MD&Aと【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】の整合性
ROEや営業利益率等「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標」(以下、経営上のKPI)を持たない会社は少ないであろう。KPIを持たなければ経営は無軌道なものになりかねず、経営資源の投入や撤退の判断も「勘」に頼らざるを得なくなる。また、経営上のKPIがなければ業務執行役員もモチベーションを維持できず、業務執行役員に対する業績評価もできなくなる。
経営上のKPI には投資家も注目している。投資家が経営陣と対話をするに当たり、KPIが切り口となるからだ。2018 年3月決算より、最近日現在において連結会社(連結財務諸表を作成していない場合には提出会社)が経営方針・経営戦略等を定めている場合に、有価証券報告書の【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】に当該経営方針・経営戦略等の内容を記載するとともに、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、その内容について記載することを求められることとなったのは、投資家からの要請を受けてのもの。また、従来の【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】に代わり、新たに【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】(いわゆるMD&A:Management's Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations)を開示することとなり、そこでは「経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、当該経営方針・経営戦略等又は当該指標等に照らして、経営者が経営成績等をどのように分析・検討しているかを記載する」こととなったのも、投資家の要請だ。
この改正により、経営上のKPI を有している会社では、【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】とMD&Aの双方で当該KPIに関する記載を整合的に行う必要が生じることとなった。しかし、有価証券報告書の【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】に記載されている経営上のKPIとMD&Aに記載されている経営上のKPIが異なっていたり、どちらかの記載が漏れていたりして、訂正報告書を提出するケースも出てきている。開示担当者は、有価証券報告書の作成にあたって、両項目の記載が整合しているかどうか、注意するようにしたい。