HOME コラム一覧 特定口座内の株式等の譲渡収入の計上時期 その1

特定口座内の株式等の譲渡収入の計上時期 その1

post_visual

1 計上時期は引渡し日に限られているとした裁決事例

 譲渡所得の収入金額の計上時期は、一般的には約定日と引渡し日のいずれかを選択することができるものと理解していたところ、最近、特定口座内の株式等の譲渡収入の計上時期は株式等の引渡し日(受渡し日)に限られるとの裁決(平成29年5月8日)があった。この裁決の要旨を筆者なりに整理すると次のとおりである。

イ 金融商品取引業者等は、次に掲げることから、受渡し日を基準として所得計算を行っていたといえる。

 a 金融商品取引業者等に設定する「特定口座」には、特定口座内の上場株式等の譲渡所得等について所得税及び住民税の源泉徴収を行う「源泉徴収選択口座」と、源泉徴収を行わない「簡易申告口座」とがある。これらの特定口座において上場株式等の譲渡等をした場合のその譲渡等による所得については、その金融商品取引業者等が譲渡所得等の金額の計算を行い、「特定口座年間取引報告書」を作成して顧客に交付することになっており、その報告書を所得税の確定申告書に添付することができることになっている。この特定口座内において処理される収入金額等の計算は受渡し日を基準として行われ、それに基づいて特定口座年間取引報告書も作成されている。
 b 特定口座源泉徴収選択届出書の提出期限は、上場株式等の譲渡等に係る受渡し日とされている。
 c その譲渡に係る所得税及び住民税の源泉徴収は、受渡し日に行われている。

ロ 源泉徴収選択口座の制度を利用することを選択した者は、上記イのとおり、受渡し日を基準に金融商品取引業者等が収入金額及び必要経費等の計算を行うことを前提に同制度を選択したものと解されるため、同制度において前提とされる計算と異なる日(約定日)を選択して申告を行うことは予定されていないと解すべきである。

 この裁決事例は、源泉徴収選択口座内の譲渡損益の帰属年分に関するものであるが、源泉徴収選択口座に限らず特定口座一般に共通する問題を抱えている(源泉徴収選択口座は特定口座に含まれる。)。

 すなわち、株式等に係る譲渡所得等の収入金額の計上すべき時期については、株式等の引渡しがあった日によることとされているが、納税者の選択により、株式等の譲渡に関する契約の効力の発生の日(約定日)によることができることとされている(措通37の10・37の11共-1(1))。このため、例えば、平成29年中に約定した売買契約に係る株式等の受渡しが翌年の平成30年に行われた場合には、その譲渡損益の帰属年分は、平成29年と平成30年のいずれかを選択することができる。

 上場株式等に関しては、年分ごとに、その譲渡損益間において差引計算をすることができるとともに、上場株式等に係る配当所得等との損益通算や繰越控除をすることもできることとされているため、納税者(投資家)にとって、上場株式等の譲渡損益をいずれの年分に帰属させるかが重要になるケースが生じる。にもかかわらず、源泉徴収選択口座も含め特定口座内の株式等を譲渡した場合の譲渡損益については、その帰属年分が引渡し日の属する年分に限定されることになるのかといった問題があるわけである。

2 譲渡収入の計上時期に関する筆者の所見(9月27日掲載予定)

執筆者情報

profile_photo

税理士 小田 満

 国税庁勤務22年の後、町田・横浜南・板橋の各税務署長を経て、平成19年税理士登録。
 主な著書は、「図表でわかる新税制による金融商品課税の要点解説」、「Q&A プロ選手・開業医・芸能人等の特殊事情に係る所得税実務」など多数。

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

会計人 税金コラム

記事の一覧を見る

関連リンク

課税単位についての考察 その2

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2018/img/thumbnail/img_31_s.jpg
 譲渡所得の収入金額の計上時期は、一般的には約定日と引渡し日のいずれかを選択することができるものと理解していたところ、最近、特定口座内の株式等の譲渡収入の計上時期は株式等の引渡し日(受渡し日)に限られるとの裁決(平成29年5月8日)があった。この裁決の要旨を筆者なりに整理すると次のとおりである。イ 金融商品取引業者等は、次に掲げることから、受渡し日を基準として所得計算を行っていたといえる。 a 金融商品取引業者等に設定する「特定口座」には、特定口座内の上場株式等の譲渡所得等について所得税及び住民税の源泉徴収を行う「源泉徴収選択口座」と、源泉徴収を行わない「簡易申告口座」とがある。これらの特定口座において上場株式等の譲渡等をした場合のその譲渡等による所得については、その金融商品取引業者等が譲渡所得等の金額の計算を行い、「特定口座年間取引報告書」を作成して顧客に交付することになっており、その報告書を所得税の確定申告書に添付することができることになっている。この特定口座内において処理される収入金額等の計算は受渡し日を基準として行われ、それに基づいて特定口座年間取引報告書も作成されている。 b 特定口座源泉徴収選択届出書の提出期限は、上場株式等の譲渡等に係る受渡し日とされている。 c その譲渡に係る所得税及び住民税の源泉徴収は、受渡し日に行われている。ロ 源泉徴収選択口座の制度を利用することを選択した者は、上記イのとおり、受渡し日を基準に金融商品取引業者等が収入金額及び必要経費等の計算を行うことを前提に同制度を選択したものと解されるため、同制度において前提とされる計算と異なる日(約定日)を選択して申告を行うことは予定されていないと解すべきである。 この裁決事例は、源泉徴収選択口座内の譲渡損益の帰属年分に関するものであるが、源泉徴収選択口座に限らず特定口座一般に共通する問題を抱えている(源泉徴収選択口座は特定口座に含まれる。)。 すなわち、株式等に係る譲渡所得等の収入金額の計上すべき時期については、株式等の引渡しがあった日によることとされているが、納税者の選択により、株式等の譲渡に関する契約の効力の発生の日(約定日)によることができることとされている(措通37の10・37の11共-1(1))。このため、例えば、平成29年中に約定した売買契約に係る株式等の受渡しが翌年の平成30年に行われた場合には、その譲渡損益の帰属年分は、平成29年と平成30年のいずれかを選択することができる。 上場株式等に関しては、年分ごとに、その譲渡損益間において差引計算をすることができるとともに、上場株式等に係る配当所得等との損益通算や繰越控除をすることもできることとされているため、納税者(投資家)にとって、上場株式等の譲渡損益をいずれの年分に帰属させるかが重要になるケースが生じる。にもかかわらず、源泉徴収選択口座も含め特定口座内の株式等を譲渡した場合の譲渡損益については、その帰属年分が引渡し日の属する年分に限定されることになるのかといった問題があるわけである。
2018.09.19 17:19:53