
弁護士は決して税金の専門家ではありませんが、専門家である税理士さんとコラボできると思います。知り合いの税理士さんから聞いた話ですが、遺産の額が2億円を超えると、税務署の税務調査が入る可能性が高いとのことです。
国税不服審判や税務訴訟になってからでは、納税義務者が国相手に訴訟などで勝つことは相当困難です。税務署は納税義務者相手に国家として総力を挙げて戦うからです。
税務調査時点であくまでも税理士さんの税金の専門知識を踏まえて、弁護士はその知識を前提として理屈を付けて税務署相手の書面を作成して、紙爆弾をぶつけるのは弁護士の得意技です。
税理士さんは、税金にくわしくても、裁判などのトラブル解決は専門家ではないはずです。税理士さんと弁護士はそれぞれの専門知識を生かし、弁護士の立場で税理士さんに質問したりして協力することは出来るはずです。福岡市在住の方の場合、福岡市天神にある当法人の福岡オフィスに赴き、そこでお話を伺います。何かご相談があれば、当法人北九州オフィスの電話093-967-1652に電話して弁護士永留を呼び出して下さい。