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「騙すつもりはなかった」 不正行為の正当化と故意 (その2 全4回)

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‘I didn’t intend to deceive anyone’ Fraud rationalization and the guilty mind

 本稿では、メンズ・レアに対する誤解が、不正事例における職業的懐疑心にどのように影響するかを示す。さらに、不正行為者はどんな時にその犯罪スキームに思い至るのかを示すため、異なるタイプの犯罪時の心理状態の事例を紹介する。

(刑法の中には厳格責任法(strict liability laws)と呼ばれる法律があるが、これは罪の意識の特定を要しない。これらの法律では、法律違反者の心理状態に関わらず、未成年者へのアルコールの販売事例のように行為が犯罪を成立させ、刑事罰の対象となる)

刑事的有責性の差異(Shades of criminal culpability)

 犯罪者のメンズ・レアの分類は犯罪を行った人物が説明責任を回避しないように異なる事実の筋書きを調整し、犯行者に言い渡される刑罰の厳格さに影響を与える。

 有罪を証明するにはどんな心理状態が必要なのだろうか?犯罪のメンズ・レアの分類や意味はいろいろあり、司法管轄(訳注:連邦、州、郡等)や法律によって異なるため、混乱が生じうる。ひとつの心理状態を全ての犯罪者に当てはめることはできないのだ。それでも、ほとんどの不正スキームは次のメンズ・レアのうち、いずれかを立証しなければならない。
1)故意(intent)
2)知識・認識(knowledge)
3)無謀な行為(reckless conduct)

 我々はこれら3つの心理的有責性の分類を定義し適用する。何故ならば不正調査の専門家はホワイトカラー犯罪でそれらに遭遇することがあるからだ。
 不正調査の専門家で刑法にそれほど詳しくない人は、ある特定の犯罪を行う「故意」とは犯罪者の有責性を証明する唯一の心理状態だと考え、もし検察官が犯罪者の故意を証明できなければ、犯罪者の刑事責任を問うことはできないと信じているかもしれない。しかし、その考えは完全に正しいとは言えない。また、不正対策の専門家の中には、直接証拠(何の推定も要せず争点となる事実を証明できる証拠)だけが、計画性や不正実行の願望を明らかにする犯罪者の供述など意図を証明できる証拠だと考える人もいる。もしこれが真実なら、(容疑者による自白など)直接証拠によらなければ検察は故意を証明できないことになり、どの犯罪者も有罪判決を逃れるには「罪を犯すつもりは全く無かった」と言えばすむようになってしまう。
 簡単に利用できる正当化の数を考えれば、実際には何らかの犯意を持っていたことを認める犯罪者はほとんどいないだろう。しかし、訴訟当事者(検察官)は間接証拠を通して推定することにより、故意を証明することができる。
 それではメンズ・レアの主要な3つの分類を詳しく説明しよう。

故意(Intent)

 計画性と目的のある決意を持った犯罪者は、ある特定の結果が起こるのを望んでいる。
犯行の計画性の度合い、犯罪者の供述、或いはその両方により、特定の意思を示すことができる。例えば、殺人罪で起訴された人が殺人の願望があったことを認めれば、それがその人の思考や動機を明らかにする。しかしながら、動機を本稿で説明している種々のメンズ・レアの類型の同義語と混同してはならない。
 エンロンのスキームでは、ファストウに対する証券取引委員会(SEC)の告発状は、ファストウの故意を「scienter(法曹界では、故意(intent)がラテン語で表現されることがよくある)」 と呼ぶことで言及していた。「ファストウは、輸送の手段や方法を用い・・・、詐欺の意図をもって郵便を手段として用い・・・(訳者注:郵便詐欺(mail fraud)をさす)、重要な事実について虚偽の報告をすることで有価証券の勧誘や売買に関する行為に関与していた」(参照:SEC v. Andrew Fastow, 2002, http://tinyurl.com/oggn57b)

(その3 に続く)
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初出:FRAUDマガジン44号(2015年6月1日発行)

この記事の執筆者

Frank S. Perri, J.D., CFE, CPA
ウィネベーゴ郡(County of Winnebago)の弁護士
Edyta M. Mieczkowska, CFE, CAMS
MBフィナンシャル・バンク(MB Financial Bank)の金融犯罪に関するリスクマネジメントのアドバイザリー・オフィサー(advisory officer)
※執筆者の所属等は本記事の初出時のものである。
翻訳協力者:佐藤恭代、CFE、CPA(ワシントン州)

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