収益認識の注記を定める改正会社計算規則が公布
法務省は10月15日、『「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について』を公表した。
本改正は、収益認識に関する会計基準(以下「収益認識会計基準」)の導入に対応して、会社計算規則を改正し、収益認識に関する注記として、「会社の主要な事業における顧客との契約に基づく主な義務の内容」と「前号の義務に係る収益を認識する通常の時点」を注記表で開示する旨を定めるというもの。
会社計算規則改正案115条の2
1項 収益認識に関する注記は、会社が顧客との契約に基づく義務の履行の状況に応じて当該契約から生ずる収益を認識する場合における次に掲げる事項を注記することを求めている。
一 当該会社の主要な事業における顧客との契約に基づく主な義務の内容
二 全号の義務に係る収益を認識する通常の時点
(2項:省略)
法務省は今年の7月27日から8月31日にかけてパブリックコメント案を公表し、意見を求めていた。
これによると、会社計算規則に収益認識に関する注記についての規定を設けるべきではないとの意見が寄せられていたことが分かった。
理由は次の4つ。
・会社計算規則を適用する一方で、収益認識会計基準を適用しない企業もある以上、会社計算規則において収益認識に関する注記を一律に要求すべきではない
・収益認識会計基準における開示については、企業会計基準委員会が2021年3月までに、開示内容を決定する予定であり、現時点においては、開示内容の全貌が明らかとなっていないため、その一部について、新たに注記を求める条項を追加するのは望ましくない
・パブコメ案により提案されている注記事項は、重要な会計方針に関する注記(会社計算規則101条)に該当することとなれば、重要な会計方針に関する注記として記載すべき内容であり、新たに注記を求めるべきではない
・財務諸表等規則等において開示が要求されたとしても、概要の開示が求められている会社計算規則において開示を求めるべきではない
これに対して法務省は、会社計算規則115条の2第1項の「会社が顧客との契約に基づく義務の履行の状況に応じて当該契約から生ずる収益を認識する場合」とは、法務省によれば「会社が収益認識会計基準を適用する場合」を指しており(パブコメに寄せられた意見に対する法務省の考え方の1ページを参照)、収益認識会計基準を適用しない会社においては収益認識に関する注記は不要であり、一律に要求しているわけではないとの考え方を示している。
そのほか、収益認識会計基準80項では、顧客との契約から生じる収益について、「企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点」の注記を求めているところ、上記の会社計算規則改正案115条の2では、「主な義務の内容」と規定しており(上表中の赤字を参照)、会計基準における「主な履行義務の内容」と異なる文言を用いていることから、収益認識会計基準と同じ「主な履行義務の内容」に文言を統一すべきとの意見(日本公認会計士協会)も寄せられていた。
この意見に対して法務省は、「主な履行義務の内容」にせずに「主な義務の内容」にしたのは、「我が国の法令において用いられている用語との平仄等も考慮しつつ、敷衍したものである」としたうえで、「会社計算規則の用語の解釈に関しては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準をしん酌しなければならないとされており(会社計算規則第3条)、本省令案により会社計算規則の改正を行うこととした経緯等も踏まえれば、原案の会社計算規則第115条の2第1項が、収益認識会計基準第80項が定める注記事項と同一の事項について注記を求めていることは明らかであるから、御指摘のような誤解が生じるおそれはない」として文言を修正することは不要としている。法務省では他の法令で使われてない用語である「履行義務」を使うと他の法令と平仄が取れなくなるとのこだわりがあった模様。
以上より、パブコメ案に対する意見は不採用とされ、パブコメ案から修正がないまま、10月15日に会社計算規則の一部を改正する省令が公布されている。