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「騙すつもりはなかった」 不正行為の正当化と故意 (その3 全4回)

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‘I didn’t intend to deceive anyone’ Fraud rationalization and the guilty mind

 しかし、ファストウは、2013年の第24回 ACFEグローバル・カンファレンスにおいても、依然として自分のしたことはただのミスであって犯罪行為ではないと主張し、自分のメンズ・レアを最小にしようとしていたことは非常に興味深いことである。「自分のしたことが多くの投資家の判断を誤らせたことは分かっている。しかし、私はそれが違法だとは思っていなかった。ゲームがそのように行われただけだ。複雑なルールがたくさんあったら、貴方達だってそれを自分が有利になるように使うでしょう。私が犯した間違いもそれと同じだ」
(参照: “Debunking the Myth of the Out of Character Offense,” by Frank S. Perri, Richard G. Brody, Justin M. Paperny, originally published in the Journal of Forensic & Investigative Accounting, Vol. 6, Issue 2, 2014, at http://tinyurl.com/ndjrosw.)
 犯罪者はその行動の背後にある意思をほとんど語らないため、故意が存在したかどうかを判断するには、陪審員や裁判官の事実認定者は犯罪行為やその範囲に関する知識を固めるため全ての環境について考慮することが許される。もし、メンズ・レアが直接証拠によってのみ立証されるのなら、調査の対象となり、責任を追及され、起訴される犯罪者はほとんどなくなるだろう。
 間接証拠は、他の出来事や結論を導くための合理的な推論の根拠をもたらす環境によって事実を証明するものだ。例えば、従業員が休暇を取っている間に、不正検査士が不正を見つければ従業員がいる時に不正が行われたことになる。しかし、従業員が休暇の間に不正の証拠が発見できなければ、その証拠は従業員が不正に関与したという推定(間接証拠)でしかない。もし、ある従業員が休暇を取っており、不正検査士がその従業員の出社中に不正が行われたことを発見したが、休暇中に証拠が発見されなければ、そういった証拠はその従業員の不正に関与したという推定を裏付ける証拠として使用することができる。

知識・認識(Knowledge)

 認識は、違法な結果を生じるリスクを作り出す不正行為者の自分の行動への「意図的な無関心」のことである。犯人は、自分の行為の性質を自覚しており、無知、誤り、偶然によって行動したのではない。ある人にメンズ・レア分類の中の「認識」のある犯罪に対する刑事責任を負わせるのに必要な心理状態が存在したかどうかを判定するためには、犯人の行動の結果に焦点を当てる必要がある。例えば、群衆に向かって銃を発砲する人は意図的に行動している。何故なら他の人々を肉体的に傷つけたり死に至らしめたりする危険にさらしていることを経験的に確信しているからだ。加害者は誰も殺したくなかったかもしれないが単に殺意がなかったというだけで、そのような行為の危険は許されるはずもない。その人に殺人の意思があったかどうかは関係ない。法律では、犯人が特定の結果を望んだかどうかに関わらず、その行動によって生じた特定の結果が有害であることが重要視される。
 職業上の不正を犯した者は、自分が罪を犯したとしても、不正を行うメンズ・レアはなかったと主張するだろう。なぜなら、最終的にはその金銭を返すつもりだったと、本人は信じているからである。しかしながら、重要なのは正当な権限無しに組織の資産を奪ったという犯人の行動の結果であって、自分の行動をどう説明するかではない。たとえ犯人がちょっと借りただけだと思っていて、彼の心の中では犯罪ではないとしても、内部統制の弱点を利用して経済的利益を得るようなことは、組織の財務状況を悪化させると知っていてやったことに変わりない。ここで問題となるのは、個人の動機ではなくて 犯人の行動の結果どうなったか、なのである。
 1999年に始まったワールドコム(WorldCom)事件の事例を見てみよう。ワールドコムは、四半期決算の結果が会社と金融業界が定めた無謀な売上目標を達成するため、四半期決算の後で巨額の調整仕訳を入れ始めた。SECの報告書(2003年, http://tinyurl.com/mmh5n3a) には、ワールドコムの月次の売上報告書(社内では 「MonRev report」と呼ばれていた)に、売上目標(必要な金額)と実際の売上の差額を計算した手書きの文書を発見した、と記載されている。一度両者の差異を調整したら、業績目標を達成するためその不足を補う仕訳も必要になる。
 CEOのバーニー・エバース(Bernie Ebbers)は、CFOのスコット・サリバンとその部下が財務報告書不正を自分に隠していたという主張を貫いた。エバースは言った。「非常にショックを受けた・・・。信じられなかった。こんなことが起こっていたなんて考えもしなかった。その仕事に彼らを起用したのは私だ。彼らを信じていたのに何ということだ」
(参照:“Visionaries or False Prophets” by Frank S. Perri, 2013, from the Journal of Contemporary Criminal Justice, at http://tinyurl.com/lsurlng.) それに対してサリバンは、「エバースは粉飾決算のことを知っており、エバースがサリバンに対し、ウォール・ストリートに収益警告(earnings warning)を出さないように指示したので、利益操作に対して OKを出したのと同じだ」と証言した。

(その4 に続く)
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初出:FRAUDマガジン44号(2015年6月1日発行)

この記事の執筆者

Frank S. Perri, J.D., CFE, CPA
ウィネベーゴ郡(County of Winnebago)の弁護士

Edyta M. Mieczkowska, CFE, CAMS
MBフィナンシャル・バンク(MB Financial Bank)の金融犯罪に関するリスクマネジメントのアドバイザリー・オフィサー(advisory officer)
※執筆者の所属等は本記事の初出時のものである。

翻訳協力者:佐藤恭代、CFE、CPA(ワシントン州)

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 しかし、ファストウは、2013年の第24回 ACFEグローバル・カンファレンスにおいても、依然として自分のしたことはただのミスであって犯罪行為ではないと主張し、自分のメンズ・レアを最小にしようとしていたことは非常に興味深いことである。「自分のしたことが多くの投資家の判断を誤らせたことは分かっている。しかし、私はそれが違法だとは思っていなかった。ゲームがそのように行われただけだ。複雑なルールがたくさんあったら、貴方達だってそれを自分が有利になるように使うでしょう。私が犯した間違いもそれと同じだ」(参照: “Debunking the Myth of the Out of Character Offense,” by Frank S. Perri, Richard G. Brody, Justin M. Paperny, originally published in the Journal of Forensic & Investigative Accounting, Vol. 6, Issue 2, 2014, at http://tinyurl.com/ndjrosw.)  犯罪者はその行動の背後にある意思をほとんど語らないため、故意が存在したかどうかを判断するには、陪審員や裁判官の事実認定者は犯罪行為やその範囲に関する知識を固めるため全ての環境について考慮することが許される。もし、メンズ・レアが直接証拠によってのみ立証されるのなら、調査の対象となり、責任を追及され、起訴される犯罪者はほとんどなくなるだろう。 間接証拠は、他の出来事や結論を導くための合理的な推論の根拠をもたらす環境によって事実を証明するものだ。例えば、従業員が休暇を取っている間に、不正検査士が不正を見つければ従業員がいる時に不正が行われたことになる。しかし、従業員が休暇の間に不正の証拠が発見できなければ、その証拠は従業員が不正に関与したという推定(間接証拠)でしかない。もし、ある従業員が休暇を取っており、不正検査士がその従業員の出社中に不正が行われたことを発見したが、休暇中に証拠が発見されなければ、そういった証拠はその従業員の不正に関与したという推定を裏付ける証拠として使用することができる。
2018.07.05 18:24:30