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シリーズ「法人税・グレーゾーンの税法解釈」(前編)

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<シリーズのはじめに当たって>

 租税法の基本原則の一つに「課税要件明確主義」という原則がある。

 課税要件明確主義とは、課税要件についての定めはなるべく一義的で明確でなければならないという原則である。租税法規が一義的で明確でないときには、納税者は自らの行動の結果として生じる税負担を予測できなくなってしまう。また、租税の執行において行政に判断の幅を与えてしまい、実質的に課税・非課税の判断が課税当局の匙加減ひとつで左右され、憲法が規定する租税法律主義の原則が空文化してしまうことにつながるからであると説明されている。

 しかしである。あらゆる経済事象や経済取引をあらかじめ想定してそれぞれの具体的事実に即して課税要件を個別に法令上これを定めることは、およそ不可能な事柄ともいえる。また、画一的・機械的な規定がかえって実情に応じた課税の妨げになり杓子定規な課税が横行することも考えられる。このため、租税法令や国税庁通達では課税要件に関し、例えば「不相当に高額」「著しい低下」「通常要する費用」「おおむね」「社会通念上一般的に」などという、一定の幅を持つ抽象的な概念で規定しているケースが見受けられる。

 また、言葉の意味自体は明確だがその内容において解釈の余地が大きいな規定も少なくない。例えば「交際費」、「修繕費」そして「寄附金」などについては、言葉の意味としては明確と言えるが、類似費用や隣接費用との境目が明確でない、いわゆる税務上のグレーゾーンと言われる領域が多数存在している。

 これらのグレーゾーンの存在は、実務家をおおいに悩ましている。本シリーズではこれらの税務上のグレーゾーンと言われる個々の規定ごとにその解釈基準や判例等などを取り上げ参考に供する。

グレーゾーンその1「交際費と隣接費用」

1 交際費課税の基本的構成

 企業の支出する交際費は、事業を遂行する上で必要な支出であり基本的には、法人税法上、損金に算入されてしかるべき性格を有する支出と言える。しかし、現行税法では、租税特別措置法の規定により、企業の冗費の節約を通じて内部留保の充実、企業の体質の強化を図ることを目的として、損金算入を制限する措置が講じられている。

 このため、法人の支出する費用が交際費等に該当するか否かは課税所得の計算に大きく影響することになる。法人の支出する費用が租税特別措置法が規定する「交際費等」に当たるとなれば損金不算入の対象とされるが、そうではなく給与、福利厚生費、寄附金、広告宣伝費、販売促進費等の隣接費用に当たるということになれば交際費課税の対象にはならない。交際費課税に関するグレーゾーンここにある。

2 交際費等の範囲に関する法令・通達の規定等

 交際費等の範囲に関する法令の規定(租税特例規定法)及び国税庁通達が示す解釈基準は次のとおりとされている。

(1) 法令の規定振り

 交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人がその得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう」(措法61の4④)。ただし、次に掲げる費用は交際費等から除かれる(措法61の4④、措令37の5)。
① 専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用

② 飲食その他これに類する行為のために要する費用(専らその法人の法人税法上の役員若しくは従業員又はこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除く。)で、その行為に参加した者1人当たりの金額が5000円以下の費用

③ カレンダー、手帳、扇子、うちわ、手拭いその他これらの類する物品を贈与するために通常要する費用

④ 会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用

⑤ 新聞、雑誌等の出版物又は放送番組を編集するために行われる座談会その他記事の収集のために、又は放送のための取材に通常要する費用
(2) 国税庁通達による取扱い基準

国税庁は、上記の法令の解釈として大要次のような事例を解釈の指針通達として示している

 イ 交際費等に該当する費用(措通61の4(1)—15)

① 会社の何周年記念または社屋新築記念における宴会費、交通費および記念品代ならびに新船建造または土木建築等における進水式、起工式、落成式等におけるこれらの費用

② 下請工場、特約店、代理店等となるため、又はするための運動費等の費用

③ 得意先、仕入先等社外の者の慶弔、禍福に際して支出する金品等の費用

④ 得意先、仕入先その他の事業に関係のある者等を旅行、観劇等に招待する費用

⑤ 製造業者又は卸売業者がその製品又は商品の棚卸業者に対し、その棚卸業者が小売業者を旅行、観劇等に招待する費用の全部又は一部を負担した場合のその負担額

⑥ いわゆる総会対策等のために支出する費用で、総会屋等に対して会費、賛助金、寄付金、広告料、購読料等の名目で支出する金品の費用

⑦ 建築業者等が高層ビル、マンション等の建設に当たり、周辺の住民の同意を得るためにその住民又は関係者を旅行、観劇等に招待し、又は酒食を提供した場合におけるこれらの行為のために要した費用

⑧ スーパーマーケット業、百貨店業等を営む法人が既存の商店街等に進出するに当たり、周辺の商店等の同意を得るために支出する運動費等の費用

⑨ 得意先、仕入先等の従業員に対して取引の謝礼等として支出する金品の費用

⑩ 建設業者等が工事の入札等に際して支出するいわゆる談合金その他これらに類する費用
   
 ロ 交際費等に該当しない費用

① 寄附金に該当する費用
  事業に直接関係ない者に対して金銭、物品等の贈与をした場合において、それが寄附金であるか交際費等であるかは個々の実態により判定すべきことになるが、次のようなもので金銭でした贈与は原則として寄附金として取り扱われる(措通61の4(1)-2)
   ㋑ 社会事業団体、政治団体に対する拠金
   ㋺ 神社の祭礼等の寄附金
  
② 契約等に基づき支払う情報提供料
  法人が取引に関する情報提供等を行うことを業としていない者に対して、情報提供等の対価として金品を交付するために要する費用は、原則として、交際費等に該当しないことになる。その金品の交付が正当な対価の支払であると認められるときは、交際費等に該当しないものとして取り扱われる(措通61の4(1)-8)。
 
③ 売上割戻しの基準により事業用資産、少額物品を交付するための費用
  売上割戻しに係る費用はその得意先の収益に計上されるものであり、支出する法人では、交際費等に該当しないこととされている(措通61の4(1)-3)。 
  しかし、売上割戻しと同一の基準による場合であっても、その費用が物品の交付又は旅行、観劇等の招待である場合には、原則として、交際費等に該当するものとして取り扱われる。
  
④ 一般消費者を対象とした広告宣伝のための費用
   不特定多数の者に対する宣伝効果を意図して支出される広告宣伝費については、交際費等に該当しないこととされている(措通61の4(1)-9)。
 
⑤ 自社製品等の被災者に対する提供費用
  不特定又は多数の被災者を救済するために緊急に行う自社製品等の提供に要する費用は、広告宣伝費に準ずるものとして取り扱われる(措通61の4(1)-10の4)。
 
⑥ 取引先に対する災害見舞金等
  災害を受けた特約店、取引先、得意先、下請先等の取引先との従前の取引関係を維持・回復するため、その取引先の復旧過程で災害見舞金の支出又は事業用資産の供与若しくは役務の提供のために要した費用は、交際費等以外の費用としてその全額が損金の額に算入される(措通61の4(1)-10の3)。

後編へ続く



執筆者情報

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税理士 小畑 孝雄

昭和41年東京国税局入局、国税庁法人税課、国税不服審判所勤務等を経て平成16年東京国税局法人課税課長、18年同調査第2部長を歴任し19年退官、税理士登録(日本橋支部所属)

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